欧州の分断と米国の厭戦気分
2022年08月24日
ロシアがウクライナに侵攻し8月24日で半年だ。ウクライナからは日々、悲惨な現状が伝えられる。戦火の中、家族を失い住む場所もなくなった、着の身着のまま慣れ親しんだ場所を後にしたが、明日からどうやって生きていったらいいのか、そういう惨状の報告が後を絶たない。
そもそもこのロシアの戦争に大義はない。唯一、NATO拡大がロシアの安全を脅かし、ウクライナだけは何としても死守しなければならないとプーチン大統領が考えたことに、ほんのわずかな理があるとでも言えるだろうか。国際秩序を守るべき立場にある国連常任理事国が、自ら戦後秩序を破壊する挙に出た。そこには正当化できる何の理屈も見出し難い。ウクライナ国民は一方的にプーチン大統領の暴挙の犠牲になっている。そう考えるからこそ、これは国際秩序を守る戦いだとして、西側が一致団結しウクライナを支援している。ロシアの非道を許してはならない。
ただ、それはそうとして、日々伝えられる悲惨な犠牲をこのまま続けていいものか、我々はその思いもまた否定し去ることができない。
一体この戦争はいつまで続くのか。出口はあるのか。誰しもがそう思う。3つのレベルで考えてみたい。
第1は、「タマはもつのか」。武器弾薬が切れれば戦闘続行は不可能だ。
ウクライナ側には間断なく西側から武器弾薬が流入する。さすがに米国ですら、特定の武器は在庫が減りつつあるとの報道もあるが、まだまだ供給は安泰だ。問題はロシアだ。既にロシアの戦略は、狙ったところへのピンポイント攻撃から、攻撃対象一帯を大量の弾薬で破壊し尽くす作戦に変わった。弾薬の消費量は並大抵でない。しかも西側の制裁が効いている。半導体等、先端技術へのアクセスは止められ、使用する武器は一世代前のものが中心との報道もある。
もし、ロシア側が「タマ切れ」になり戦闘能力を欠くに至れば、ウクライナとしてこんないい展開はない。しかし実際は甘くない。ロシアの在庫はまだ潤沢で、少なくとも当面のところ、ロシアが武器弾薬に不足することはないものと見られる。
第2は、「人はもつのか」。犠牲者が多数になれば、戦闘をやめようとの機運も生まれよう。
ロシア側の犠牲者は既にアフガニスタン戦争時に匹敵するという。それだけの犠牲者が出れば、国内で反戦機運が高まっても不思議ではないが、実際は、その動きはほとんどない。プーチン大統領が睨みを利かせ、国内の不満を抑え込んでいる。この状態が崩れる兆候は当面見受けられない(プーチン大統領の側近の娘ダリヤ・ドゥーギナ氏の乗った車が爆発、ドゥーギナ氏が死亡した事件で、反プーチン勢力・国民共和国軍(NRA)が犯行声明を出したが、いまのところ真偽は定かではない)。
むしろウクライナ側の犠牲が著しい。戦場はウクライナ領内であり、戦闘員のみならず民間人の犠牲も無視できない。しかし、ウクライナが、犠牲が大きくこのまま戦争を続けるのは困難、と考えることはない。
ウクライナにとり、この戦争はいわれなき戦いだ。一方的にロシアが自国領内に侵入し、一部を併合しようとしている。ウクライナにとり、これは自らの領土を守る戦いであり、ウクライナの存立をかけた戦いだ。多少の犠牲はあっても負けるわけにはいかない、との点で国民は一致している。つまり、「正義」の実現か「犠牲」の回避かを迫られても、国民に正義を捨てる選択はない。従って、第二のレベルでも戦闘が止む気配はない。
第3は、「戦意は持ちこたえられるのか」。厭戦気分が蔓延してはいないか。
無論、ロシアはプーチン大統領が国内を抑え込んでいるし、ウクライナは正義の前に犠牲を厭わないとする。いずれも厭戦気分とは無縁だ。ここではもっぱらウクライナ支援の西側が問題だ。
既に欧州は分断されている。一方の極はバルト3国やポーランドだが、その士気はいずれも高い。ウクライナの次にロシアが侵攻するとすればこれらの国々だ。これらの国にとり、今ウクライナで起きていることは他人事でありえず、自らの安全がかかる現実の脅威だ。だから、ロシアに二度と他国を侵略しようとの気を起こさせないよう、徹底的にたたいておく必要がある。つまり徹底抗戦の構えだ。
これに対し、
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