県内の多くの団体から支持を集めたのに佐喜真淳氏はなぜ勝てなかったのか……
2022年09月17日
2022年9月11日に投開票された沖縄県知事選挙では、米海兵隊普天間飛行場の辺野古移設に反対する「オール沖縄」を率いる現職の玉城デニー氏が、自民・公明両党の推す佐喜真淳氏と、元郵政民営化担当大臣で無所属の下地幹郎氏をおさえて再選した。玉城氏は33万9767票を獲得、次点の佐喜真氏に約6万5000票もの差をつけての大勝だ。
今回の沖縄知事選の投票率は57.92%、前回の2018年の知事選よりも5.32ポイント低い史上二番目の低さとなった。全国的に見れば低い数字ではないが、沖縄は国政・地方選挙よりも知事選の投票率が高くなる地域であり、1976年の知事選では最高の82.07%を記録している。1990年までは70%台から80%台を維持、2002年に57.22%という最低の投票率を記録した後は4回連続で60%台だった。
選挙は投票率が低くなると組織票を集めた方が勝つ、と一般的にはいわれるが、今回の沖縄知事選にはその法則があてはまらない。
佐喜真氏は前回の知事選に出馬したときと同様、県内の経済界主要6団体から推薦を受けたことに加えて、今回は県経営者協会や沖縄経済同友会の有志会員の支援も受けた。2021年の衆議院選挙では下地氏を支援した県内最大手建設会社の国場組、二番目に大きい大米建設(下地氏の兄が会長)も、今回は佐喜真氏支持に回った。さらに、前々回、前回の知事選でオール沖縄を支援した金秀グループも、今回は佐喜真氏を支援していた。
ここまで県内団体の支持を集めたにもかかわらず、佐喜真氏が勝てなかったのはなぜだろうか。
まず、NHKの出口調査から分かるのが、佐喜真氏が自公支持層の票を固めきれなかったことだ。自民党支持層の中で佐喜真氏に投票した有権者は60%台半ば、公明党支持層では70%あまりにすぎない。自民党支持層の20%台半ば、公明党支持層の約3割は玉城氏に投票している。
報道でいわれているのは、前職が宜野湾市長だった佐喜真氏は県内での知名度が限られており、この4年間の浪人生活でさらに低下。そのため、知事選と同日に行われた沖縄統一地方選の自民候補者たちが、佐喜真氏の名前を同時に売り込む「セット戦術」に非協力的だった。また、佐喜真氏と世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係が報じられたことで、創価学会員の公明党支持者が離反したという。
加えて、期待する政策として「経済振興」をあげた有権者が31%と、「基地問題」の23%を上回っていたにもかかわらず、経済振興を重視する有権者の約3割が玉城氏に、約1.5割は下地氏に投票した。佐喜真氏は政府の支援を財源とした経済振興策を公約に掲げたが、説得力を欠いていたようだ。
9月11日の朝日新聞デジタルは、佐喜真氏が掲げた「沖縄振興予算3500億円」は岸田文雄内閣と調整していない公約にすぎず、むしろ政府は知事選の告示直前、前年よりさらに200億円減の2798億円という来年度概算要求額を示したことを指摘している。
また、9月14日の毎日新聞によれば、上司の指示で佐喜真氏の総決起大会に参加した建設会社の社員は、「『今の知事が悪い』と言うけれど、(1人当たりの)県民所得はずっと全国最下位。その状況をつくったのは自民党の皆さんですよ」と語り、佐喜真氏の演説が始まる前に席を立った。途中退席者は相次ぎ、「佐喜真氏の苦戦を象徴する光景だった」という。
9月16日の沖縄タイムスでも、「(佐喜真氏の公約は)支援が観光分野に偏り過ぎて他業種からの理解を得られなかった」という、経済団体幹部の声が紹介されている。
さらに、市町村別の候補者得票数を見ると、佐喜真氏は強固な保守地盤である島嶼(とうしょ)地域を制することができなかった。オール沖縄は2014年の知事選で誕生して以来、米軍基地問題を争点に選挙を闘ってきたが、石垣島、宮古島をはじめとする島嶼の有権者の多くは、米軍基地がないことから一貫してオール沖縄を支持してこなかった。
ところが、オール沖縄誕生時を含めた3回の知事選の中で今回初めて、石垣島、宮古島で僅差(きんさ)とはいえ玉城氏が最多票を獲得している。特に、下地氏の地元である宮古島で勝利したのは画期的だ(2014年には、下地氏が現職の仲井眞弘多氏、オール沖縄の翁長雄志氏をおさえて最多票を獲得)。
私は、知事選の間、石垣島に数日滞在したが、コロナの影響で集会の開催や島外からの関係者来訪は自粛され、市街地は静まり返っていた。知名度のない佐喜真氏がコロナ禍で島嶼地域を積極的に回れない状況は、現職の玉城氏との闘いに不利に作用したことは間違いない。
しかし、それだけでは前回制した石垣・宮古で今回負けた説明としては弱い。地元メディアの間でささやかれたのは、自民党沖縄県連が、知事選と同時に行われた県議選補選に、県内で格安ホテルを大規模展開する「Mr. KINJO(MK)」グループの社長で広告塔の、下地ななえ氏を擁立したことが、石垣・宮古の観光業界の不評をかったという説である。MKは近年、石垣・宮古に相次いでホテルを建設し、地元ホテルから観光客を奪っていた。
佐喜真氏は無党派層を取り込むこともできなかった。NHK出口調査によれば、投票した人のうち無党派層は33%。10~30代が多くを占める。無党派層のうち20%台後半の有権者が佐喜真氏に投票した。一方、玉城氏に投票したのは50%台後半にのぼる。
同調査では、「基地の辺野古移設」を「容認」する10~30代が同年代の「反対」よりも多く、容認派は佐喜真氏に投票したと見られるため、若者は佐喜真氏を支持したという報道も見られたが、実際には容認と反対はほぼ拮抗(きっこう)。わずかに容認が上回っているにすぎない。
過去の沖縄県の各選挙における年齢別投票率の推移を見ると、20代の投票率は各年代の中で最低となっており、10代は2番目に、30代は3番目に低い。ちなみに、前回の知事選における10代の投票率は47.27%、20代は44.9%、30代は57.29%だった。
これに対して、この10年間ずっと最も投票率の高い70代の前回知事選投票率は77.88%。同じく2番目に高い60代は76.83%、3番目の50代は72.20%、4番目の40代はぐっと下がって65.50%となっている。
今回選挙に行った10~30代の40%台半ばが佐喜真氏に投票したが、おそらくこの年代の投票者全体に占める割合は小さく、選挙結果への影響は少なかっただろう。
下地氏が10~30代の約1割の票を獲得したことも、佐喜真氏には不利にはたらいた。ちなみに、下地氏は全年代で約1割の支持を得ている。
NHK出口調査では、「基地の辺野古移設」に反対と答えた人の年代別割合と、玉城氏に投票した年代別割合が一致しており、辺野古移設に反対する有権者(23%)は玉城氏に入れたことがうかがえる。
ただ、それだけでは玉城氏が佐喜真氏、下地氏に大勝した説明がつかない。玉城氏が無党派層の半数以上の支持を得て、他の候補者に差をつけた理由はなんだろうか。
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