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NPTとG20でのロシアの振る舞いは“妨害行為”でしかない

ロシアを国際社会から排除すべきこれだけの理由

登 誠一郎 社団法人 安保政策研究会理事、元内閣外政審議室長

目に余る国際会議でのロシアの妨害行動

 2月末のウクライナ侵略以降、多数の民間人殺戮を含む国際社会の法と秩序を蹂躙してきたロシアは、8月末に、とうとう核軍縮に関する最も基本的な条約であるNPT(核不拡散条約)の運用改善を検討するための国際会議において、ただ1国のみ反対して、合意文書の作成を葬り去った。

拡大核不拡散条約(NPT)の再検討会議が開かれた国連総会議場=2022年8月26日、米ニューヨークの国連本部

 ロシアは、核兵器非保有国であるウクライナに対して核兵器の使用を仄めかすという絶対に行ってはならない暴挙を行い、さらには同国のザポリージャ原子力発電所への攻撃と占拠という重大犯罪を犯した国である。そのロシアが、7年ぶりに開催されたNPTの運用検討会議において、ロシアの合意を得るために同国に対する名指しの非難は全て削除されて大幅にトーンダウンされた表現、例えば「ザポリージャ原発周辺の状況への重大な懸念」という同会議の最終文書案中の最低限の表現さえ受け入れず、同文書の採択をブロックしたのである。

 このようなロシアによる国際会議における合意の妨害行動は、NPTに限らず、G20(主要20カ国・地域首脳会議)などにおいても顕著に表れている。なお7月にインドネシアで開催されたG20の財務大臣・中央銀行総裁会議において、ロシアが合意を拒否した際に、カナダのフリーランド財務大臣が会見で、「ロシアの出席は、消防士の会合に放火犯を招くようなものだ」と述べたのは、言い得て妙な発言と思う。

会議最終日に突然の合意拒否

 NPTの会議関係者によると、現地ニューヨークの最終日である8月26日の朝の段階で、ロシア代表団は、最終合意案に問題ありとの態度は示しておらず、国連事務局はじめ各国代表団も、会議が午後3時に開会されれば、最終合意案は採択されるとの見通しを持っていた由である。

拡大核不拡散条約(NPT)の再検討会議の決裂後、言葉を交わすロシアの代表団=2022年8月26日、米ニューヨークの国連本部

 しかし同日の昼に突然、ロシア代表団は議長に対して、最終文書案は受け入れられないとして、ザポリージャ原発関連の項目及び1994年にウクライナがロシアから独立した際の安全保障に関するブダペスト覚書に関する表現の大幅修正を要求した。しかし議長は、最終合意案は、各国の妥協の下にたどり着いたぎりぎりの表現であり、ロシアの修正要求を他の諸国が受け入れる余地はないと判断し、合意文書の採択は不可能と宣言せざるを得なかった。


筆者

登 誠一郎

登 誠一郎(のぼる・せいいちろう) 社団法人 安保政策研究会理事、元内閣外政審議室長

兵庫県出身。東京大学法学部卒業後、外務省入省(1965)、駐米公使(1990)、ロサンジェルス総領事(1994)、外務省中近東アフリカ局長(1996)、内閣外政審議室長(1998)、ジュネーブ軍縮大使(2000)、OECD大使(2002)を歴任後、2005年に退官。以後、インバウンド分野にて活動。日本政府観光局理事を経て、現在、日本コングレス・コンベンション・ビューロー副会長、安保政策研究会理事。外交問題および観光分野に関して、朝日新聞「私の視点」、毎日新聞「発言」その他複数のメディアに掲載された論評多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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