「政党」としての公明党~一学究の徒の政治学研究【12】
2022年08月15日
「論座」では「『政党』としての公明党~一学究の徒の政治学研究」を連載しています。1999年に自民党と連立を組んで以来、民主党政権の期間をのぞいてずっと与党だったこの党はどういう政党なのか、実証的に研究します。12回目は前回に引き続いて、公明党に似ているとも言われる日本維新の会について論じます。
8月14日に初めての代表選が告示され、27日の臨時党大会での新代表選出に向けて選挙戦がスタートした日本維新の会。昨今、党勢の伸びがめざましい党組織の実態はどうなっているのか。幹事長、政務調査会長へのインタビューを軸に論じます。(論座編集部)
◇連載「『政党』としての公明党~一学究の徒の政治学研究」は「こちら」からお読みいただけます。
前回(第11回)「若手の活用、オンライン文化、地方との協働……日本維新の会の四つの特徴」に続き、日本維新の会の党内ガバナンスをテーマに扱う。今回も、党組織の現状と課題について、藤田文武・幹事長(衆議院議員)(2022年7月13日筆者取材・インタビュー)と音喜多駿・政務調査会長(参議院議員)(2022年7月26日筆者取材・インタビュー)に話を聞く。維新に馴染みがない方はまず、第10回「実は公明党と似ている日本維新の会。どういう政党か~参院選で躍進。今後は……」からお読みいただければ幸いである。
はじめに、公認内定後の候補者研修についてである。具体的にどのような点を中心に指導しているのだろうか。
第一に、公職選挙法(公選法)である。「公選法は、候補者と事務局の責任者に来ていただいて、本部の公選法担当から1日かけて一通りレクチャーをします。レクチャーをした上で、分からなかったら必ず問い合わせて確認するよう伝え、そのためのホットラインを繋ぎます。これは最も重要な指導です」とのことだった(同幹事長)。
第二に、広報技術について。紙のチラシの作り方、PRの仕方などを指導する。ネット関係については外部講師を招くこともあり、SNSの活用方法、動画やブログの拡散の仕方などを学ぶ。
第三に、政策である。マニフェストの勉強会をオンライン上で行っている。
いずれも、実務上必要な内容である。
次に、維新の議員教育について見てみる。
国政・維新の新人議員教育は、結党期の段階で既に行われていた。毎日新聞には、新人議員教育のために政策研修会を開催した記述がある(「日本維新の会:石原・橋下両氏、共同代表了承へ――役員会」『毎日新聞』2013年1月19日夕刊)。
では、現状はどのようになっているのか。藤田幹事長は語る。
国政の新人のフォローについては、国会議員団内の総務会が担当しています。昨年の衆院選後、総務会が新人議員を対象に研修会を何回か開催しました。
一つは、国会の仕組みやスケジュールの流れなどから始まり、党内の役割分担や意思決定の仕組み、委員会や本会議への臨み方などです。法案が国会でどのように審査されるかみたいな概要について。それから実務的なこととして、例えば委員会質問をどういう切り口や論点で行うか、レクの仕方、官僚との付き合い方みたいな具体的なこともやりました。
もう一つは、政策的なこと。勉強会がたくさん開催されていて、皆さん積極的に参加してくれています。国会を中心に言うと、まず部会主催の勉強会、調査会主催の勉強会です。それぞれの部会長や部会役員が講師を招いてやります。
それから、幹事長室に社会政策全般を扱うダイバーシティ推進局があり、積極的に勉強会を主催しています。例えば、LGBT、障害福祉、夫婦別姓、女性活躍などもそうです。国会議員団だけじゃなくて、オープンにするときもあります。オープン政調みたいにネット中継する場合もありますし、オンラインで講師に質問できるようにするパターンもあります。講師や議題次第のところもありますが。
うちの場合、研修をしっかりやって、全ての手順を踏んでから表舞台に出すというよりは、「とりあえずチャレンジしてこい」というベンチャーのような気質があります。今回、評判が良かったのは、予算委員会の質疑に新人をどんどん登壇させたこと。
政調会では、予算委員会での質問は一通りチェックしています。特にテレビ中継がある注目度の高い予算委員会は、どういう趣旨や目的で質問をし、獲得目標は何か、どんな話の流れでやるかなど、政調会でチェックして微修正したりサポートしたりすることもあります。地方議会の経験もなく、初登壇の議員は大変ですから、僕も政調会に質問構成の作成や官僚のレクまで伴走してあげてと依頼され、「こういう視点でやったら」とか「こういう切り口の方が面白いよ」など、何人かサポートしたこともあります。
総務会主催の研修は、総務会長、総務会長代理が担当する。政策的なことや国会質問のテクニカルなことについては、足立康史議員、音喜多議員、藤田議員などが担当したという。そのほか、委員会の質疑のチェックは政調会が行う。質問の良し悪しやアドバイスは、政調会の役員メンバーや委員会ごとに先輩・後輩で行っている。
地方議員に対する教育の体制はどうなのか。大阪の事例について、藤田幹事長が答える。
地方議員の研修は、原則としては各地域の総支部や議会単位で自立して行っています。例えば大阪では月1~2回くらい、大阪維新の会の政調会が勉強会を主催しています。内容としては、地方自治や社会保障や教育など、自治体に近い議題も多く取り上げています。
ただし、全てが総支部任せでうまくいくわけではありません。大阪維新の会は議員数も多い大組織ですが、それ以外の地域はまだまだ所属議員が少ない。規模の小さい支部の場合、定期的に自前で勉強会を実施するのが難しく、足りない部分のサポートは党政調会でやっています。党政調会で地方議員向けのテーマで講師を招いて主催することもあります。
他方、東京は大阪と異なり、議員数が少ない。音喜多政調会長によると、東京総支部(東京維新の会)限定での国会議員・地方議員を交えた議員研修会は、次のような運用実態となっている。
毎月一回の全体会議があり、その前の部で、政策勉強会や選挙の勉強会など、必要に応じて不定期で開催しています。例えば、選択的夫婦別姓やインターネット選挙に関する勉強会を行いました。コロナ禍以前は基本的に対面形式で、講師に来ていただいて議員会館でやっていました。
議員教育ならではの課題や悩みもあるという。藤田幹事長は次の認識を示す。
議員教育について、何が「正解」かと問われれば難しいですね。各人が能力も経験もバラバラなので、個別に育てるメンター制のような手法の方が合っているのかなと思うときもあります。
制度として確立しているわけではないんですが、例えば新人議員が当選してきたら党内の様々な部門に振り分けますよね。部会や委員会の所属もそうです。すると、その部門ごとにある種のグルーピングができます。まずはその部門の中の先輩・後輩でアドバイスや意見交換をする。委員会では先輩議員が質問の指導やサポートを積極的にやってくれているのも目にしました。今国会(2022年通常国会)では、こういうやり方が割と機能したので、よかったと思いました。
議員の研修会は、形式ばったものばかりだとあまり意味がないとは思っています。ただ、政策の勉強会は積極的に実施して、政策力を高めていくべきですね。
党職員の数や役割はどのようになっているのだろうか。藤田幹事長は答える。
党職員の数は20人くらいです(大阪と東京で本部職員と言われる)。僕が幹事長になったときは14~15人でしたので、少しだけ増やしましたが、他党に比べると相当少ない方かと思います。私たちは次回の衆院選野党第1党を目指しているので、少なくとも3年くらいのうちに40~50人くらい必要になると想定しています。
僕が幹事長になってから、優秀な党の職員を増やしていこうということを明確に掲げて、積極採用していく段取りに入っています。国会で言うと、政調職員(政策的なことをサポート)、国対職員(国会運営=委員会、省庁とのつなぎ=のサポート)を中心に、他にも広報や総務や管理部門の職員などが在籍しています。例えば、政調職員は質問や原稿作成のサポートをしたり、政策のリサーチをしたり、党のマニフェストの取りまとめをしたり、会議の連絡や調整をしたりします。
議員数の割に、党職員数の数が少ない状況について、音喜多政調会長は次の認識を示す。
国会議員に対して政党交付金を配り、各地域における党勢拡大のために使ってもらっている状況ですが、地方議員へ直接配るのも一案ではないかと個人的には考えています。ただ、そうすると、地方議員一人一人の政治資金収支報告書のチェックができるのかも含めて、ガバナンスやコストの問題が浮上します。現時点でこうした懸念を全てクリアにするのは難しいです。
国会議員の政党交付金については、党職員ができる限りチェック(法律上、党の内規上)を行っています。国会議員と党職員の距離は、物理的にもそれなりに近いです。他方、地方議員や各総支部の場合、果たして全部目配りできるのかという課題があります。
東京総支部の場合、専任職員が一人しかおらず、会計のチェックまで入念にやる余裕がない状況です。それこそ、街宣車の運転から全てやりますから。その政党職員の待遇も、民間企業と比較してまだまだ及ばない面もあります。一定の民間企業並みの待遇、社会保険も整備して良い人材を獲得することは、政党が大きくなり、また地方議員や地方総支部を支えるためにも必要なことです。
政治資金収支報告書については、専門知識も必要になってくる。地方議会の事務局のチェック体制にも課題がある。だからこそ、党内ガバナンスを考える上で、政党職員の役割が重要である。
議員と政党職員間でどのような関係を構築するのか、というのも忘れてはいけない点である。チェックの際、議員へストップをかけるのは政党職員だからだ。政党職員が委縮するような職場環境の場合、ガバナンスが機能しにくくなるのではないだろうか。
維新政治塾は2022年7月31日まで第6期第2弾の塾生募集をしていた。第6期第1弾からはオンライン開催だ。なお、都道府県単位で開講する「ご当地維新塾」は、12都府県(大阪、兵庫、京都、愛知、滋賀、東京、埼玉、千葉、神奈川、福岡、長野、新潟)にある(2022年8月1日現在)。
維新政治塾は第1期当時、「最初3000人超の人たちが集まって、そこから888人に絞られて、最後出馬に至ったのが80人」であると青柳仁士・衆議院議員が明かしている(日本維新の会「【維新deGO! 】“時空を超えた” 維新政治塾、4月始動。」2022年2月22日2022年7月18日現在)。
第6期からオンライン化となった背景は、「デジタルトランスフォーメーション(DX)を政党としてもやっていかないといけない」。さらに「有権者とのコミュニケーションも党としてオンラインサロンでやっていこう」とのことであった(同上)。映像のアーカイブができるメリットもある。
参考までに、筆者が作成した「第2期~4期の維新政治塾のテーマと講師一覧」を以下に示す(表)。維新政治塾の特徴は、地方自治分野のテーマが充実している点であるといえる。
実務上、維新政治塾と「ご当地維新塾」の連携や使い分けはどのようになっているのか。音喜多政調会長は語る。
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