長崎県知事選から考える、選挙関係者への報酬ルール整備の必要性
2022年10月25日
「選挙コンサルタント」という職業が、最近、注目をあつめている。
「候補者と共に選挙戦を勝利に導くため科学的根拠に基づいた調査・戦略・戦術の企画を行う者」としての「選挙プランナー」が原形であり、候補者に適した選挙キャンペーンのプランニング、アドバイス等を的確に行うことで有権者の支持を拡大し、当選を果たすための、合理的な選挙戦略の策定をサポートする仕事である。
それが、公職選挙に立候補しようとする者自身に対する助言・指導だけではなく、候補者の当選のため、選挙全般にわたって、当該候補者の陣営をサポートする活動を業務として行う「選挙コンサルタント」として、選挙陣営内部に入り込んで「選挙参謀」的に関わるようになると、「選挙運動」と境を接することになる。
特定の候補者の当選をめざして活動を行う「選挙コンサルタント」が、報酬を受領することは、公職選挙法221条1項の「当選を得若しくは得しめる目的をもつて選挙運動者に対し金銭を供与する」という買収罪に当たる可能性が生じる。
2020年に放送された選挙コンサルタントを描いたテレビ朝日ドラマ「当確師」の冒頭のシーンでは、候補者の陣営の会合で、主演の香川照之が演ずる選挙コンサルタントが「選挙参謀を務めているのはあくまでボランティアで、報酬などもらっていない」と言ったのに対して、陣営幹部が「こっちは1000万円以上のコンサル料を……」という言葉を遮って、「政治活動支援費のことでしょうか。であれば告示前までのアドバイスに対する報酬、告示後にコンサルが報酬を受け取れば公職選挙法違反になる。だから、今はただのボランティア」と言い放ち、陣営側を唖然とさせるシーンがある。
ドラマだけに表現は露骨だが、実際の選挙コンサルタントの活動と報酬の実態を反映したものと言えるだろう。
しかし、活動全体がボランティアというのであればともかく、候補者の当選をめざす一連の活動のうち、「告示前は有償」「告示後はボランティア」という説明は通りにくい。選挙コンサルタントが、公示後の選挙期間中も選挙運動に直接的に関わることを前提に、公示前に報酬を受領したのであれば、「特定の候補者に当選を得させるための活動」の対価を受領したと認められ、買収罪が成立する可能性が生じる。
最近の選挙では、選挙運動を取り仕切る選挙コンサルタントの活動が、一層露骨に行われるようになり、一部では、公選法違反事件となっている。
2019年4月の大阪市議会議員選挙をめぐり、選挙カー運動員4人の手配名目で、仲介した男性らに報酬を含む約75万円を支払ったとされて公選法違反(買収)に問われた事案で、弁護側は「仲介者は『選挙コンサルタント』であり、選挙運動者ではない」と主張したが、「選挙コンサルタントを名乗っていたからといって、その活動が選挙活動でなくなるわけではない」とされ、懲役1年、執行猶予5年の有罪判決を言い渡された事例もある(産経【「グレー」な選挙コンサルへの報酬 セーフ、アウトの線引きは】)。選挙コンサルタントの活動が、選挙運動そのものに及んでいる実態を表すものと言えよう。
2022年2月20日に投開票が行われた長崎県知事選挙で当選した大石賢吾氏の選挙運動をめぐって、選挙後に、大石氏側から、選挙コンサルタント会社J社に、「選挙運動費用」として400万円を超える金銭が支払われたことが、公職選挙法に基づく選挙運動費用収支報告書に記載されていることが明らかとなり、公選法違反(買収)の疑いがあるとして、
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