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豊かな森林国・日本を脅かす「放置林」「乱開発」の厳しい実態~山の日に思う

「日本熊森協会」「奥山保全トラスト」の地道な活動から見えてきたもの

赤松正雄 元公明党衆院議員 元厚生労働副大臣 公明党元外交安保調査会長 公明党元憲法調査会座長

 8月11日は「山の日」。6年前の2016年(平成28年)から休日となっています。

 8月の「八」の字が山のようで、「11」が木が屹立(きつりつ)しているように見えるからだ、と説明されています。そういわれるとそんな気がしてきますが、所詮あて字の域を出ません。1996(平成8)年に施行された「海の日」(今は7月第三月曜日)に対抗してできたものでしょう。

 私は、「山の日」よりも「森の日」(森林の日)の方が、イメージが定まっていいと思ってきていますが、残念ながら国の祝日としては制定されていません。かつて、村の名前の頭に「美」がつく全国各地の10カ村で「美し村(うましさと)連邦」なるグループが結成(1999年)され、5月20日が森林の日(もりの日)記念日とされていました。

 自然保護、過疎対策に取り組む活動をしていましたが、残念ながら、平成の大合併により村が消滅する方向に拍車がかかってしまい、わずか4年後の2003年(平成15年)に解散しています。ちなみに、なぜ5月かというと、森林の字には「木」が五つ入っているからだとしていました。

ブナやナラの木が生い茂る原生林。その間を流れる川のせせらぎが心なごませる=2022年8月9日、岡山若杉原生林(天然林)(筆者撮影)

世界でトップクラスの森林率の日本だが……

 日本の国土面積は約3779万ヘクタール。このうち、森林が占める面積は約2500万ヘクタール。実に森林率は66%。国土全体の三分の二が森林なのです。世界全体での森林率は30%とされていますから、まさに日本は、北欧のフィンランドやスウェーデンに並ぶ世界トップクラスの「豊かな森林国」、“緑したたる景観”に恵まれた国です。

 自然環境としての森林にはどんな役割があるのでしょうか。まず、洪水や渇水を緩和し、川の水の流れを安定させる水源涵養機能や土砂崩れの防止機能などがあげられます。さらに、温室効果ガスである二酸化炭素を吸収、貯蔵する役目もあります。人間生活に欠かせぬ重要な働きを併せ持つ森林は、「気候変動」が懸念される昨今、一段と注目されています。

 阪神淡路大震災から約27年。東北大震災から11年。その間にも様々な風水害が発生し続けています。人呼んで「大災害の時代」。そんな時代だからこそ、森林に本来の機能発揮を期待したいのです。

 ところが、現実には問題だらけ。戦後長く積み重ねられてきた林野行政の弊害に加えて、新たに太陽光や風力などの再生可能エネルギーに名を借りた「森林乱開発」が起こってきているのです。

 「山の日」に際して森林の実態に迫ってみます。

「日本熊森協会」と「奥山保全トラスト」

 私は二つの自然環境保護団体と関わりを持っています。一つは一般財団法人『日本熊森協会』(以下熊森協会と略)の顧問。もう一つは公益財団法人『奥山保全トラスト』の理事という立場です。

 両法人は姉妹団体で、兵庫県西宮市の同じ場所に本部があります。前者は、クマをシンボルに、奥山の天然林の保全・再生に取り組む実践環境保護団体。後者は、奥山水源の森を永久に開発出来ないように保全するため、市民から寄付を頂いて、買い取るナショナル・トラスト運動を展開する団体です。

 前者とは20数年、後者とは16年ほど、現職議員の頃からずっと関心を持ち、応援してきました。とくに、前者については、クマの生息状況や出没実態が森の荒廃の予兆を表すとの立場から、衆議院予算委分科会(農水省所管)や環境委で質問に立ったり、その趣旨の実現を目指す「議員連盟」の設立に関わったりもしてきました。

原生林のなかにたたずみ、生命休まるひとときを持つ著者=2022年8月9日、岡山若杉原生林(筆者撮影)

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人工林の放置が招いた森林保水力の激減

 つい2日前の8月9日には、両団体の生みの親である森山まり子さんらと共に、岡山県の若林原生林と、兵庫県で最も人工林の多い宍粟市を訪れて、見学してきたばかりです。実は20年ほど前にも同じところを見たことがあります。光すら差し込まないスギやヒノキの人工林は惨憺(さんたん)たる状況です。ブナ林やナラの木が生い茂る原生林との差は一目瞭然です。

 つまり、スギやヒノキの針葉樹を、政府は拡大造林政策によって植えまくり、広葉樹林を国を挙げて潰してきたといえるのです。その背後には、林業の発展が高度経済成長とあいまって期待されたのですが、外国材輸入の急増と共に敢えなく暗転したことがあります。木材が売れなくなったのです。やがて全国至るところで、人工林は適切な伐採もされず、放置されたままで時間が過ぎました。

 徳島県の美波町の山あいに、地域おこしのサポートのために先年、訪問したことがあります。その際に同地に住むHさんが、戦後間もなく父親が一所懸命植えたスギの針葉樹林を、息子である自分の代になって伐採し、広葉樹林に戻さねばならなくなった、と自嘲しつつ語っていたのが印象的でした。

 親父の過ちを息子が直すこのケースはまだいい方で、人工林は放ったらかしで手付かずのままの状態です。その結果、森林の保水力は激減し、大雨の降るたびに河川の氾濫(はんらん)が引き起こされてきました。

宍粟市の人工林全景。うっそうと茂った杉の人工林。全国にこうした森林が放置されたままになっている。(日本熊森協会提供)

森林環境税約620億円で森林整備を促進

 3年前、国は「森林環境税・森林環境譲与税法」を制定しました。全国民からひとり当たり1000円を徴収することで得た森林環境税約620億円を、森林整備とその促進にあてるというものです。実際に徴収されるのは2024年からですが、全国の地方自治体には、森林環境譲与税の名の下に既に交付されています。前倒しで政府が立て替えた格好です。

 この法制定は、一見、本格的な森林整備に取り組むべく政府が立ち上がったかに見えます。しかし、それには人工林を天然林に再生する取り組みが欠かせません。

 「熊森協会」は国会審議の最終段階で、「すべての国民が負担する森林環境税だからこそ、日本の森林の最重要課題である放置人工林を保水力豊かな天然林へ再生することに使われるべき」だと、強い要求活動を展開しました。私も及ばずながら、衆参委員会の現場との橋渡し役をしました。

 その結果、法施行に対して「放置人工林の広葉樹林化とそのための体制整備」を政府に求める附帯決議を付けることができました。その過程では、同協会の強い意志のもとに集められた2万6572人の署名簿も提出されました。

宍粟市の人工林。表土流出が止まらない。(日本熊森協会提供)

疑問が残る環境譲与税の使い方

 コロナ禍とほぼダブるこの3年間に、環境譲与税として林野行政の最先端の自治体に届いた予算がどう使われているか。大いに気になるところです。

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