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コロナワクチン接種のチェック体制の再構築を~副反応疑い死の遺族が遺族会結成

佐藤章 ジャーナリスト 元朝日新聞記者 五月書房新社編集委員会委員長

オミクロン株に対応するBA.5型ワクチン=2022年10月24日、京都市左京区のみやこめっせ

 そのフェイクニュースは驚くほど拙劣なものだった。コロナワクチンを接種した自衛隊員のうち400人ほどが接種後に死亡したというネット上の拡散情報のことだ。

 防衛省が「そのような事実はありません」と否定し、菅義偉内閣時代にワクチン対策を担当していた河野太郎デジタル相も「反ワクって本当に懲りないね」とツイートした。

軽い認識ではすまされない副反応問題

 しかし、コロナワクチンの抱える副反応の問題は、「反ワクって本当に懲りないね」という言葉に現われているような軽い認識ですまされるようなものではない。

 私は河野氏の政治姿勢については、特に原子力発電所問題や核燃サイクル問題に対する同氏の考え方を通して、基本的に高く評価してきた。核施設問題からの脱却こそ現代日本の抱える最大の難問の一つだと考えるからだ。

 だが、コロナワクチンに対するこの発言には疑問を禁じ得ない。副反応問題は決して軽い問題ではない。

 コロナウイルスに対して科学的な対策を打ち出せない自民党政府にとっては頼りの綱はワクチンだけ。このような悲惨な状況の中で、ワクチン副反応などの問題は軽く素通りしたい問題と映っているのだろう。

 このこと自体が、現在の日本が抱えるコロナ対策上の構造的問題を表している、と私は考えている。

中日の木下雄介投手はなぜ死んだのか

 昨年8月3日、活躍が期待されていた中日ドラゴンズの木下雄介投手が、妻と二人の子どもを残して死亡した。享年27歳。最速150キロを超えるストレートとフォーク、スプリットが武器だった。

 亡くなる4カ月余り前の3月21日、オープン戦に登板した木下投手は右肩を脱臼、その手術と併せて右ひじのトミー・ジョン手術を受けた。だが、1年後の復帰を目指してトレーニング中の7月6日、突然意識を失い、心肺停止状態となり、亡くなるまで意識が回復することはなかった。

 倒れる8日前の6月28日、彼はコロナウイルスのワクチン接種を受けていた。モデルナ製だった。病理解剖の結果、劇症型心筋炎を発症していたことがわかった。主治医は、ワクチンの影響で心筋炎を発症し、激しいトレーニングが加わって心室細動を起こしたと判断。厚生労働省にワクチン接種と死亡の因果関係を報告したという。

 ところが、木下投手の遺族や主治医などへの取材を重ねているジャーナリストの山岡淳一郎氏によると、厚労省は「情報不足」などを理由にして因果関係を認めなかったという(参照:10月25日・日刊ゲンダイ「中日投手・木下雄介さん 因果関係『評価不能』判定に妻は『崖から突き落とされた』と」)。

 もちろん、ワクチンとそのリスクについては、様々な要因が絡まり合っているため、一筋縄ではいかないことは確かだ。

 木下投手の突然の死についても、ワクチン接種が引き起こした劇症型心筋炎と激しいトレーニングという要因の他に、もう一つの要因が重なっていた可能性があるという。死因について追究取材した週刊文春は、妻の茜さんが主治医から聞いた話として「倒れてから、周囲が救急車を要請するまでに、6分もかかっていた」ことを紹介している(参照:文春オンライン「球団が適切な対応をしていれば…」急死した中日・木下雄介投手の妻が涙の告発」

 つまり、報道によると、ワクチン接種と運動の他に救急車要請の遅れも死の引き金になったのではないか、ということだ。

 現在、遺族側と球団側との間で話し合いが続いているというが、劇症型心筋炎と激しいトレーニングとの因果関係などをめぐって不調をきたしているようだ。

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ワクチン接種後に死亡した人の遺族が遺族会を結成

 厚労省はワクチン副反応の疑い死である1885件(ファイザー1668件、モデルナ185件、アストラゼネカ1件、武田薬品工業=ノババックス1件)について、1件も因果関係を認めていない。

 「現時点において、ワクチンとの因果関係があると結論づけられた事例はなく、4回目接種後の事例を含め、引き続きワクチンの接種体制に影響を与える程の重大な懸念は認められない」(厚労省ホームページ)

 10月20日、ワクチン接種後に死亡した人の遺族が遺族会を結成、東京都内で記者会見を開いた。働き盛りの配偶者を突然亡くした人にとってはあらゆる意味で深刻な問題だ。

 しかし、ワクチン接種と死亡との因果関係が1件も認められていないため、国の予防接種健康被害救済制度の救済は受けられない。今後、遺族会には100人以上が加わる予定で、記者会見では国を相手取って集団訴訟を起こす考えも述べられた。

ワクチン接種の影響は本当に残らないのか?

 ファイザーやモデルナ製のワクチンはmRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンだ(ノババックス製は不活化ワクチン)。コロナウイルスが細胞に吸着するスパイク蛋白の遺伝情報を体内に注入する。この情報に基づいて体内でスパイク蛋白が形作られると、今度はそれに対する抗体が形成される。この抗体がコロナウイルスに立ち向かっていくという仕組みだ。

 厚労省の説明では、体内に送ったこのmRNAは数日で分解され、体内からは消失することになっている。

 しかし、2021年8月31日に公開された米国ロチェスター大学のジョン・S・コグネッティ、ベンジャミン・L・ミラーの論文では、この説明の一部に疑問符がつくような試験結果が出ている。

 この論文はNIH(アメリカ国立衛生研究所)傘下のNLM(国立医学図書館)に発表されたもので、1回目のワクチン接種後73日経ってもスパイク蛋白がほとんど同じ値で体内に残り続けていた事例が紹介された。この論文の基になった試験はコグネッティ、ミラーが新しく開発した試験方法によるものだ。

 ただ、スパイク蛋白が体内に残り続けていた被験者は、73日目の最終サンプリングの際、風邪をひいていたことが伝えられている。このため論文は、この異常な測定値について、被験者の血流中で増加していた免疫活性と、一般的な風邪コロナウイルスのスパイク蛋白とが交差反応を起こした可能性がある、としている。

 この論文には、これ以上の記述はない。論文の基になった試験は4人の被験者に対して行われた。4人のうちのひとりに上記のような異常な測定値が出たわけで、風邪をひいていたという特殊事情があったにせよ、ワクチン接種者に本当に何らかの影響が残らないのかどうか、厚労省は慎重に検討する必要があるだろう。

Orpheus FX/shutterstock.com

ワクチンと死亡事例との因果関係

 厚労省には現在のところ、ワクチンと死亡事例との因果関係を認める姿勢は見られない。自民党内にも因果関係を認める向きはないようだ。

 たしかに厚労省が言うように、心筋炎については、日本循環器学会が米国・イスラエルなどの事例から、ワクチンについての頻度は0.0005~0.006%と低く、感染による合併症の頻度のほうが高いと指摘していることは事実だろう。ワクチンの効果としては十二分の感染回避は期待できないが、重症化予防という点で一定の効果が期待できることもたしかだ。

 しかし、1855件のワクチンの副反応疑い死は看過できない。「情報不足」という理由では、遺族は納得しないだろう。

 重篤な副反応が出たワクチン接種者や亡くなってしまった人の遺族にとって、副反応は極めて重要な問題である。因果関係を疑っている臨床医の見解も軽視できない。そもそも厚労省が臨床医の報告を義務付けているのもそのためだ。

 もちろん、ファイザーやモデルナをはじめ世界中のワクチン製造業者、各国政府ともワクチン接種と副反応疑い死については直接の関連は認めていない。日本の厚労省も「情報が不足していることによって因果関係を跡付けることができない」と言い続けるだろう。だが、日本の場合、もっと別の構造的要因が背景に横たわっているのではないかと、私は考えている。

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