公費投入による価格抑制は、リスク対策を怠った企業を救済する愚策だ
2022年10月20日
岸田文雄首相は、10月12日に電気事業連合会会長ら電力業界の幹部らと会談し、電力会社への支援金によって、値上がりする電気代を抑制するとの方針を表明した。14日には公明党の山口那津男代表と会談し、ガス代についても同様の策を講じると共に、実施中のガソリン代・灯油代についても継続すると合意した。
いわば、高騰するエネルギー代の全般にわたり、供給元のエネルギー企業に補助金を出すことを通じて、価格を抑制する政策を実施することになる。
エネルギー価格は、その基軸になる原油価格を中心に、数年前から上昇傾向にある。国際原油価格の主要指標の一つであるWTI原油の価格は、2021年1月に約50ドル/バレルだったが、2022年1月に75ドル/バレルとなり、ロシアによるウクライナ侵略が始まった2月には125ドル/まで上昇し、その後も75ドル/バレルから100ドル/バレルの間を推移している(ENEOSホールディングス株式会社市況情報)。
しかし、電気代等の急騰は、国際エネルギー価格の上昇だけに帰せられるわけではない。なぜならば、今回と同レベルの国際エネルギー価格の上昇は、過去に何度も起こりながら、ここまでの国内価格の上昇を起こさなかったからだ。長期的に見れば、1990年代後半は25ドル/バレル前後で推移し、2003年ごろから上昇傾向に入り、世界金融危機直前の2008年7月には145ドル/バレルに達し、今回のウクライナ危機においてもそこまでの価格に至っていないからだ。図1は、1996年10月15日から2022年10月14日までのWTI原油の価格推移である。
国内エネルギー価格の高騰のもう一つの原因は、円安の急進である。10月14日のニューヨーク外国為替市場では、円相場が148円/ドルにまで下落した。10年前の2012年には、80円/ドルを切るまでに円高が進行していたが、大規模な金融緩和を明言していた安倍政権の誕生が確実視された2012年末から円安に転じ、図2のとおり、その後の約9年間は100円/ドルから120円/ドルの間を行き来してきた。それが、2022年3月頃から円安の進行が始まり、4月末には130円/ドルを突破し、9月初めに140円/ドルを突破、本稿を執筆している10月中旬には140円/ドル台後半に突入し、150円/ドル台も現実的な視野に入っている。
つまり、国際エネルギー価格の上昇と急激な円安の進行が掛け合わさり、電気代等の国内エネルギー価格の急騰につながっている。これらを見れば、岸田政権による価格抑制策もやむを得ないもように見える。
実際、財務省と日本銀行は9月22日に24年ぶりの円買い為替介入に踏み切ったが、その効果は焼け石に水で、円安の進行を食い止めることはできなかった。巨額マネーが流動する国際為替相場には、さすがの財務省と日銀も敗北したのである。あたかも、絶対国防圏を死守すべく、日本海軍が空母を主力とする艦隊を投入したにもかかわらず、大敗北に終わった1944年6月のマリアナ沖海戦のようである。
問題は、こうした状況が自民党政権の経済政策(アベノミクス)の結果だということである。決して、想定外の出来事でもなければ、回避できなかった状況でもない。むしろ、2012年末の第二次安倍政権以来の自民党政権によって推進されてきた経済政策によって、もたらされた状況といっても過言でない。すなわち、アベノミクスという経済政策が失敗に終わったことを示す状況なのである。
安倍政権による異次元金融緩和は、円安によるインフレという副作用が当初から強く懸念されていた。その懸念は、野口悠紀雄氏や金子勝氏らの政府の外にいる経済学者・エコノミストだけでなく、黒田東彦総裁の前任者であった白川方明総裁ら政府・日銀内部の関係者も有していた。
白川総裁らは、金融緩和による市場へのマネー供給に後ろ向きだったわけでなく、世界金融危機後の経済政策としてそれらの必要性を理解し、実際に日銀は大規模な金融緩和を行っていた。黒田総裁による異次元金融緩和は、リスクを過剰に高めるとして、世界のどこの中央銀行においても、それまで禁じ手と考えられてきた政策であった。
安倍政権による火力発電・原発重視政策は、大企業の業績向上を重視するアベノミクスの一環であった。安倍首相は、民主党政権で実施されていた子ども手当や高校の学費無償化等の家計支援策を縮小し、高度プロフェッショナル制度の導入等の規制緩和を含む、企業支援策を拡大した。
そのなかで、石炭火力発電の拡大と原発の再稼働、そして原発の輸出を重要な産業政策としていた。これらは、福島原発事故前のエネルギー政策への回帰を指向するものであり、化石燃料への依存を継続する方針を示していた。
この火力発電・原発重視政策も、異次元金融緩和と同様に、様々な観点から強い懸念が表明されてきた。まず、
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