国葬の定義は百科事典…立憲民主党の論客が追及する「国民不在のプロセス」
2022年08月02日
岸田文雄内閣による故・安倍晋三元首相の国葬決定は、安倍氏への評価いかんにかかわらず問題だ。戦後日本において、政治がそのあり方に関して合意形成を怠ってきた国葬という国家行事について、ほぼ首相の独断で実施を決めてしまったからだ。
「聞く力」を唱える首相の下で「国葬は単なる儀式」(内閣府)と矮小化され、国民どころか国会も関われなかった今回のプロセスを、立憲民主党の小西洋之・政調副会長が追及している。小西氏が政府から得た文書や説明から論点が鮮明になった。
安倍氏が参院選での街頭演説中に銃撃され亡くなったのは7月8日。岸田首相が安倍氏を国葬にする考えを記者会見で表明したのは6日後の14日だ。その国葬は22日に閣議だけであっさり決定。日本武道館で9月27日に行われ、葬儀委員長を首相が務め、費用はすべて「国費」となった。
7月14日の記者会見では、国費を使うなら国葬を決めるのに国会審議が必要ではという質問が出た。岸田首相は、「国の儀式」の事務は内閣府が行うと内閣府設置法4条の3に書かれており、その国の儀式に国葬は含まれるからだと説明。「内閣法制局ともしっかり調整した」と語った。
説明になっていない。国葬について定めた法律はなく、国葬は国の儀式であるという解釈も政府の過去の国会答弁にはみられない。根拠がわからない。
そこで小西氏は7月19日、岸田首相の説明の根拠となる文書を出すよう内閣法制局と内閣府に要求。22日に閣議決定があったその夜になって、二つの内部文書が示された。
一つ目の内部文書は、首相会見と同じ7月14日付で内閣官房と内閣府が作った「国の儀式として行う総理大臣経験者の国葬儀を閣議決定で行うことについて」(文書A)だ。冒頭から苦しさがにじむ。「一般に国葬とは、国が国家の儀式として、国費で行う葬儀」とある国葬の定義は、百科事典からの引用だ。
安倍氏の国葬に反発する野党もあり、近く国会で議論される。その際に政府見解の土台として示されるであろう部分を、以下に引用する。
3 閣議決定を根拠として国葬儀を行うことについて
(1) 過去、国葬儀の形式で実施された昭和42年10月の吉田元総理の葬儀については、閣議決定を根拠として行われた。
(2) この点については、
① 国の儀式を内閣が行うことについては、行政権の作用に含まれること
② 国家の賓客として、国の費用で接待(皇居での歓迎行事や宮中晩餐等を実施)される国賓の招致決定についても、行政権に属する者として、閣議決定により行われていること
③ また、現行の内閣府設置法においては、「国の儀式に関する事務に関すること」が明記されており(4条3項33号)、国葬儀を含む「国の儀式」の執行は、行政権に属することが法律上明確となっていること
④ 国費をもって国の事務として行う葬儀を、将来にわたって一定の条件に該当する人について、必ず行うこととするものではないこと
から、閣議決定を根拠に国の儀式である国葬儀を実施することは可能であると考えられる。
岸田首相は記者会見で(2)の③だけを述べた。だが2枚の文書A全体を読んでも、国葬がなぜ閣議決定だけでできるのかの説明にはなっていない。
小西氏はこう主張する。
「内閣府設置法というのは『組織規範』、つまり政府の仕事のうち、内閣を支える内閣府が何を担当するのかを書いている法律に過ぎません。国の儀式の事務を内閣府が担当するからといって、国民や国会を含む国家としての葬儀である国葬を内閣が行うことにはならず、その主体や基準、手続きをどうするかを定めるには、国葬法のような『根拠規範』としての法律が必要です。それなしに今回のように内閣だけで決めていいことにはなりません」
「また、内閣については憲法が『行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負う』と定め、内閣法には『国民主権の理念にのっとり憲法に定める職権を行う』とあります。岸田首相が国葬は国の儀式だと言うのであれば、少なくとも国民の代表である国会に諮る必要があります」
内閣法制局と内閣府が小西氏に示したもう一つの文書(文書B)には、閣議決定でできるという国の儀式に国葬が含まれるという内閣の立場がもう少しく説明されている。1999年に成立した内閣府設置法の解釈についての資料で、内閣が国会に法案を出す前に内閣法制局で審査されたものだ。
文書Bから、内閣法設置法案の段階で内閣府が事務を担うとされた国の儀式に関する説明を以下に引用する。
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