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日本のコロナ対策は何だったのか。我々はどこへ行くのか~上昌広氏に聞く

コロナ対策徹底批判【第六部】~上昌広・医療ガバナンス研究所理事長インタビュー㉓

佐藤章 ジャーナリスト 元朝日新聞記者 五月書房新社編集委員会委員長

 新型コロナウイルスに悩まされる状態はいつまで続くのか。これまで対策を間違え続けてきた日本は、明らかに世界から取り残されつつある。

 臨床医でありながら世界最先端のコロナ対策を渉猟し続ける医療ガバナンス研究所理事長の上昌広氏へのロングインタビューは今回で最終回。最後に、現在から未来に繋がる見通しを率直に聞いてみた。

拡大上昌弘・医療ガバナンス研究所理事長

歴史的な視点がない日本のコロナの議論

――コロナウイルス対策を最初から現在までご覧になってきて、日本の議論に足りないものは何でしょうか。

上昌広 コロナ問題を議論していて、いつも決定的に足りないなと思うのは、日本の近代史や戦後の現代史を踏まえた議論がないな、という点です。公衆衛生や医学の面からも、日本という国がどういう歴史を経て今に至っているのかという観点は重要だと思うのですが、残念ながらそういう議論がない。

――表面的な議論ばかりで、深い議論はない気がします。他国は違うのですか?

 たとえばアメリカでは、米国医師会誌(JAMA=Journal of the American Medical Association)で公衆衛生について真剣な議論が交わされています。公衆衛生のために個人の権利をどこまで抑制していいのか、ワクチンを強制していいのか、といった議論ですね。

 アメリカの公衆衛生対策は連邦政府が決めるものではない。州でもなくて、その下の自治体が最初に条例レベルで決めます。連邦政府が何と言おうが、やらないと決めたらやらない。これがアメリカ型の公衆衛生システムです。

 これを日本に引き付けて考えれば、たとえば横浜市はどうしてワクチン接種が遅かったのか、大阪市でなぜ犠牲者が多かったのか、ということをきちんと議論しなければいけない。実は巨大自治体では公衆衛生は機能しないんです。日本で一番大きい自治体は横浜市、次いで大阪市です。でも、こんな議論は誰もしないでしょう。

――していないです。残念ながら、メディアもそういう観点からの問題提起はしていないと思います。

 メディアの批判力も弱っていると思いますよ。朝日や毎日などのリベラル系新聞がもっと批判力を回復させないとだめですね。一番批判的に書いているのはむしろ日経ですよ。

――メディアが社会的役割を果たしていないと。

 そうです。

ニッチな領域で実績を出すしかない日本の製薬会社

――コロナウイルス対策についても、真剣に取材を続けていれば、問題点は分かるのではないですか。

 でも、たとえばワクチンだって、日本の議論は世界より半年は遅い。お話になりません。ワクチンの確保だって、国内の製薬会社のワクチンなどはもういい。補助金はあげるからもう邪魔しないで、と言わなければいけません。ワクチンに関しては、アメリカしか開発できていないんです。同盟国の日本は、多少お金を払ってもいいから早く確保するしかない。

――日本国内でもワクチンをつくる必要があるのではないですか。

 できるわけないじゃないですか。抗体価は上がったけど、感染者は減らすことができなかったというケースは世界にけっこうある。ドイツのキュアバックという会社のものもその一つです。抗体価が上がっても、感染者を減らす保証はないんです。

――要するに、今のところ、ファイザーなどアメリカの製薬会社を信用するしかないと。

 アメリカの医学図書館にある臨床試験のデータベースを見ると、ファイザーの試験の回数と、日本の製薬会社、たとえば塩野義などの回数とは桁が違う。実力が全然違うんです。

 子どもの先天疾患のワクチンといったニッチな領域では塩野義にも勝ち目があります。ライバルがいないからです。でも、コロナワクチンみたいなグローバルに売れる分野では、塩野義や武田薬品では勝負になりません。

 ファイザーと塩野義、武田ではまったく規模が違うんです。「4000億円かけてすぐに治験しよう」というファイザーの連中と、「国の買い上げがなければ無理だ。国としての支援体制が必要だ」と言っている日本の会社とでは、話になりません。

 たとえて言えば、幕末に徳川幕府が大英帝国と戦争したようなものです。日本の会社にすれば、ニッチ領域で着実に実績を出していくしかない。その意味で、厚労省は国際感覚がないんです。

拡大ファイザー製ワクチンの準備をする看護師=2021年11月10日、米メリーランド州シルバースプリング、ランハム裕子撮影

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筆者

佐藤章

佐藤章(さとう・あきら) ジャーナリスト 元朝日新聞記者 五月書房新社編集委員会委員長

ジャーナリスト学校主任研究員を最後に朝日新聞社を退職。朝日新聞社では、東京・大阪経済部、AERA編集部、週刊朝日編集部など。退職後、慶應義塾大学非常勤講師(ジャーナリズム専攻)、五月書房新社取締役・編集委員会委員長。最近著に『職業政治家 小沢一郎』(朝日新聞出版)。その他の著書に『ドキュメント金融破綻』(岩波書店)、『関西国際空港』(中公新書)、『ドストエフスキーの黙示録』(朝日新聞社)など多数。共著に『新聞と戦争』(朝日新聞社)、『圧倒的! リベラリズム宣言』(五月書房新社)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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