映画『暴力をめぐる対話』から学ぶ──警察暴力はどうすれば押し返せるのか
五野井郁夫 高千穂大学経営学部教授(政治学・国際関係論)
どの国でも路上でのデモや抗議行動で、イヤというほど目にするのは警察暴力である。では警察は暴力をふるうことを許されているのだろうか。
路上での警官らのように広い裁量の余地をもって職務を遂行している行政職員を、政治学者のマイケル・リプスキーは「ストリートレベルの官僚制」と呼んだ。ダヴィッド・デュフレーヌ監督のドキュメンタリー映画『暴力をめぐる対話』は、警察官が市民に対して非対称的にふるう暴力の問題に切り込んだ作品で、2020年のカンヌ国際映画祭「監督週間」に選出されている。

『暴力をめぐる対話』 ©Le Bureau-Jour2Fête–2020 2022年9月24日(土)より、東京・ユーロスペースほか全国順次公開
この作品で焦点を当てているのは、フランスの「黄色いベスト運動」と、同運動を鎮圧しようとする警察の暴力の実態である。「黄色いベスト運動」は2018年11月に、政府の燃料増税をきっかけにしてフランス全土に広がった反政府抗議デモだ。黄色の蛍光色のベストはフランスではごくありふれたものだ。このデモの名前は、もともと交通安全のために自動車運転者に常備が義務付けられて広まった黄色い安全ベストを参加者が多く着用したことにちなむ。
19年に入っても毎週継続され、ピーク時には28万人もが参加して、燃料費の値上げや物価高をもたらしたマクロン大統領の辞任を訴えた。これまで政治にあまり関心を持つことのなかった、都市郊外(バンリュー)で生活している中流階級よりも下の階層の市民が中心となり、デモはフランス各地へと伝播した。
この過程でデモ参加者の一部は暴走し、銀行のATMや有名ブランド店が、かれらを抑圧する階級らの象徴だとして襲撃された。パリのシャンゼリゼ通りとジョルジュサンク通りの交差点に位置する超有名五つ星ホテル「オテル・バリエール・ル・フーケ・パリ」に併設されている老舗カフェはセザール賞のパーティー会場として知られるが、ここも支配階級の富の象徴として焼き討ちされ、長期休業に追い込まれた。