「政党」としての公明党~一学究の徒の政治学研究【19】
2022年12月21日
「論座」では「『政党』としての公明党~一学究の徒の政治学研究」を連載しています。1999年に自民党と連立を組んで以来、民主党政権の期間をのぞいてずっと与党だったこの党はどういう政党なのか、実証的に研究します。今回はその19回。立憲民主党、日本維新の会の野党2党が国政・統治システム、わけても国会改革についてどういうスタンスを示しているかを論じます。(論座編集部)
◇連載「『政党』としての公明党~一学究の徒の政治学研究」は「こちら」からお読みいただけます。
前回「日本で政治への信頼喪失はなぜ進むのか?~統治システムの観点から検証する」から、新たなフェーズとして、各党からの聞き取りも交えつつ、地方政治と選挙制度から現代日本の政党についての考察を深める作業に入っている。本稿では、野党第1党を争う立憲民主党、日本維新の会が統治システム、とりわけ国会についてどういうスタンスを示しているか論じる。
まず、立憲、維新の野党2党は、国の統治システム改革に関して、どの分野に重点を置いているかを分析したい。手がかりは、2021年衆院選における選挙公約である。
立憲民主党の「立憲民主党 政策集2021」を見ると、項目は、公務員制度改革(詳細項目数9)▽選挙制度(同9)▽政治改革(同2)▽若者の政治参加(同2)▽国会改革(同18)▽行政改革(同11)▽行政監視(同6)である。詳細項目数の数から、国会改革に重点を置いていることがうかがえる。
公約全体をとおして、具体的な数値や期間、財源といったものがほぼ欠如しており、その点では民主党時代と比較して「後退」したように見える。ただし、「マニフェストにおいて数値目標や期限、財源を過度に重視するのは、日本的な誤解であり、それは今までの日本政治における公約なるものがきわめて具体的な利益誘導か、逆に抽象的なレベルでは整合性を欠いた願望の羅列(ウィッシュ・リスト wish list)かのどちらかであったという経験に由来していると思われる」との山口二郎の指摘もある(山口二郎『内閣制度』東京大学出版会、2007年、p.140)。
次に、日本維新の会の「日本維新の会 基本政策 維新八策2021」を見てみよう。8個ある重点の一番目は「『身を切る改革』と徹底した透明化・国会改革で、政治に信頼を取り戻す」である。その中身は、議員待遇(詳細項目数10)、国会改革(同18)、公務員改革(同7)、行政改革(同19)、選挙制度改革(同8)であった。
大阪府や大阪市などの自治体マネジメント経験から、行政改革に重点が置かれているのは当然だが、国会改革も重視しているのが特徴的だ。
このように、選挙公約からは、両党とも国会改革に重きを置いていることが分かった。
実際、政治学において、平成の政治改革で残った領域は、国会(特に参議院)と地方自治体内部の政治制度とされている(待鳥聡史『政治改革再考 変貌を遂げた国家の軌跡』新潮社、pp.272-274)。また、「政治主導の政策決定は、国会改革と一組で考える必要があることは、国会や政府の制度に精通していた人々には自明」との指摘もある(前田幸男・濱本真輔「政権と政党組織」前田幸男・堤英敬[編著]『統治の条件 民主党に見る政権運営と党内統治』千倉書房、2015年、p.13)。両党の問題意識は的を射ていると言えよう。
では、両党は国会をどう改革しようとしているのだろうか。
ところで、議会の分類方法として、立法の出力方法の視点から、アリーナ型議会と変換型議会に分ける見方がある(N・W・ポルスビー(加藤秀治郎・和田修一[訳])「立法府」1975年(加藤秀治郎・水戸克典[編]『議会政治[第3版]』慈学者、2015年、p.122))。
アリーナ型議会とは、イギリス庶民院の本会議を舞台に、時間をかけ、白熱した論戦の場(アリーナ)として機能させる議会である。一方、変換型議会とは、アメリカ連邦議会のように委員会の存在が大きく、「いろいろと出される要望をまとめ、法律に変換する自立的能力を有し、その能力をよく発揮する型の立法府」のことであり、「そこでは変換という活動が最も重要となる」(同上、pp.117-118)。
「21世紀臨調」は、2010年の時点で「わが国の国会はこれまで、『アリーナ型=議論する国会』はもちろん、『変換型=丁寧な法案審議と法案修正の可能性』『行政監視』のいずれの機能も十分ではなかった」と指摘する(21世紀臨調「政権選択時代の政治改革課題に関する提言」平成22年4月16日、佐々木毅・21世紀臨調[編著]『平成デモクラシー 政治改革25年の歴史』講談社、2013年、p.360)。
また、民主党政権が試みた統治機構改革が挫折した原因も、「国会での立法化と国会自体にかかわるハードルがあまりにも高かったこと」が指摘されている(野中尚人「政治主導・政府・国会」佐々木毅・21世紀臨調[編著]『平成デモクラシー 政治改革25年の歴史』講談社、2013年、p.61)。
ここで、経路依存性を考慮して、立憲民主党の前身である民主党の国会改革の方向性を確認しておこう。
政権交代した2009年民主党マニフェストを確認すると、関連するのは、両院の定数削減と参議院の選挙制度改革のみであった(参照:民主党「民主党 政権政策Manifesto」2009年7月27日)。
7.国会議員の定数を削減する
【政策目的】
○行財政改革を進めるとともに、政権交代が実現しやすい選挙制度とする。
【具体策】
○衆議院の比例定数を80削減する。参議院については選挙制度の抜本的改革の中で、衆議院に準じて削減する。
ただし、民主党の政権獲得後の2009年10月、小沢一郎幹事長は「21世紀臨調小委員会」へ国会改革に関する提言をに依頼し、同小委員会は11月4日に「21世紀臨調小委員会による緊急提言」を発表している(朝日新聞政権取材センター[編]『民主党政権100日の真相』朝日新聞出版、2010年、p.135)。
2012年民主党マニフェスト(野田佳彦代表)では、五つの重点政策のうち、5番目に「政治改革」の項目があり、「政治への信頼回復は、身を切る改革から 世襲政治からの脱却、議員定数の削減を実現し、新しい政治文化を創ります。」とある(民主党「民主党 政権政策 Manifesto(マニフェスト)」2012年11月26日)。しかし、国会の経費削減の文脈での議席削減のほか、ねじれ国会を念頭にした抽象的記述が加わった程度である。また、衆参の抜本的な選挙制度改革も挙げられた。
6.政治改革・国会改革を断行し、国民の信頼を取り戻す
○企業・団体献金を禁止する。
○国会議員関係政治団体の収支報告書をインターネットで一括掲載する。
○国会議員の関係政治団体の収支報告書の開示期間を3年間から5年間に延長する。
○インターネット選挙運動の解禁をすすめる。
○現職国会議員が引退する場合、その親族(三親等以内)が引き続くかたちで、同一選挙区から立候補する、いわゆる世襲について、民主党は内規で引き続き禁止する(民主党内規の遵守)。
○衆参選挙制度について、選挙制度審議会の議論などを踏まえて、抜本改革を行う。
○国会経費の削減をすすめる。
・次期通常国会で衆議院の議員定数を75議席削減する。参議院の議員定数を40議席程度削減する。
・大震災復興期間における歳費減額(臨時特例12.8%)を継続する。ただし、衆議院の定数削減が実現する(法的措置が講じられる)までの間は、削減の幅を拡大し、20%減額とする。
○決められる政治、熟議の国会とする。
・予算と関連する法案をセットで扱うルールを確立する。
・両院協議会のあり方を見直す。
・国益および外交上の観点から、閣僚の国会出席義務を緩和するとともに、議会開会中であっても政党・議員外交が積極的に行えるようにする。
「身を切る改革」という言葉(現在、日本維新の会が使用する)は、2012年民主党マニフェストから登場し、2014年のものにもある。しかし、2014年民主党マニフェスト(海江田万里代表)での国会改革の記述は、議員定数削減と一票の格差の記述程度にとどまった(民主党「民主党 政権政策 Manifesto(マニフェスト)」2014年12月2日)。
10 不断の改革
●衆参両院の一票の較差是正と、議員定数削減を実現します。
●政治資金に関する情報公開を推進し、国会議員関係政治団体の収支報告書をインターネットで一括掲載すること等をめざします。
2014年12月14日衆院選直前の10月、民主党の政策資料をまとめた本(海江田万里[編]『民主党政策ハンドブック2014・秋』勉誠出版、2014年)が出版されている。行政改革の項目はあったが、国会改革の項目は設けられていなかった。
以上、旧民主党時代の2009年、2012年、2014年のマニフェストを通覧した。一貫して議員定数削減が挙げられたいたことが特徴と言えよう。
では現在、立憲民主党と日本維新の会は、国会改革に関して選挙公約で何を掲げているのか、具体的に見ていきたい。
先述した議会の二つのタイプ、「アリーナ型議会」か「変換型議会」かでいうと、両党とも変換型を志向していると思われる。例えば次の記述がある(両党公約の出典は既述のとおり)。
立憲民主党
・議員提出法案の審議活性化を進めるため、委員会ごとに議員提出法案の質疑のための定例日を設けるなど、与野党の議員間で活発な政策論議ができるよう配慮します。
・国会議員間の討議の活性化のため、委員会で法案審議がない時期には、議員間の自由討議を積極的に行います。
日本維新の会
・政府与党 VS無責任野党という構図を前提とした国会運営を抜本改革し、議員間討議・議員立法を活性化させるなど、国会の生産性を高めます。
・政策競争の場としての立法府を実現するため、国会議員同士の自由討議を復活させ、形骸化した審議の活性化を促進します。
・議員立法の審議を積極的に行うため、閣法質疑・一般質疑の順で行われる委員会審議の慣習を改めるなど、議員立法の活性化を図ります。
日本では、野党議員が総理を相手に丁々発止の議論を行う場は、本会議ではなく予算委員会という「委員会」である。各党の党首同士が議論する「党首討論」の場も、本会議ではなく国家基本政策委員会という「委員会」である。
ちなみに、党首討論は「導入当初の平成12年に8回開かれたが、その後、減少傾向にあり、平成29年と令和2年は1回も開かれなかった」状況にある(国家基本政策調査室「国家基本政策委員会」p.201)。「党首討論の開会回数が減っている背景には、全体の討議時間が45分と短いため、野党の多党化で1党当たりの時間が確保できず、議論が深まらないという事情もある」(同上)。
「本会議における質問・答弁方法は、一括質問方式と分割質問方式に大きく分けられ」るが(三重県議会[編著]・三重県議会議会改革推進会議[監修]『三重県議会―その改革の軌跡 分権時代を先導する議会を目指して』公人の友社、2009年、p.145)、国会本会議は前者であり、後者と比較して丁々発止の議論になりにくい。この点ではむしろ、議場内の配置変更も含め、地方議会が先行している。
ただし日本の国会は、明治の帝国議会時代(立憲君主国のドイツを模範)からの慣行、GHQ占領下に持ち込まれた大統領制のアメリカ政治の議会モデル(委員会中心主義)、政治改革でも持ち込まれたイギリスのウェストミンスター・モデルが混合し、日本独自モデルとして「発展」を遂げた複雑怪奇な状況である。それゆえ、国会制度を一つ変更するにせよ、どこでどう影響が生じるのか、慎重に見極めて検討する必要があろう。
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