静かなのに熱気があり、オープン。日本ではできない戸別訪問が有権者と政党を結ぶ
2022年10月19日
9月、スウェーデンとイタリアに行った。両国で行われる選挙を見物するためだ。選挙運動の日本との相違などが興味深かったが、何より両国とも移民排除を掲げてきた右派が伸長し政権を得たことが印象的だった。もしかしたらヨーロッパの曲がり角になったかもしれない先月の二つの選挙。日本との比較を交えつつ、2回に分けてレポートしたい。
最初はスウェーデンのストックホルム。4年に1度おこなわれる総選挙の見物だ1。ざっと街を見ただけの慌ただしい見物だったが、感想としては明るくも薄ら寒い選挙だった。
明るいというのは、町が色とりどりの選挙ポスターで飾られ、「選挙小屋」では候補者らと市民が議論する。選挙がみんなで参加するお祭りのように楽しげなものだったことだ。
うすら寒いというはその華やかなポスターの中身や選挙結果に移民排斥やナショナリズムの高揚など欧州の右傾化・排他化が感じられたからだ。移民は敵だ、EUを出ようなど訴えてきたスウェーデン民主党が勝利して、国会の各委員会の議長職を得ると共に政権入りする可能性も高まっている(2022年10月5日現在)。
スウェーデンは北欧の立憲君主国。国土は日本の1.2倍、人口は約1000万人で首都ストックホルムに約100万人が暮らす(同都市圏には240万人)。政治的には長く社会民主主義の力が強く、高負担高福祉の福祉先進国。文化面での多様性を重んじるリベラルな国としても有名だ。国民の政治参加も盛んで投票率は高い。
若者へのデモクラシー教育も盛んで若年層の投票率も高く、デモクラシーのお手本と見做されることも多い。しかし、21世紀に入って移民排斥を掲げるスウェーデン民主党(SD)が徐々に勢力を伸ばしてきており、パンデミックを挟んだこの4年間でどのような変化が起こったのか。
ウクライナでの戦争を受けてスウェーデンは長年の中立政策を破棄しNATOに加盟申請した。戦争がもたらす生活費の高騰も懸念される中、選挙結果が注目されていた。
街の散策をしながら、選挙風景を見てみる。まずは宿泊したホテルからストックホルムの中心街まで歩いてみよう。
ホテルに近い地下鉄のOdenplan駅。駅前には広場があるが、そこでまず目につくのが大きな期日前投票所とそこに並ぶ長い列だ。コンテナを横に2台並べたほどの、結構大きなプレハブの投票所が設けられ、そこに多くの有権者が並んでいた。この期日前投票所は中央駅構内や図書館、市庁舎などいたる所にあった。
前述の通りスウェーデンの投票率は非常に高い。今回の選挙でも84.2%と日本(2021年55.9%:衆議院選挙区)よりも3割近く高い。理由は、スウェーデンの人々の政治参加意識や、国政選挙と二つの地方選挙(日本での都道府県選挙と市町村選挙)が4年に1度同時に行われることなどが指摘されているが、期日前投票所がいたるところに設けられているのも高い投票率を支えているのだろう。
その駅前広場では政党による選挙運動が行われている。スウェーデンの国政政党の主だったものはスウェーデン社会民主労働党(社民党Arbetarepartiet Socialdemokraterna)、緑の党(Miljöpartiet)、左党(Vänsterpartiet)、穏健党(Moderaterna)、中央党(Centerpartiet)、キリスト教民主党(Kristdemokraterna)、自由党(Liberalerna)、スウェーデン民主党(Sverigedemokraterna)の8つだ。このうち、選挙前は、前者の三つが左派ブロックとして与党を形成し、後者の5つが右派ブロックとして野党勢力であった。
選挙運動は自由党のものだ。10名ほどのボランティアと候補者が、チラシやバッチを道ゆく人々に配りつつ、有権者と話し込んでいる。選挙運動ではあるが、日本でお馴染みの拡声器を使っての名前の連呼などは全くない。スウェーデンの選挙は比例代表で行われるので名前の連呼はいらないのだろうか2 。日本の選挙とは違い静かで、双方向的なのが興味深い。
日本にもれいわ新選組の山本太郎党首の選挙演説や立憲民主党の岡田克也氏の青空集会など対話形式の演説会はあるが、
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