地方の政治・選挙の現状と選挙制度の課題と今後~石井啓一公明党幹事長に聞く
「政党」としての公明党~一学究の徒の政治学研究【17】
岡野裕元 一般財団法人行政管理研究センター研究員
「論座」では「『政党』としての公明党~一学究の徒の政治学研究」を連載しています。1999年に自民党と連立を組んで以来、民主党政権の期間をのぞいてずっと与党だったこの党はどういう政党なのか、実証的に研究します。今回はその17回。公明党の石井啓一幹事長(衆議院議員)に地方政治や地方選挙の現状、選挙制度のあり方などについて聞いた。(論座編集部)
◇連載「『政党』としての公明党~一学究の徒の政治学研究」は「こちら」からお読みいただけます。

石井啓一・幹事長(衆議院第一議員会館)=2022年10月14日、東京都千代田区永田町(公明党本部広報部撮影)
地方政治や地方選挙の現状について、当事者である政党はどのように認識しているのか――。連載「『政党』としての公明党~一学究の徒の政治学研究」ではこれまで、国民民主党の古川元久国対委員長(第14回)、社民党の福島瑞穂党首(第15回)、日本共産党中央委員会(第16回)から話を聞いてきた。本稿では、いよいよ公明党の石井啓一幹事長(衆議院議員)に聞く。
なお、このテーマについては、第13回「地方選挙における候補者の集票環境はどう変わったか~明推協意識調査から考える」から通して読していただければ幸いである。
地方議会選挙制度の問題点と課題
はじめに、都道府県議会と市町村議会の選挙の実態について聞いた。
都道府県議会選挙の選挙区設置方法は、平成25(2013)年の公職選挙法改正で原則が変更されるも、自治体の行政区画を基盤とする考え方は明治期から一貫している(岡野裕元『都道府県議会選挙の研究』成文堂、2022年、p.15)。公明党は地方議会の選挙制度の現状をどう認識しているのだろうか。
まず、都道府県議会について、石井幹事長は次のように語る。
私どもは、都道府県議会の中でも政令指定都市における選挙区の定数の多くが定数1、2になって、死票が多い現状があると理解しています。また、道府県と政令指定都市の「二重行政」の課題もあります。政令指定都市には、警察などを除くとほとんど道府県と同じ権限が与えられており、「二重行政」による弊害が生じているのではないかという指摘です。選挙制度のみならず、地方自治や都市制度そのものの議論が必要であるとの問題意識を持っています。
次に、市町村議会の選挙制度についてだ。
一般市と町村会の地方議会選挙においては、国政ほどではないですが、投票率が徐々に低下しています。無投票当選の割合も増えており、議会や地方政治に対する住民の関心が低下していると言えます。人口減少と高齢化とも相まって、議員のなり手不足も深刻化しています。
社会状況の変化により、自治体の課題は複雑化しており、自治体や議会の政策手腕によって暮らしやすさに違いが出てきています。地方自治の議会の重要性は非常に増しており、議員に求められる資質がかつてより高くなっているのに、地方議会への関心が低いのが大きな課題だと思います。また、議員に占める若者や女性の割合が諸外国に比べて低い割合にとどまっていることも深刻な課題です。
地域を活性化させる上で、若者や女性の政治参加は重要です。仕事や家事、育児と両立など、若者や女性が実際に立候補し、議員活動をしやすい環境の整備という点で、日本社会にはまだまだ課題が多いと思います。
地方議員のなり手不足に打開策はあるか
では、地方自治体で議員の重要性が上がっているのと裏腹に、有権者の関心は高まらず、議員のなり手もいない現状を打開する手立てはあるだろうか。石井幹事長は次のように言う。
地方議員のなり手不足の理由として、議員に高い能力が求められるにもかかわらず、職業としての「魅力」が少ないことが挙げられます。魅力の一つに報酬がありますが、報酬は低いのが現実です。特に小さな自治体では、議員報酬だけではとても生活できないケースもあり、職業として選択しづらくなっています。
他方、地方議員には「兼業」が許されていますが、年4回の定例会に加え、地域の様々な行事参加など議会以外の公務も多い。サラリーマンではなかなかできず、おのずから自営業者やオーナー、退職者に偏りがちになります。これも大きな課題です。
打開する方策として、一部の自治体で実施されている休日・夜間の議会開催、英国のような本会議や委員会の定例化、すなわち開会期間をはっきりさせることで、兼業の仕事の段取りがつきやすくするという方法などがあります。仕事や家事、育児と両立できるような制度改革について、議論していく必要があると考えています。
実際、地方議員は忙しい。第4回に登場した公明党の中嶋義雄・中央幹事(東京都議)は、「地方議員は地方議会の年4回の定例会以外に委員会や審議会が数多くあり、公明党議員は市民相談や視察などが数多くあります」と語っていた。また、都道府県議会議員の場合、遠方から議会へ出向くケースもあり、移動に時間がかかる(東京都は島嶼部選出の都議もいる)。どうしても専門職の色彩が濃くなる。
議員職特有のリスクもある。第8回で登場した立憲民主党の大西健介・選挙対策委員長(当時)は、「『出したい人』は、大方すでに他の分野で活躍されている人と重なります。選挙で立候補するためには、今の仕事を辞めてもらう必要がありますが、議員職はハイリスクです」と語っていたが、国会議員と同じように都道府県議についても同様の側面がある。
報酬についても課題が山積だ。都道府県議会議員は、月額75万円(沖縄県)~102万2000円(東京都)の一定の幅はあるが(辻陽『日本の地方議会』中央公論新社、2019年、pp.157-158)、まだ恵まれていると言える。これに対し、市区議会議員は月額18万円(北海道夕張市)~95万3000円(横浜市)と差が大きく(同書、p.159)、人口1000人以下の自治体の議員は、月額15万円余りだ(NHKスペシャル取材班『地方議員は必要か 3万2千人の大アンケート』文藝春秋、2020年、p.25)。議員専業は、財政力ある基礎自治体では可能だが、厳しい自治体では不可能であろう。
地方選を取材した常井健一(ノンフィクションライター)は、和歌山県北山村を例に、「低収入で、平日の昼間に時間の自由が利き、行政の知識も必要。そんな条件を出されて手を挙げられる者なんて手厚い年金で暮らす役場のOBくらいしかいない。そうなると、政界デビューは早くて定年退職後の60歳。議会で対峙する役場幹部はみな後輩ということで余計な先輩風を吹かせ、現役時代に実現できなかったことを『政策』と称して打ち出すのが関の山だ」と主張する(常井健一『地方選 無風王国の「変人」を追う』角川書店、2020年、p.188)。
以上、優秀な人材が議会に出にくいのが地方の実情だ。政党には社会と議会とをつなぐリンケージの役割(選挙で言えば「出したい人を出す」)もあるが、石井幹事長も「わが党も議員になったら専業を求めていますが、特に30代~50代くらいの世代(自身の子育てや教育がある)では、それぞれに苦労を重ねながら議員活動に取り組んでいただいています」と正直に打ち明ける。
なお、公明党の候補者リクルートの具体的方法については、高木陽介・選挙対策委員長(当時)にインタビューした第9回で論じているので、参考にしていただきたい。
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