藤原秀人(ふじわら・ひでひと) フリージャーナリスト
元朝日新聞記者。外報部員、香港特派員、北京特派員、論説委員などを経て、2004年から2008年まで中国総局長。その後、中国・アジア担当の編集委員、新潟総局長などを経て、2019年8月退社。2000年から1年間、ハーバード大学国際問題研究所客員研究員。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
日中国交正常化50周年の日本に必要なのは現実的で冷静な対中戦略だ
米国のペロシ下院議長の台湾訪問に反発した中国による台湾周辺での大がかりな軍事演習は、日本の主張する排他的経済水域にも及んだ。
こうした中国の傍若無人のふるまいに対して、日本では多くの政治家や少なからぬメディアが台湾有事の恐れを指摘するだけでなく、「台湾有事は日本有事」と離島防衛など国防の強化を唱える。
米国で日米防衛相会談を終えたばかりの浜田靖一防衛相も9月21日、日本最西端で台湾に近い沖縄県与那国島を訪れ、陸上自衛隊与那国駐屯地を視察。朝日新聞の報道によれば、「南西地域の防衛態勢の強化は、我が国にとって喫緊の課題だ。目に見える形で強化していきたい」と述べた。
日本と中国が国交を正常化して9月29日で50年になるのを前に朝日新聞社が10、11両日に実施した世論調査で、日中関係の現状について「うまくいっている」という回答は11%にとどまり、「そうは思わない」が83%と圧倒的多数を占めた。全国対象の世論調査では初めてという、台湾をめぐり米国と中国の武力衝突が起きて日本が巻き込まれる不安感を聞いた質問では、「感じる」という回答が76%に達した。調査結果からは、日中国交正常化50周年を祝う雰囲気は希薄だ。
台湾と中国の関係は本当のところどうなのか。日本は防衛を強化するしかないのか。まずは、この半世紀の台湾をめぐる推移を振り返りたい。今や台湾情勢を危機と呼ぶことが当然のようになっているが、台湾海峡両岸関係はずっと緊張していたことを知らない人が少なくないからだ。
中華人民共和国は1949年に中国共産党主導により建国されたが、台湾統一は未完の大業だ。憲法には「台湾は、中華人民共和国の神聖な領土の一部である。祖国統一の大業を成し遂げることは、台湾の同胞を含む全中国人民の神聖な責務である」と規定されている。
共産党の宣伝活動は虚実入り混じるが、「台湾統一」は長期の権力掌握を狙う習近平国家主席・党総書記の野望というだけでなく、多くの国民が共有する悲願であることは、長年中国人と付き合ってみて私は実感している。
共産党との内戦に敗れ台湾に逃れた蒋介石率いる国民党の息の根を止めるため、中国はいわゆる第三世界との共闘を進めた。その結果、1971年の第26回国連総会では、中華人民共和国が安全保障理事国としての代表権獲得と「蒋介石の代表」の追放を認める決議が採択された。これを受けて、台湾は国連を脱退し、国際的に孤立する。
中国は常任理事国となり、冷戦下の国際環境が激変した。日本は翌年、中国と関係を正常化した。
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