山本章子(やまもと・あきこ) 琉球大学准教授
1979年北海道生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。博士(社会学)。2020年4月から現職。著書に『米国と日米安保条約改定ー沖縄・基地・同盟』(吉田書店、2017年)、『米国アウトサイダー大統領ー世界を揺さぶる「異端」の政治家たち』(朝日選書、2017年)、『日米地位協定ー在日米軍と「同盟」の70年』(中公新書、2019年)など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
県内の多くの団体から支持を集めたのに佐喜真淳氏はなぜ勝てなかったのか……
さらに、市町村別の候補者得票数を見ると、佐喜真氏は強固な保守地盤である島嶼(とうしょ)地域を制することができなかった。オール沖縄は2014年の知事選で誕生して以来、米軍基地問題を争点に選挙を闘ってきたが、石垣島、宮古島をはじめとする島嶼の有権者の多くは、米軍基地がないことから一貫してオール沖縄を支持してこなかった。
ところが、オール沖縄誕生時を含めた3回の知事選の中で今回初めて、石垣島、宮古島で僅差(きんさ)とはいえ玉城氏が最多票を獲得している。特に、下地氏の地元である宮古島で勝利したのは画期的だ(2014年には、下地氏が現職の仲井眞弘多氏、オール沖縄の翁長雄志氏をおさえて最多票を獲得)。
私は、知事選の間、石垣島に数日滞在したが、コロナの影響で集会の開催や島外からの関係者来訪は自粛され、市街地は静まり返っていた。知名度のない佐喜真氏がコロナ禍で島嶼地域を積極的に回れない状況は、現職の玉城氏との闘いに不利に作用したことは間違いない。
しかし、それだけでは前回制した石垣・宮古で今回負けた説明としては弱い。地元メディアの間でささやかれたのは、自民党沖縄県連が、知事選と同時に行われた県議選補選に、県内で格安ホテルを大規模展開する「Mr. KINJO(MK)」グループの社長で広告塔の、下地ななえ氏を擁立したことが、石垣・宮古の観光業界の不評をかったという説である。MKは近年、石垣・宮古に相次いでホテルを建設し、地元ホテルから観光客を奪っていた。
佐喜真氏は無党派層を取り込むこともできなかった。NHK出口調査によれば、投票した人のうち無党派層は33%。10~30代が多くを占める。無党派層のうち20%台後半の有権者が佐喜真氏に投票した。一方、玉城氏に投票したのは50%台後半にのぼる。
同調査では、「基地の辺野古移設」を「容認」する10~30代が同年代の「反対」よりも多く、容認派は佐喜真氏に投票したと見られるため、若者は佐喜真氏を支持したという報道も見られたが、実際には容認と反対はほぼ拮抗(きっこう)。わずかに容認が上回っているにすぎない。
過去の沖縄県の各選挙における年齢別投票率の推移を見ると、20代の投票率は各年代の中で最低となっており、10代は2番目に、30代は3番目に低い。ちなみに、前回の知事選における10代の投票率は47.27%、20代は44.9%、30代は57.29%だった。
これに対して、この10年間ずっと最も投票率の高い70代の前回知事選投票率は77.88%。同じく2番目に高い60代は76.83%、3番目の50代は72.20%、4番目の40代はぐっと下がって65.50%となっている。
今回選挙に行った10~30代の40%台半ばが佐喜真氏に投票したが、おそらくこの年代の投票者全体に占める割合は小さく、選挙結果への影響は少なかっただろう。
下地氏が10~30代の約1割の票を獲得したことも、佐喜真氏には不利にはたらいた。ちなみに、下地氏は全年代で約1割の支持を得ている。
NHK出口調査では、「基地の辺野古移設」に反対と答えた人の年代別割合と、玉城氏に投票した年代別割合が一致しており、辺野古移設に反対する有権者(23%)は玉城氏に入れたことがうかがえる。
ただ、それだけでは玉城氏が佐喜真氏、下地氏に大勝した説明がつかない。玉城氏が無党派層の半数以上の支持を得て、他の候補者に差をつけた理由はなんだろうか。
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