「野党共闘」の実態と課題 政権交代には何が必要か~日本共産党の見方は
「政党」としての公明党~一学究の徒の政治学研究【16】
岡野裕元 一般財団法人行政管理研究センター研究員
「論座」では「『政党』としての公明党~一学究の徒の政治学研究」を連載しています。1999年に自民党と連立を組んで以来、民主党政権の期間をのぞいてずっと与党だったこの党はどういう政党なのか、実証的に研究します。今回はその16回。13回から論じている、地方政治や地方選挙の現状を政党がどう認識しているかについて、共産党を軸に考察を深めます。(論座編集部)
◇連載「『政党』としての公明党~一学究の徒の政治学研究」は「こちら」からお読みいただけます。

共産党創立100周年を記念して講演する志位和夫委員長=2022年9月17日、東京都渋谷区
連載の第14回「有権者の地方選での投票行動はどう変わったか?~国民民主党の見方は……」では国民民主党の古川元久・国対委員長に、第15回「地方政治、沖縄県民と向き合う社会民主党の流儀とは~福島瑞穂党首に聞く」は社民党の福島瑞穂・党首にそれぞれ話を聞いた。本稿では、前半で「野党共闘」の分析、中盤で日本共産党中央委員会文書回答(2022年8月19日)を中心とした同党の地方政治と地方選挙の認識、後半で地方選挙における有権者意識データを扱う。
なお、この一連のテーマについては、第13回「地方選挙における候補者の集票環境はどう変わったか~明推協意識調査から考える」からお読みいただければ幸いである。
共産党の分析が必要なわけ
はじめに筆者の視点を述べたい。日本共産党を扱う理由は、社会党とともに1947年4月の第1回統一地方選挙から選挙に臨み続けているという歴史的経緯に加え、2021年総選挙に向けて与党へのシフトチェンジを試みた背景からも説明できる。
平成期は連立政権が常態化した。自民党と旧民主党は二大議員政党であるが、公明党と日本共産党は二大組織政党である。日本政治全体のバランスを見て、与野党それぞれに強力な組織政党があることは大切だ。もっとも筆者は、連載の第1回「自民党との連立で「質的役割」を果たした公明党~ライバルは日本維新の会か」、第10回「実は公明党と似ている日本維新の会。どういう政党か~参院選で躍進。今後は……」、第11回「若手の活用、オンライン文化、地方との協働……日本維新の会の四つの特徴」、第12回「代表選告示の日本維新の会。その組織の実態は~議員教育、党職員、維新政治塾……」で扱ったように、日本維新の会が公明党の実質的ライバルと考えている。
日本共産党は、2021年10月の衆議院選に臨むにあたり、「限定的な閣外協力」をするとしたが、帰結として連立与党として国の行政権・統治権を担う可能性も考えられる。それゆえ、「与党としての日本共産党」とはどのような姿なのか。どのように行政権を行使し、国の統治を行うのかについて考える事には意義がある。
目下の政治状況では、ただちに政権交代が生じるとは考えにくい。しかし、研究の蓄積は純粋に必要であり、日本共産党も議会政党の一つとして、政治学的視点から分析が試みられるべきだ。イギリスの「影の内閣」ならぬ「影の連立与党」という見方も、頭の片隅に持っておくべきだろう。
日本共産党を論じることの難しさ
同党が、「ここで強調したいのは、日本共産党が、日本の政治を根底から変革する民主主義革命を綱領的任務とし、さらにすすんで社会主義・共産主義社会を築くことを目標にかかげる変革の党であり、革命政党だということです。だからこそ支配勢力は、その前進・躍進をおそれ、たえず攻撃をしかけてきます。しかも2020年の綱領一部改定が明らかにしたように、発達した資本主義国における社会変革の事業には、巨大メディアの影響など『特別の困難性』があり、それを打ち破って前進をはかるためには、特別の力を必要とします」と主張している点は承知している(「日本社会の根本的変革をめざす革命政党にふさわしい幹部政策とは何か――一部の批判にこたえる」『しんぶん赤旗』2022年8月24日2022年9月23日閲覧)。歴史も振り返ると、有権者からの評価も大きく分かれる。
年齢が上の世代では、学生運動が活発な同時代のリアルな経験もある。他方、住民に近い現場の地方政治、地方議会レベルでは、「リアリズム」での対応も行われる。党綱領や党史からの分析と、住民により身近な地域レベルからでは、導き出される同党の姿に相当の差があり、同党を研究すればするほど、より理解が難しくなる。さらに、他党と異なって党組織がしっかりしており、党組織(各級委員会)と議員団とに分けて分析した方が良い。したがって、日本共産党の政党組織研究をする場合、「国政―地方」、「党組織―議員団」という4象限で捉えると理解しやすい。
以上の同党特有の事情から、佐藤優『日本共産党の100年』(朝日新聞社、2022年、p.247)での「日本共産党について論じる場合、純正中立の立場は存在しないと考える。日本共産党の公式文献、党幹部の公刊資料を用いるにしても、どの資料のどの箇所を重視し、どのように関連づけるかでまったく異なった物語が生じる」との指摘には同意できる。
同党を対象とした著作物は、同党や社会一般、学者間から何らかの評価を受けるため、執筆者自身も気にする点である。しかし、私的立場の利己心から「清水の舞台から飛び下りる」こと自体を避け、社会へ知の還元を停滞させることは、学者の社会的使命から考えて果たして良いことなのか。この点で中北浩爾『日本共産党』(中央公論新社、2022年)の実証研究は大いに評価できるし、筆者も拙稿「日本共産党のマルチレベルにおける党内ガバナンス―候補者リクルート、地方議員教育、補佐・支援体制にも着目して—」(『政治学論集』第35号、学習院大学大学院政治学研究科、2022年)で試みている。
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