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迫る沖縄県知事選 勝敗のカギは「子育て」政策~前回に引き続き今回も

0~2歳児の待機児童が多い沖縄。この解消をどうアピールするか

山本章子 琉球大学准教授

 「おいで、おいでー」と、品物が並べられたお盆の後ろに立って子どもを呼ぶ母親。「ほら、こっちこっち」と誘導する父親。「おっ?おっ?おおー!」と子どもの一挙一動を見守る親戚たち。沖縄では1歳の誕生日を迎えた子どもの恒例行事だ。

1歳の誕生日におこなわれるお祝いの行事「タンカーユーエー」。品物が並べられたお盆に向かってハイハイをする赤ちゃん=2022年8月11日、浦添市(櫻井祐弥撮影)

1歳の誕生日を祝うタンカーユーエー

 京都・大阪や四国、九州、沖縄では、1歳の誕生日「初誕生」のお祝いに合わせて将来を占う風習がある。関西や四国、九州では「選び取り」、沖縄では「タンカーユーエー」と呼ばれる。

 福岡では、子どもに草履(ぞうり)をはかせて、誕生餅または一生餅と呼ばれる大きな餅の上に立たせる「餅踏み」という儀式の後に行うことが多いが、ほかの地域では餅を背負わせることもある。

 餅を踏むのは、中国文化の影響を受けた風習とされる。中国では、死産の子を棒でたたいて次は丈夫に生まれてくるように願った。それが日本に入ってきて、子どもの代わりに餅を踏む儀式に変わったという説がある。

 餅を背負うのは、子どもの成長を喜ぶと同時に、あまりに成長が早い子を忌み嫌う慣習からきている。一升(約1.5~2キログラム)もの誕生餅を背負った小さな子どもは、背中の重みで歩けない。昔は、誕生日前に歩く子どもは不吉な「鬼子(おにご)」と見なされ、災いをもたらすとされていた名残りだという。

 選び取り(タンカーユーエー)は、1歳を迎える頃に子供がハイハイから二足歩行に変わるのを祝う儀式だ。1歳の子の前に品物をいくつか並べ、子どもが何を選ぶかで将来を占う。そろばんや電卓は「商才」、筆や鉛筆は「文才、画才」を表すなど、道具の用途に合わせた意味づけがある。

 「誕生日をお祝いする」という習慣は欧米から入ってきた文化で、日本にはもともと1年ごとに誕生日をお祝いする風習はなかった。ただし、昔は生後間もなく亡くなる赤ちゃんが多く、1歳の誕生日を無事に迎えることは特別なことだったため、日本でも1歳のお誕生日だけは盛大にお祝いする風習があった。沖縄ではホテルなどの会場を借り、酒とごちそうを用意し、親戚を集めて盛大にタンカーユーエーを祝う。

前回知事選の勝敗を分けた「子育て」政策

 沖縄県では、任期満了に伴う知事選(8月25日告示、9月11日投開票)が目前に迫っている。現職の玉城デニー氏(62)、自公政権が推す前宜野湾市長の佐喜真淳氏(58)、元郵政民営化担当相の下地幹郎氏(60)が出馬を表明。三つどもえの選挙戦になりそうだ。

 ところで、前回の2018年9月の沖縄県知事選では、「子育て」政策を重視して投票先を決めた有権者が多かったといわれている。

 実際、男女別の投票率を見ると、女性は全年代を通して現職の玉城デニー氏に投票した人の方が多い(男性では40代以上は玉城氏支持の方が多く、30代以下はその逆)。玉城氏は「子どもの貧困対策を最重要政策に掲げて取り組みます」と訴えていた。これが女性票の獲得に結びついたとされる。

 もちろん、自公政権が推した対抗馬の佐喜眞淳氏も、子どもの保育費、給食費、医療費の無償化を公約に掲げていた。しかし、このうち幼児教育・保育の無償化(幼保無償化)については、その前年の2017年12月に第2次安倍晋三内閣による提言が発表されており、沖縄県がやらなくとも国の施策として実施されることが決まっていた。

 対する玉城氏は、子どもの貧困という沖縄県特有の問題に焦点をあてて、その解決に取り組むと明言。当時、沖縄の子どもの貧困率は29.9%(2016年)で、全国平均の13.9%(2015年)の約2倍となっていた。保育園の待機児童数も2018年4月時点で1870人と都道府県別で3番目に多く、人口あたりではワースト1位だった。沖縄の県知事として、待ったなしの課題に取り組むと具体的に訴えた玉城氏の政策の方が、説得力を持ったといえる。

沖縄県知事選で初当選、バンザイして喜ぶ玉城デニー氏(中央)=2018年9月30日、那覇市

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子どもの貧困率は悪化、待機児童数は最小に

 沖縄の子どもの貧困率は、2015年と比較して前回の知事選があった2018年には改善したが、コロナ禍の影響で2021年度の沖縄県調査では悪化。最も所得が低い層の割合が小学5年では28.5%、中学2年では過去最多の29.2%に達した。ひとり親の世帯では、最低所得層の割合が小5で68.9%、中2で66.4%と2倍以上になっている。最低所得層の約6割が、コロナ禍で収入が「減った」「まったくなくなった」と回答しており、経済的に貧しい世帯ほどコロナ禍の影響が大きいことが分かる。

 他方、玉城県政下の4年間で沖縄の待機児童数は大きく減少。待機児童数は2021年10月時点で1309人となり、調査が始まった2015年以降、5年連続で減少して最少となった。沖縄県子育て支援課は、「コロナの影響は小さいのではないか。市町村による施設整備や、保育士確保による定員数増が奏を功した」と分析する。

 ただし、2022年度4月に初めて待機児童ゼロを達成した宮古島市は、コロナの影響で「集団保育を避けたいと考える家庭が出ているため」、入所申込者数が2年連続減少して待機ゼロにつながったと見ている。

沖縄に0~2歳の待機児童が多い理由

 2021年の沖縄県の待機児童の94.5%は0~2歳児で、なかでも0歳児が56.6%と、1歳児23.5%、2歳児14.4%と比較して圧倒的に多い。国の幼保無償化は3歳以上が対象となっており、0~2歳児の保育料は認可保育でも親の収入によっては国立大学の授業料並みにかかるが、共働き世帯、母子世帯の多い沖縄では、お金がかかっても0~2歳児保育の需要が高い。

 ちなみに、都道府県別の共働き世帯数では沖縄県は全国の中で最下位グループに入るが、女性の就業率では2011年以降急上昇を続け、2015年以降は50%を超えて全国的にトップクラスの高さとなっている。とりわけ、子どものいる女性の就業率が全国平均よりも高い。

 このデータの矛盾は、「共働き」の定義が関係している。国の共働き世帯の統計には、妻が週35時間未満勤務のパートで働く世帯も含まれている。妻がパートの世帯は1990年代以降増え続け、2020年には全体の6割以上を占める。他方、妻がフルタイムで働く世帯はこの35年間増えていない。

 しかし、沖縄の場合には、働く女性に占める正社員の比率が46.9%と全国平均44%よりも高い(2018年)。加えて、沖縄県の母子世帯の割合は2000年代ずっと約5%を維持しており、全国平均の約二倍といわれている。

 フルタイムで働く女性やシングルマザーが多いことが、沖縄の0~2歳児の待機児童の多さにつながっており、この解消をどうアピールするかが今回の知事選の勝敗につながってくるだろう。

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