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玉川徹氏「電通」発言を機に放送への政治的圧力を高める与党議員

ウクライナが北朝鮮にミサイルエンジンを売ったという西田昌司氏の発言も、真実なのか

郷原信郎 郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士

 「羽鳥慎一モーニングショー」のレギュラーコメンテイター玉川徹氏が、安倍元首相の国葬における菅義偉前首相の弔辞に関して、翌日の9月28日の番組で、「電通が入っていますからね」と発言したことについて、実際には、電通は国葬に一切関わっていないことが判明し、翌日の番組で玉川氏が訂正・謝罪、その後、テレビ朝日から10日間の謹慎処分を受けた。

 今回の玉川氏の発言については、テレビ朝日において、「電通の関与」が真実ではなかったことについて訂正・謝罪放送が行われ、放送法上の対応としては十分だと考えられるが、それに加えて、玉川氏に対して10日間の謹慎処分、番組関係者に対しても社内処分が行われた。

 意図的な虚偽、捏造報道の疑いがあるというのであればともかく、誤解によって真実ではない発言を行ったというだけで、出演者の「社員個人」が責任を問われるというのは、過去に殆ど例がないのではないか。そのような処分が当然のように行われるようになれば、放送の現場は萎縮し、積極的に真実に迫ろうとする報道や番組制作自体が困難になってしまう。

 テレビ朝日が、そのような放送事業のコンプライアンスとして理解できない対応を行ったことの背景には、自民党国会議員からの強い反発、政治的圧力があるのではないかと考えられる。

 そのような「政治的圧力」をかける発言を公然と行っているのが、自民党の西田昌司参院議員である。

「電通が入っていますからね」発言について、翌9月29日の放送で訂正・謝罪した玉川徹氏「電通が入っていますからね」発言について、翌9月29日の放送で訂正・謝罪した玉川徹氏

西田議員の「玉川発言」批判と謝罪要求

 西田議員は、玉川氏の発言へのテレビ朝日の対応に関して、自らのYouTube番組で、

 まず謝罪をしなくちゃならないのは、この弔辞を言ったですね、菅義偉(前)総理であるし、また昭恵夫人はじめご遺族の方々に対してですね。これ本当に失礼なことを言ったということで、それこそお詫びをしなきゃならないと思うんですけれども、そのこと全く触れてないんですね。社長がまったく触れずに。電通さんには謝罪したと言っているんだけれども。(略)私はテレ朝の社長も会長も含めですね、まさにこれがテレ朝なんだなと思いますね。そもそも椿報道局長のやらかした事件からまったく何も学んでいない、反省もしない。

 などと発言し、その後、夕刊フジの記事で、以下のように述べている。

 国民は、政治的に公平だという前提でテレビを視聴する。虚偽の情報を事実として伝えることは危険な『政治的偏向』だ。テレビ朝日は、玉川氏個人の事実誤認としているが、本当にそうか。組織として詳細な経緯を説明する責任がある。
 極めて重大な問題で、国政の場でも強く提起したい。

 しかし、西田議員のテレビ朝日への批判には、その前提に誤りがあり、「菅前首相や昭恵夫人への謝罪」を求めていることは筋違いだ。民間放送事業者であるテレビ朝日に対して、与党国会議員として「国政の場でも強く提起したい」などと公然と発言していることには、重大な問題がある。

玉川発言の趣旨は「菅前首相の弔辞は演出」なのか?

 西田議員は、玉川氏の発言に関して、テレビ朝日に、菅前首相と昭恵夫人に謝罪するよう求めている。それは、玉川氏が、「菅氏の弔辞が他人の演出で作られた」という発言をし、それが真実ではない発言だったことで、菅氏と安倍元首相の葬儀の喪主である昭恵夫人をも傷つけた、ということを前提にしていると考えられる。

 しかし、関連する玉川氏の発言全体からすると、「菅前首相の弔辞が演出によって作られた」と言っているのではないことは明らかだ。

 玉川氏は、まず、国葬に対する基本的な考え方について、以下のように述べている。

 どういう亡くなり方をしたかで国葬が行われるか行われないかを決めるのは僕は反対です。そもそもが僕は国葬は大喪の礼だけで日本は十分だと思っています。国葬終わったんで言いますけど。要するに政治利用される恐れがある。要するに人の死を政治利用することにつながるわけですよね。今回もそういうふうな部分が多分にあった。だから僕はそういうふうなことをしない方が日本にとって良いんだと思っています。

 そして、以下が、問題となった場面の玉川氏の発言全体だ。

 これこそが国葬の政治的意図だと思うんですよね。当然これだけの規模の葬儀ですから、儀式ですからね、荘厳でもあるし。それから、個人的に付き合いのあった人は、当然悲しい思いをもって、その心情を吐露したのを見れば、同じ人間として、胸に刺さる部分はあるんだと思うんですよ。

 しかし、例えばこれが国葬じゃなくて、自民党・内閣葬だった場合に、テレビでこれだけ取り上げたり、またこの番組でもこうやってパネルで紹介したり、さっきのVTRで流したりとなっていないですよね。国葬にしたからこそ、そういった部分を我々は見るかたちになる。僕も仕事上こうやって見ざるを得ない状況になる。

 それはある種たとえれば、自分では足を運びたくないと思っていた映画があったとしても、なかば連れられて映画を見に行ったら、なかなかよかったよ、と。そりゃそうですよ。映画を作っている方は、意図があって、楽しんでもらえるように、それから胸に響くように作るんです。

 だからこういう風なものも、我々がこういう形で見ればですね、それは胸に響く部分はあるんです。それはそういう形として国民の心に残るんですね。国葬というのはありました、あのときにああいうふうな胸に刺さる言葉がありました、というふうなかたちで既成事実として残るんですね。これこそが国葬の意図なんですね。だから僕は、国葬自体が、やっぱりない方がこの国にはいいんじゃないか。これが国葬の政治的意図だと思うから。


 (この間に、キャスターの羽鳥氏の発言があり、共演者の安部敏樹氏が「このスピーチ自体が多くの人に対して響いたのは、政治的意図を超えたもので、個人としての感情として彼がお話になったのがよかったんじゃないかと思いましたけどね」と言ったのを受けて)

 僕は演出側の人間ですからね。テレビのディレクターをやってきましたから。それはそういう風に作りますよ、当然ながら。政治的意図がにおわないように、それは制作者としては考えますよ。当然これ、電通が入ってますからね。

 (ここで、羽鳥氏が「いや、そこまでの見方をするのか、それともここは本当に自然に言葉が出たのか、見方はいろいろ……」と発言)

 いや、菅さん自身は自然にしゃべっているんですよ。でも、そういうふうな、届くような人を人選として考えているということだと思うんですよ。

 これによると、玉川氏が「そういう風に作りますよ」と言っているのは、「胸に響くように作る」ということだ。それは、映画などを含め、大規模なイベント、コンテンツの制作を行う側として一般的に行われる「演出」のことを意味するものと考えられる。

 玉川氏は、今回の安倍元首相の国葬も、大規模で荘厳な葬儀・儀式であり、その中で、菅首相の弔辞は「心情を吐露した」ものであり、それが「胸に刺さる」と評価した上で、ただ、それは、全体として「胸に響くように作られた国葬という儀式の一コマだ」と言っているのである。

 それに対して、羽鳥氏が、玉川氏が菅氏の弔辞が「演出」だと言っているような言い方をしたので、玉川氏は、「菅さん自身は自然にしゃべっているんですよ。でも、そういうふうな、届くような人を人選として考えている」と言っている。

 これは、菅氏自身の言葉は自然なもので(演出が加わっていなくても)、「(心に)届くような人」を人選することでイベントの演出効果を高めようとするものだという趣旨であり、この部分の玉川氏の説明からも、「そういう風に作ります」という発言は、「菅氏の弔辞が演出のために他人が作ったもの」という意味ではないと考えられる。

 上記の玉川氏の発言の趣旨は、問題の場面の少し前に玉川氏が国葬についての基本的な考え方を示して、「人の死を政治利用することにつながる」と言っているところからも明らかだ。

与党議員による放送事業者への「政治介入」

 玉川氏の発言について、テレビ朝日も放送法に則って対応しており、その対応では、上記のような玉川氏の発言の趣旨が前提にされていると考えられる。

 「真実ではない放送」について、放送法は、放送事業者に対して、「放送番組の編集」について、4条3号で「報道は事実をまげないですること」を義務づけた上、9条1項で

 放送事業者が真実でない事項の放送をしたという理由によって、その放送により権利の侵害を受けた本人又はその直接関係人から、放送のあつた日から三箇月以内に請求があつたときは、放送事業者は、遅滞なくその放送をした事項が真実でないかどうかを調査して、その真実でないことが判明したときは、判明した日から二日以内に、その放送をした放送設備と同等の放送設備により、相当の方法で、訂正又は取消しの放送をしなければならない。

 として、「権利を侵害された者」「直接関係人」からの請求による調査と、それに伴う訂正・取消を規定し、2項で、

 放送事業者がその放送について真実でない事項を発見したときも、前項と同様とする。

 として、放送事業者側の自主的な調査、訂正・取消を規定している。

 玉川氏の発言のうち「当然これ、電通が入ってますからね」と安倍元首相の国葬に電通が関与していると述べた部分については、「放送をした事項が真実でないことが判明した」として訂正放送が行われた。

 この事項について、「権利の侵害を受けた本人又はその直接関係人」に該当するとすれば電通である。しかし、電通からの調査の請求があったという話は今のところ出ていないので、おそらくテレビ朝日が、9条1項ではなく、2項によって自主的に調査し、訂正をしたということであろう。

 一方、玉川氏の発言が、「菅氏の弔辞が演出のために他人が作ったもの」という趣旨で、それについて真実性が疑われるのであれば、同様に調査を行い、真実ではないことが判明すれば、訂正・取消の措置をとることになるはずである。しかし、上記のとおり、発言全体からすると、玉川氏の発言は、「菅氏の弔辞が演出のために他人が作ったもの」という意味ではないことは明らかであり、テレビ朝日の対応でも、それは前提とされているはずだ。

 これらを前提とすれば、西田議員が

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