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防衛力の抜本的強化は見せかけか……

海保予算やインフラ整備費を防衛費に含めるという首相発言の真意はどこに?

山下裕貴 元陸将、千葉科学大学客員教授

 岸田首相は、2022年3月27日に行われた防衛大学校卒業式の訓示において「国際社会が、長きにわたる懸命な努力と多くの犠牲の上に築き上げてきた国際秩序の根幹が、脅かされている。事態の展開次第では、世界も、わが国も、戦後最大の危機を迎えることになる」とし、東アジア情勢については「北朝鮮は、高い頻度で弾道ミサイル発射を繰り返し、最近では新型ICBMまで発射している。中国は、東シナ海、南シナ海で一方的な現状変更の試みを止めることなく、むしろ深刻化させている」と述べている。

 その上で「こうした中で、新たな国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画の策定は、喫緊の課題である。ウクライナ情勢を含め、わが国が直面する厳しい現実から目を背けることなく、これら3文書の検討を加速していく。そして、わが国の領土、領海、領空、国民の生命と財産を断固として守り抜くために、あらゆる選択肢を排除せずに、防衛力を抜本的に強化していく」と防衛力の抜本的強化について強調した。

隊員自衛隊観閲式で岸田文雄首相の訓示を聞く自衛隊員=2021年11月、陸上自衛隊朝霞駐屯地、代表撮影

「関連予算を防衛関係費に含める」と岸田首相

 5月23日、日本を訪問したバイデン米大統領と首脳会談を行い「日本の防衛力を抜本的に強化し、その裏付けとなる防衛費を増額する」と述べた。また10月4日に行われた日米首脳会談(電話)において、岸田首相は、バイデン大統領にわが国の防衛力の抜本的強化に取り組む決意を改めて示した。
首相は国内的にも国際的(対米公約)にも繰り返し述べており、防衛力の抜本的な強化についての強い決意が見える。

 NATO諸国は、すべての加盟国が国内総生産(GDP)の2%以上の防衛費を支出すると合意しており、日本政府もこれを念頭に、5年以内に防衛力の抜本的強化を図る方針とした。自民党は選挙公約にし、政府は6月に閣議決定までしている。

 しかしながらここにきて、風向きが怪しい。政府は10月22日に、自衛隊の装備のあり方や予算規模、財源などを議論する「国力として防衛力を総合的に考える有識者会議」の第2回会合を首相官邸で開いた。この席上で岸田首相は、防衛力強化に資する研究開発や公共インフラ整備を促進するため、関連予算を防衛関係費に含める仕組みを検討するように関係省庁に指示した。その際に首相は「研究開発や公共インフラ整備・活用を大いに進める。防衛省や海上保安庁のニーズを踏まえて、関係予算がうまく活用されることが重要だ」と強調した。

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