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「ブラジルのトランプ」は民主主義を葬り去るのか~大統領選の行方を占う

右派の現職ボルソナーロ vs. 左派の元職ルラ

花田吉隆 元防衛大学校教授

 アメリカ大陸の北と南で二つの大きな選挙が行われようとしている。いずれも現職、乃至、政権与党の劣勢が伝えられていたが、ここに来て急速に盛り返しており選挙の帰趨は見通し難い。結果はそれぞれの国の行方に決定的な影響を及ぼす。

 2年後にトランプ復権があるのか(北、米国)、今後4年間、再び「ブラジルのトランプ(ボルソナーロ大統領)」が政権を握るのか(南、ブラジル)、影響はそれぞれの国の中に止まらない。ブラジルのトランプは、米国のトランプ顔負けに「選挙結果受け入れ拒否」を公言している。

 帰趨が予測しがたいとはいえ、米国の中間選挙(11月8日投票)については大方の見方が一致している。上院は民主、共和両党が競り合い、民主党が議席の半分(50議席)に迫る勢いであり、下院は共和党が優勢であるものの大勝はないとされる。

両候補へのブラジル国民の拒否感

 これに対し、ブラジルの大統領選挙は、当初、元大統領のルラ氏が圧倒的に有利とされていたが、現大統領のボルソナーロ氏が猛烈に追い上げ、10月2日の第1回投票で48%対43%まで差を縮めた。当初予想では10ポイント以上の差がつくだろうとされていたから大きな番狂わせだ。どうしてこうなったか。

拡大ボルソナーロ大統領(左)とルラ元大統領(右)=左 Alf Ribeiro、右 Isaac Fontana/ Shutterstock.com

 ブラジルの世論調査の精度は高いとされていた。対面で有権者の意向を調査していく。しかし、2016年の米国大統領選挙がまさにそうだったように、候補者がポピュリストの場合正確な回答が得にくい。対面調査であることでかえって、ボルソナーロ支持の声が少なく結果に反映されたのではないかと指摘されている。

 ルラ氏に対する有権者の拒否感が思いのほか強かった、との事情もある。拒否感とは、ルラ氏の汚職体質と左派政策に対する嫌悪感だ。ルラ氏は、2003年から8年間、大統領を務めた。当時の資源ブームに乗り輸出額が急増、貧困層に気前よく現金給付をした。お陰で貧困層の多くは貧困を脱し中間層に駆け上がったが、貧困層は今も、あの時の夢よもう一度とルラ氏を熱烈に支持する。

拡大元大統領のルラ氏を支持する人々の集会=2022年10月、ブラジル・レシフェ

 ルラ氏は、3選を禁ずる憲法に従い子飼いのルセフ氏に大統領職を譲ったが、時あたかも資源ブームが終焉を迎えつつあり、ルセフ氏は任期満了を待つことなく政権の座を追われた。国中がルセフ怨嗟(えんさ)の声で湧き上がる中、巨大な汚職事件が明るみに出る。ルラ氏はそれに連座し獄中に18カ月つながれた。結局、ルラ氏の嫌疑は立証されることなく釈放となったが、国民は未だ、ルラ氏に対する疑いの念を払拭していない。他方、主要産業の国有化など、ルラ氏が過激な左派的政策に走るのではないかとの警戒感も産業界を中心として根強く残る。

 もっとも、ボルソナーロ氏に対する有権者の拒否感もこれに負けず劣らず強烈だ。大統領になる前から、かつてのブラジルの軍政を支持し、銃規制の緩和や女性、性的マイノリティーへの蔑視を公言、新型コロナは単なる風邪と対策を怠り世界最多に迫る犠牲者を出した。ボルソナーロはもうごめんだ、という有権者はブラジルに少なくない。

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筆者

花田吉隆

花田吉隆(はなだ・よしたか) 元防衛大学校教授

在東ティモール特命全権大使、防衛大学校教授等を経て、早稲田大学非常勤講師。著書に「東ティモールの成功と国造りの課題」等。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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