山本章子(やまもと・あきこ) 琉球大学准教授
1979年北海道生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。博士(社会学)。2020年4月から現職。著書に『米国と日米安保条約改定ー沖縄・基地・同盟』(吉田書店、2017年)、『米国アウトサイダー大統領ー世界を揺さぶる「異端」の政治家たち』(朝日選書、2017年)、『日米地位協定ー在日米軍と「同盟」の70年』(中公新書、2019年)など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
0~2歳児の待機児童が多い沖縄。この解消をどうアピールするか
「おいで、おいでー」と、品物が並べられたお盆の後ろに立って子どもを呼ぶ母親。「ほら、こっちこっち」と誘導する父親。「おっ?おっ?おおー!」と子どもの一挙一動を見守る親戚たち。沖縄では1歳の誕生日を迎えた子どもの恒例行事だ。
京都・大阪や四国、九州、沖縄では、1歳の誕生日「初誕生」のお祝いに合わせて将来を占う風習がある。関西や四国、九州では「選び取り」、沖縄では「タンカーユーエー」と呼ばれる。
福岡では、子どもに草履(ぞうり)をはかせて、誕生餅または一生餅と呼ばれる大きな餅の上に立たせる「餅踏み」という儀式の後に行うことが多いが、ほかの地域では餅を背負わせることもある。
餅を踏むのは、中国文化の影響を受けた風習とされる。中国では、死産の子を棒でたたいて次は丈夫に生まれてくるように願った。それが日本に入ってきて、子どもの代わりに餅を踏む儀式に変わったという説がある。
餅を背負うのは、子どもの成長を喜ぶと同時に、あまりに成長が早い子を忌み嫌う慣習からきている。一升(約1.5~2キログラム)もの誕生餅を背負った小さな子どもは、背中の重みで歩けない。昔は、誕生日前に歩く子どもは不吉な「鬼子(おにご)」と見なされ、災いをもたらすとされていた名残りだという。
選び取り(タンカーユーエー)は、1歳を迎える頃に子供がハイハイから二足歩行に変わるのを祝う儀式だ。1歳の子の前に品物をいくつか並べ、子どもが何を選ぶかで将来を占う。そろばんや電卓は「商才」、筆や鉛筆は「文才、画才」を表すなど、道具の用途に合わせた意味づけがある。
「誕生日をお祝いする」という習慣は欧米から入ってきた文化で、日本にはもともと1年ごとに誕生日をお祝いする風習はなかった。ただし、昔は生後間もなく亡くなる赤ちゃんが多く、1歳の誕生日を無事に迎えることは特別なことだったため、日本でも1歳のお誕生日だけは盛大にお祝いする風習があった。沖縄ではホテルなどの会場を借り、酒とごちそうを用意し、親戚を集めて盛大にタンカーユーエーを祝う。
沖縄県では、任期満了に伴う知事選(8月25日告示、9月11日投開票)が目前に迫っている。現職の玉城デニー氏(62)、自公政権が推す前宜野湾市長の佐喜真淳氏(58)、元郵政民営化担当相の下地幹郎氏(60)が出馬を表明。三つどもえの選挙戦になりそうだ。
ところで、前回の2018年9月の沖縄県知事選では、「子育て」政策を重視して投票先を決めた有権者が多かったといわれている。
実際、男女別の投票率を見ると、女性は全年代を通して現職の玉城デニー氏に投票した人の方が多い(男性では40代以上は玉城氏支持の方が多く、30代以下はその逆)。玉城氏は「子どもの貧困対策を最重要政策に掲げて取り組みます」と訴えていた。これが女性票の獲得に結びついたとされる。
もちろん、自公政権が推した対抗馬の佐喜眞淳氏も、子どもの保育費、給食費、医療費の無償化を公約に掲げていた。しかし、このうち幼児教育・保育の無償化(幼保無償化)については、その前年の2017年12月に第2次安倍晋三内閣による提言が発表されており、沖縄県がやらなくとも国の施策として実施されることが決まっていた。
対する玉城氏は、子どもの貧困という沖縄県特有の問題に焦点をあてて、その解決に取り組むと明言。当時、沖縄の子どもの貧困率は29.9%(2016年)で、全国平均の13.9%(2015年)の約2倍となっていた。保育園の待機児童数も2018年4月時点で1870人と都道府県別で3番目に多く、人口あたりではワースト1位だった。沖縄の県知事として、待ったなしの課題に取り組むと具体的に訴えた玉城氏の政策の方が、説得力を持ったといえる。