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国葬で葬るべきは安倍氏ではない、私たちの「欲望」だ

現実逃避の「日本、スゴイ!」幻想と長期腐敗体制とに縁切りする日

白井聡 京都精華大学人文学部准教授

望まれざる国葬

 本日、安倍晋三元総理の国葬が執り行われる。政府の見解では正式には「国葬儀」というらしいが、略せば「国葬」だから同じことだ。いずれにせよ、本日は亡くなった安倍氏を送る区切りの日となる。

 振り返れば、7月8日、安倍氏が銃撃され死亡して以来、日本政治、そして日本社会には激震が走っている。殺害を実行した山上徹也容疑者の動機が旧統一教会(以下「統一教会」と略記)による家族の崩壊、その恨みにあることがわかり、安倍氏は自民党において統一教会と最も関係の深い政治家の一人であったことが判明した。

 そして、自民党自体の統一教会との関係の深さ――絶縁不可能なほどの深さ――も判明し、かつては霊感商法で悪名を轟かせ、最近では信者からの財産の収奪に血道をあげていたこの犯罪的集団の所業が、あらためて注目を浴びた。押しも押さもせぬ日本政治の絶対王者たる自民党が、あたかもこの集団の庇護者であるかのように振る舞ってきたことの衝撃は大きい。この間、岸田文雄政権の支持率が劇的に低下していったのは、当然である。

 ゆえに、殺害事件発生直後には安倍氏国葬への世論の賛否は国論を「二分」する状況にあったが、2カ月以上が経過するなかで少なく見積もっても過半の国民が賛同しない国葬となって当日を迎えている。

安倍元首相の国葬反対を訴えるデモは全国各地でおこなわれている=2022年9月19日、東京都渋谷区拡大安倍元首相の国葬反対を訴えるデモは全国各地でおこなわれている=2022年9月19日、東京都渋谷区

 そして他方では、安倍氏が亡くなって以来、あたかも重しが取れたかのように、東京五輪をめぐる、かねて事情通の間ではさんざん問題視されていたが等閑に付せられていた汚職の問題に、特捜検察は猛烈に切り込み始め、逮捕者が相次いでいる。

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もし殺害が未遂に終わっていたら?

 このような展開は予期できなかったものだったが、ここで想像をめぐらせてみるべきは、まったく異なった展開もあり得た、ということだ。現実には7月8日の大和西大寺駅前で放たれた銃弾は安倍氏を倒したが、そうならなかった可能性もあったのであり、国家の保安という観点からすれば、本来そうあるべきだったのだ。

 例えば、二発目の銃弾が放たれる前に、警護員(SP)が素早く山上容疑者と安倍氏との間に割って入り、SPが被弾して死亡、安倍氏は重傷を負うものの生命に別条はない、という結果に終わっていたら、今頃どうなっていただろうか。

 もしそうなっていたら、犯行動機の解明、ひいては自民党(さらには安倍氏個人)の統一教会との癒着の問題の解明は進んだだろうか。安倍氏が長期政権――筆者はこれを「長期腐敗体制」と呼んでいる――によって築き上げたのは、いわば「忖度の帝国」であった。安倍氏に、与党政治家が忖度し、官僚が忖度し、司法が忖度し、財界が忖度し、メディアが忖度し、有識者が忖度し、ついに長期政権は「一強体制」となった。銃撃を受けても安倍氏がなお健在であったら、この忖度のメカニズムは機能し続けたであろうと筆者は想像する。

 そうなれば、山上容疑者の犯行動機が統一教会に関係することが、ここまで明らかにされたとは、筆者には到底思えない。現にこの国のメディアは、事件直後には「統一教会」の名を出すことを躊躇したではないか。そうはいっても、どうやらこの暗殺未遂事件の背景には統一教会の問題があるらしいぞ、という情報は漏れ出たであろうが、そのペースは遅く、情報の明瞭性ははるかに劣ったものとなったであろう。

安倍晋三元首相は2021年9月、旧統一教会の友好団体が主催した韓国でのイベントにビデオメッセージを寄せていた拡大安倍晋三元首相は2021年9月、旧統一教会の友好団体が主催した韓国でのイベントにビデオメッセージを寄せていた

 要するにこの場合、山上容疑者の動機はよくわからないものとなったであろう。そしてその時、何が動機として疑われ、誰がその責を問われることになったであろうか。

 端的に言って、筆者のようにこの間安倍氏を中心とする自民党政権を強く批判してきた者たちが、激しい非難を浴びることになったであろう。

 そうした兆候は、銃撃事件の直後にはっきりと現れていた。例えば、この間政府有識者会議の委員等に頻繁に登用されてきた落合陽一筑波大学准教授は、Twitter上で次のように発言した

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筆者

白井聡

白井聡(しらい・さとし) 京都精華大学人文学部准教授

1977年生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、一橋大学大学院社会学研究科総合社会科学専攻博士後期課程単位修得退学。博士(社会学)。専攻は政治学・社会思想。著書に『永続敗戦論――戦後日本の核心』(太田出版)、『未完のレーニン――〈力〉の思想を読む』(講談社選書メチエ)、『「物質」の蜂起をめざして――レーニン、〈力〉の思想』(作品社)『国体論――菊と星条旗』(集英社新書)。共訳書に、スラヴォイ・ジジェク『イラク――ユートピアへの葬送』(河出書房新社)、監訳書にモイシェ・ポストン『時間・労働・支配――マルクス理論の新地平』(筑摩書房)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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