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医系技官が日本の医療ビジネス・システムに与えた悪しき影響~上昌広氏に聞く

コロナ対策徹底批判【第五部】~上昌広・医療ガバナンス研究所理事長インタビュー⑳

佐藤章 ジャーナリスト 元朝日新聞記者 五月書房新社編集委員会委員長

 わが国のコロナウイルス対策を振り返ると、PCR検査を抑制し続けたうえ、最も重要な情報である「空気感染」をなかなか認めてこなかった厚生労働省・医系技官の大きい失策がまず指摘される。

 しかし、医系技官の失敗はそれだけではなかった。もっと長期的な観点から見て、日本の医療ビジネス、医療システム全体を衰退させ続けていたのだ。臨床医でありながら世界最先端の医療知識を渉猟し続ける医療ガバナンス研究所理事長、上昌広氏に引き続き話を聞いた。

拡大上昌弘・医療ガバナンス研究所理事長

すべてを把握しないと不安でたまらない医系技官

――新型コロナの検査について、上さんは前回「医系技官はなぜ保健所をPCR検査の要の位置に置いたのか」で、先進国では、クリニックや公的機関じゃなくて、自分で検査キットをインターネットで買って、家に送ってもらってやるんです、と指摘されました。だけど、日本はそうはなっていない。政府がPCR検査をサボってきたためなのでしょうか。

上昌広 それもありますが、厚労省が全部を独占したいという変な願望を抱いているところから来ています。厚労省の医系技官というのは、すべてを把握しないと不安で仕方ないんです。すべてを届け出制にするとか、診療報酬を1円単位まで全部決めるとか、そんなメンタリティを持っているんです。

 だから、民間でやればいい話にまで介入したがります。たとえば出生前診断。技術的な話は科学者が話し合えばいい。社会がどう受け入れるかは、社会的な関係者が話し合えばいい。それなのに、厚労省と日本産科婦人科学会のようなところが決めている。

 世界で、PCR検査のネット販売がなぜ出てきたかと言えば、接触をできる限りなくすためです。お医者さんだって、できればコロナ陽性者には病院に来てほしくない。だから発熱外来を設けたのです。だったら、検査キットを直接、発熱した人の家に送り、各自でやってもらえばいいじゃないかと、合理的に考えたわけです。

――確かに合理的な判断です。

 ところが、ダメな人は「自分の知らないところで何かやられたらイヤだな」と思って、本能的に全部を仕切りたがるんです。医系技官の限界だと思います。

悪気はないけれど……

――医系技官がストップをかけていると。

 以前も言いましたが、彼らには悪意はあまりないんです。進学校から医学部に入って、「日本医師会は金儲けして悪い印象があるが公衆衛生は素晴らしい」と単純に信じているんです。それでそのまま医系技官になり、公衆衛生の狭い世界に入っていく。

 狭い世界に熱心な若者が入ると、視野狭窄に陥りがちなのは、たとえが適切かどうかわかりませんが、戦前の陸軍参謀本部の事例を連想してしまうんですね。「ぼくたちはこんなに真面目にやっているのに、なぜ批判されるのだろう」と考えているのだと思います。真面目なんですが、閉鎖的な霞が関の空間に閉じこもるうちに、そういうメンタリティになってしまっているのです。

 そもそも、専門家が官僚になる必要はないんです。医系技官という制度ではなく医学職というものを作って、医学部卒業かどうかは関係なくみんなが受けられるようにすればいいんです。

 実際、薬系技官は必ずしも薬学部の卒業ではありません。元検察官として活躍している弁護士の郷原信郎さんも理学部出身でしょう。それでも法務省の検察官じゃないですか。どこの学部を出ていようが関係ないんですよ。それどころか大学なんか出ていなくても関係ない。公務員試験を通ればいいだけなんです。

拡大厚生労働省が入る合同庁舎=東京都千代田区

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筆者

佐藤章

佐藤章(さとう・あきら) ジャーナリスト 元朝日新聞記者 五月書房新社編集委員会委員長

ジャーナリスト学校主任研究員を最後に朝日新聞社を退職。朝日新聞社では、東京・大阪経済部、AERA編集部、週刊朝日編集部など。退職後、慶應義塾大学非常勤講師(ジャーナリズム専攻)、五月書房新社取締役・編集委員会委員長。最近著に『職業政治家 小沢一郎』(朝日新聞出版)。その他の著書に『ドキュメント金融破綻』(岩波書店)、『関西国際空港』(中公新書)、『ドストエフスキーの黙示録』(朝日新聞社)など多数。共著に『新聞と戦争』(朝日新聞社)、『圧倒的! リベラリズム宣言』(五月書房新社)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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