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「自民vs立憲」に飽き飽きした世論~安倍政治を超克するために何が必要か

偽りの政治主導では激動の時代に対応できない。参院選を受けて政治がするべきことは

福島伸享 衆議院議員

 令和の政治が抱える課題とそれへの対応を福島伸享(のぶゆき)衆院議員が考える連載「福島伸享の『令和の政治改革』」。5回目のテーマは、銃撃されて亡くなった安倍晋三元首相の評価、参院選の総括と今後の展望です。安倍元首相の突然の死去を悼みつつ、第2次以降の安倍政権が実際には権威主義的な古い日本の政治構造そのものであったという福島さん。参院選の結果を受け、令和の政治改革に何が必要なのかを語っています。(聞き手・構成/論座・吉田貴文)

※連載「福島伸享の『令和の政治改革』」の1~4回は「こちら」からお読みいただけます。

福島伸享さん=衆院議員会館

長期政権だが歴史的な業績はない安倍政権

――安倍晋三・元首相が参院選の最終盤に銃撃されて死亡した事件は衝撃的でした。

福島 安倍元首相の突然の逝去には心から哀悼の意を表します。ただ、今回の惨劇についての思いと、政治家・安倍晋三に対する評価とは分けるべきです。安倍政治が日本に何を残したのかを冷静に検証し、令和の政治改革に何が求められるか、あらためて考える必要があります。

 安倍政権は第2次以降で7年8カ月、第1次も合わせると8年8カ月と、歴代政権で最長になりました。とはいえ、任期が長かった他の政権、例えば戦後日本の独立を果たした吉田茂、所得倍増を実現した池田勇人、沖縄返還を成し遂げた佐藤栄作、国鉄や電電公社を民営化した中曽根康弘、郵政改革に取り組んだ小泉純一郎のそれと比べて、誰もがパッと頭に浮かぶ業績はありません。

 安全保障関連法も中身を見るとそれほど大きな話ではない。北方領土は返還されず、北朝鮮の拉致被害者も帰ってこない。長期政権だったので各国の首脳と人間的な関係ができ、日本外交の財産にはなりましたが、後世の教科書に載るような業績を残せたかというと、そうではないと思います。

――「安倍一強」という言葉に象徴されるように、第2次政権以降はリーダーシップを発揮したのではないですか。

偽りの官邸主導がもたらしたもの

福島 安倍政権は「官邸主導」の仕組みをうまく使い、「安倍一強」の印象を与えましたが、実はこの「官邸主導」は偽りの官邸主導です。

――偽り、ですか。

福島 この連載でも語ってきたように、「橋本行革」が想定した官邸主導は、選挙を通じて政権選択が行われ、そこで官邸や内閣に入った政治家が国民の意思を背景に政府を動かすというものでした。これに対し、安倍政権の官邸主導は、官邸に入った官僚、いわゆる「官邸官僚」が主導する政治主導です。私は、アベノミクス(注1)の「三本目の矢」がうまくいかなかったのも、この偽りの官邸主導のゆえだと考えています。

注1:安倍首相が第2次政権で掲げた経済政策の通称。「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」の三つの柱(三本の矢)からなる。

――どういうことでしょうか。

福島 民主党から政権を奪取した安倍さんがアベノミクスを掲げ、一本目の柱の「大胆な金融緩和」を断行したり、二本目の矢の「積極的な財政政策」を行ったりしたところまでは、鮮やかだったと思います。ところが、三本目の矢の「民間投資を喚起する成長政略」は失敗しました。本当にやるべきことをやらなかったからです。

 平成以降、日本経済が停滞した要因の一つは、日本的な会社のあり方にあります。大学を出て会社に入り、終身雇用の中で出世レースに勝った人が経営者になり、国内のシェア争いに明け暮れ、任期が来たら去っていく人事の仕組み。経団連を中心とする大企業のあり方。大企業と下請の中小企業の関係など、日本の企業や企業文化そのものを見直さなければならなかったのに、手を付けませんでした。経団連から多額の献金をもらい、経済財政諮問会議などの政府の審議会などに人材を受け入れている政権では、できっこないのです。

 結局、成長戦略としてでてきたのは、経済産業省的な一時しのぎの産業戦略に過ぎなかった。ターゲッティングポリシーといわれる、環境やITなど分野を絞った戦略を霞が関が描き、それに沿って企業が行動するという、日本で失敗を繰り返してきたやり方を続けるだけでした。官邸官僚主導の限界です。

 そんな政策で、生き馬の目を抜くグローバルな競争で勝ち抜く企業が出てくるわけがありません。安倍政権は、結局官邸官僚以外に政策立案の資源がなかったため、従来の政策の延長しかできなかったのです。

――官僚的な発想では、民間の投資マインドを引きつける施策を講じることはできなかったわけですね。

首相官邸=2021年9月7日、東京・永田町、朝日新聞社ヘリから

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あまりにも古い権力構造

福島 そうです。安倍政権にはこの他にも問題があります。権力構造があまりにも古いというのもそのひとつ。私は“東洋的専制主義”と呼んでいるのですが、これは小泉純一郎政権と比較すると明らかです。

 小泉首相は郵政民営化を実現するため、自民党の論理を無視して衆議院の解散に打ってでました。自らが進めたい政策を示し、国民に選択を迫ったわけです。これは、ある意味で二大政党時代のあるべき政治の姿だったのです。

 理念が明確な政策を選挙で国民に示し、賛同を集めれば政治主導で実現するというやり方を、それなりに行ったのが小泉政権だとすれば、安倍政権は確かに国政選挙は連戦連勝だったかもしれませんが、国民の側に何かを選んだという意識はないと思います。それは安倍政権が理念に基づく具体的な政策を提示していないからです。

 自民党総裁に返り咲いた安倍氏が初めて挑んだ2012年衆院選のキャッチコピーは「日本を、取り戻す。」でした。具体性を欠く、情緒的な、愛国意識みたいものなのに訴えるやり方は、55年体制で見られた、保守か革新か、自由主義が共産主義かといったイデオロギー的な対立のを持ち出して選択を迫る、非常に古い方法です。

 2014年の衆院選では「景気回復、この道しかない。」というキャッチフレーズを打ち出しています。「この道は正しいのだから、お任せください」と、「白紙委任」を求めるやり方です。いずれも、国民に具体的な選択肢を示し、選んでもらうというものではありません。

――情緒的で選択肢を示さない政治は、多様さを増す今の時代にそぐわないのではないでしょうか。

福島 ええ。それゆえ、さまざまな問題が生じました。ひとつは、お互いがお互いの陣営を叩き合う状況が、ネットなどで生まれたことです。「悪夢の民主党政権」には「アベ政治を許すな」で対抗するという具合に、世論の分断が顕著になりました。

 こうした傾向はさらに進み、権威と権力が一体となり、「政府に反対する人は非国民だ」という風潮さえ生まれました。この「権威主義」が引き起こしたのが、森友・加計学園や「桜を見る会」の問題であり、統計や公文書の改ざんといった、客観的で公正であるはずのインフラが毀損(きそん)されるという事態でした。

「桜を見る会」であいさつする安倍首相(当時)=2019年4月13日、東京都新宿区の新宿御苑(代表撮影)

「内なる近代化」を実現していない日本

――先ほど、東洋的専制主義と言われましたが、日本には「権威主義」がはびこる土壌があるのでしょうか。

福島 日本は明治以降近代化をしたように見えながら、、夏目漱石が言う「内発的」な「内なる近代化」が実現していません。立憲政治や政党政治、普通選挙を導入し、見かけは民主主義なのですが、国民が自らの価値観に則って投票し、結果について自ら評価をくだす、自立した人間を前提とする民主政治は未成熟で、ともすると、長い物にまかれたり、権威にすがったりします。

 55年体制の頃はそれでよかった。自民党は単なる「社会主義化」を防ぐという意味での「保守」政党ではなく、国民皆保険をはじめとする社民主義的な政策も取り込む“国民政党”だった。だから、自民党に任せておけば、仕事もあるし、適正な配分もしてくれるという「神話」が成り立ちました。国民にも「政権選択」が必要だという発想はありませんでした。

福島伸享さん=衆院議員会館

 冷戦の終焉とともに始まった平成時代、55年体制が幕を下ろし、衆議院に小選挙区制度が導入されて、自民党と民主党による二大政党が並立する政治状況が生まれました。国民にも「政権選択」を求める意識が芽生え、2009年、民主党による歴史的な政権が実現しました。

 ところが、国民の期待を託された民主党政権が、わずか3年で瓦解してしまった。「政権選択」をした国民の多くは民主党政権の失敗を見て、「やはり自民党しかない」「自民党に任せれば大丈夫」というかつての意識に先祖返りしてしまいました。

 本来、民主政治とは、まさに国民が主権者であって、国民の意思を実現する政府を国民による投票によってつくるものなのに、日本ではいつまでたっても国民が「統治の客体」として、政府に何かをやってもらう「お客さん」でい続けてしまっています。

 問題は今、日本が置かれている社会情勢や国際環境、技術革新が、かつてとはまったく違っているということです。こうした変化に対応できるよう、民主的なプロセスを通じて国民を巻き込み、国民の意思で国を動かしていかなければならないのに、第2次安倍政権の7年8カ月間の間に、その必要がなくても大丈夫なように国民に思わせてしまいました。現在の日本が陥っている苦境はその結果です。

――自民党内にそうした現状に対する危機感はないのでしょうか。

福島 現在、自民党は2012年に安倍政権が誕生して以降政治家になった議員が、衆参ともに過半数を占めています。彼らの多くは、「安倍一強」のなかで権威主義的なものを受け入れてきました。

 そういう議員たちは、国際情勢が厳しくなったり、経済的に苦しい状況に陥ったりすると、権威を背景に愛国的な主張を強気に言い募ることが、国民の支持を得る道だと勘違いしがちです。ロシアのウクライナ侵攻後の国際情勢や経済の変化を受け、中国が悪いとか、もっと防衛費を増やせといった「進軍ラッパ」ばかりが自民党で目立つのは象徴的です。そんな単純なことで、日本が置かれた状況を変えることなんてできないのはおろか、さらに苦境に陥るのは明らかなのですが。これもまた、安倍政権がもたらした問題でしょう。

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既存の政党への不満が示された参院選

――安倍元首相の暗殺の2日後に参院選がありました。参院選は政権選択の選挙ではないですが、歴史を紐解くと、参院選が時代の変化を先取りしている場合がしばしばあります。今回の参院選についてはどうでしょうか。

福島 議席を見ると自公政権が圧勝したようですが、得票率を見ると、自民党も公明党も3年前の参院選、昨年の衆院選と下がり続けています。ライバルの立憲民主党や共産党がもっと大きく減らしたので、相対的に負けが少なくなっているに過ぎない。これらの政党が減らした票は、日本維新の会や参政党、れいわ新選組といった新興の政党に流れています。

 国民は自民党と立憲民主党の対決という構図自体に飽き飽きしている。そもそも既存の政党に満足していない。それが今回の参院選で明確に示された民意だと思います。自公への圧倒的な支持ではありません。

参院選の開票センターでインタビューに答える自民党総裁の岸田文雄首相=2022年7月10日、東京・永田町の自民党本部

自民党にかわる「何か」が示せていない政治

――では、世論はどこを向いているのでしょうか。

福島 国民は、自民党にかわる「何か」を、心から求めていると思います。ただ、政治の側から「何か」の選択肢が示されていないので、選択のしようがない。今回参院選の無党派の投票先から、そうした逡巡が透けて見えます。

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