市場と政府会計、そしてまず第一に政治資金のデジタル化を進めよ
2022年08月12日
岸田文雄内閣総理大臣は、22年8月10日に内閣を改造し、河野太郎衆議院議員をデジタル大臣に任命した。デジタル大臣が所管するデジタル庁は、鳴り物入りで発足しながらも、初代の平井卓也大臣による稚拙な指揮もあったせいか、期待とは程遠い状態にある。行政や社会のデジタル化については、与野党を超えて促進に向けて一定の合意があり、他の政策分野と異なって野党の抵抗は薄い。そのため、実力大臣の就任によるデジタル化への期待は高まるだろう。
岸田首相の唱える「新しい資本主義」においても、行政・社会のデジタル化は重視されている。『論座』拙稿「「新しい資本主義」は今のところ「修正版アベノミクス」に過ぎない」で指摘したように、岸田首相は「経済成長」と「外部不経済の是正」の二兎のうち、前者を優先しているため、結果的にどちらの成果も得られていない。
市場の失敗、外部不経済を是正する仕組みを成長戦略と分配戦略の両面から資本主義の中に埋め込み、そうした課題を解決しながら、成長と分配の好循環を生み出していきたいと考えます。(2022年1月20日衆議院本会議)
これに対し、筆者はかねてから「外部不経済の是正」こそ、経済成長の源泉になると指摘してきた。『論座』拙稿「人口減少・経済成熟・気候変動を前提に社会システムの変革を~真のゼロカーボン社会へ」は、そのことを解説したものである。脱炭素化など、外部不経済の是正に向けた官民の投資を促進することが、経済成熟の状況において有効な経済政策であることを説いている。
同様の考え方は、経済学者の小野善康・大阪大学特任教授も主張しており、小野教授は「資産選好」というキーワードで成熟経済の経済モデルを明らかにしている(小野善康『資本主義の方程式―経済停滞と格差拡大の謎を解く』中公新書)。
そこで、河野大臣がデジタル化を通じた「外部不経済の是正」に辣腕を振るうことで、結果的に「経済成長」をもたらすと期待している。実際、河野大臣には「外部不経済の是正」を通じた「経済成長」をもたらす政策について、行政や業界の反対を押し切って実現した実績がある。それは、22年6月に国会で与野党の賛成で成立した「建築物省エネ法の改正」で、住宅等の断熱を義務化することで、化石燃料の消費削減による海外への資金流出の抑制と新築住宅の価値向上を同時に実現するものであった。
改正の発端は、河野議員が規制改革担当大臣だった際に直率した「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」が国土交通省に断熱義務化を強く求めたことにあった。当時の河野大臣の強いリーダーシップによって実現した政策である。
それでは、河野大臣に期待されるデジタル化を通じた「外部不経済の是正」には、どのようなものがあるか。ここでは3分野のデジタル化を提案する。いずれも市場や財政への信頼を高め、結果的に経済成長の基盤となる。
第一にデジタル化すべきは、エネルギーのインフラと市場のデジタル化である。とりわけ、脱炭素化において決定的な役割を果たす電力分野において、デジタル化が避けられない。
送電網に代表される従来のエネルギーインフラは、発電所等の供給サイドから家庭等の需要サイドへの一方通行を前提として整備されてきた。需要サイドは、思うがまま必要に応じてエネルギーを消費してきた。政府は、供給サイドに供給義務をかけて、その代わりに供給サイドを優遇してきた。その結果、エネルギー需要に応じて、ひたすらに発電所を建設し、海外からのエネルギー資源の確保に奔走する、現在のエネルギーシステムが完成した。
他方、脱炭素化において求められるエネルギーインフラは、供給サイドと需要サイドの双方で、市場価格に応じて需給調整することが求められる。すなわち、エネルギー価格が高くなれば、供給サイドは供給を増加させ、需要サイドは需要を減少させる。
逆に、エネルギー価格が安くなれば、供給サイドは供給を減少させ、需要サイドは需要を増加させる。それによって、再生可能エネルギーを大量導入しても、合理的かつ効率的に需給調整ができる。
現在のアナログな調整システムは、前者であれば対応できるが、後者であれば対応不能になり、デジタル化に移行しなければならない。なぜならば、
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