背景にあるナショナリズムを主軸にした自由主義国家への反発
2022年11月22日
「今の苦境から抜け出すためには棘(とげ)のある枝でも掴むしかない」
ブルキナファソの外相がテレビのインタビュー(NHKクローズアップ現代『ロシアが友好国を拡大?』9月28日放映)で語っていた言葉が、今も強く印象に残っている。
この国はフランスの植民地だったが、独立後はロシアを含む複数の国々の影響下にある。アフリカ大陸には、リビア、ボツワナ、ルワンダなど、経済成長率の高い国がある一方で、貧困、経済格差に苦しみ悩む国も多い。つい先日、世界食糧計画(WFP)が、エチオピア、ソマリア、ケニアでの干ばつで1300万を超える人々が飢餓に喘(あえ)いでいるという発表をしたとの報道にも接した。
この大陸に、このところ急速に経済、軍事など多面的な援助の手を差し伸べてきたのが、ロシアと中国の両国である。「棘」を意識されながらも、頼られる国の動きを追い、今展開する国際政治の裏面を考えてみたい。
考えて見れば、ロシアは、「ベルリンの壁崩壊」(1989年)とソ連の自滅による「冷戦終結」(1991年)で、ひとたびは社会主義国家から新たに装いを替えて出来た国家である。その経済力は1998年に国家デフォルトを起こしたように、2000年代に入っても苦境が続いた。
しかし、冷戦の終わりと共に世界を覆うことになったグローバル化の好影響を呼び込むことに成功し、2010年頃には、石油、天然ガスといった資源保有国の力量を存分に発揮出来るまでに回復していった。
そうした経済力を背景に、本来この国が持つ南進体質の“地金”をあらためて露わにしたのが、「第一次ウクライナ戦争」ともいえる2014年の「クリミア併合」である。2015年にはシリア内戦、2018年には中央アフリカ内戦に干渉し、今や本格的な「ウクライナ戦争」が泥沼化するに至っている。
その一方で、2019年には、すべてのアフリカ諸国を集めて、「ロシア・アフリカ経済フォーラム」を開催するに至っている。これには、「クリミア併合」がもたらす国際社会での悪評価やそこから派生する孤立化懸念を防ぐ狙いもあったに違いない。
ロシアのアフリカ進出は、先に挙げたテレビ放映において抉(えぐ)られていたように、「ワグネル」と呼ばれる傭兵(ようへい)の存在が見逃せない。
これは、今回の「ウクライナ戦争」でも暗躍が取り沙汰されている。戦闘的プロ集団であり、ロシア政府の手で作られた準軍隊的様相が濃いものの、正体不明の部分も多い。
アフリカ各国にあって、統治の基盤が弱いケースに起こる反政府的抗争に、この集団の出番が生じる。だが、市民が巻き添えにあい犠牲になっても、その責任の所在が不明朗なことから、不都合が多発しているとのリポートも提起されていた。
ただ、「ワグネル」の存在が確実視される国が6カ国、ロシアと軍事協力関係を持つ国が34カ国にも及ぶという実情は、その浸透ぶりを証明してあまりある。色々あっても、ロシアに面倒を見て貰うことの利点を感じているからに違いない。
中国の経済的発展は、もっと著しい。1989年11月「ベルリンの壁崩壊」の約半年前、天安門事件で自由化の波を抑え込んだ中国は、「ソ連崩壊」を他山の石にするがごとく、強権政治の手を緩めず、資本主義の手法を取り入れた中央集権的社会主義の道を歩んだ。
中国はロシア以上に、ヒト、モノ、カネのグローバル化の影響を享受。デジタル化の進展を取り込み、ビッグ・データの大胆な利用、展開で、飛躍的な経済成長を果たしたのである。
1990年には日本の8分の1に過ぎなかった一人当たりGDP(国民総生産)が、20年後の2010年には日本を追い抜いて世界第2位となり、今や首座を伺う勢いだ。それもこれも「情報利用」の可能性を大きく開き、「ビッグデータ」で効率的な資源配分を可能にしたデジタル技術の革新によるところが大きいものと見られる。
こうした経済的発展を背景に、2012年中国に登場した習近平・共産党総書記によって取り入れられた巨大経済圏「一帯一路」構想は、アフリカにも及ぶ。2017年の東アフリカのジプチへの基地展開を皮切りに、エチオピア、ケニアでの鉄道敷設へと発展し、今ではナイジェリア、ルワンダなどの国々が目覚ましい経済振興を遂げた。経済が振興する国の背後に中国あり、と評判は高い。
軍事的分野で中国は、“闇の兵力”を駆使するロシアとは違って、国連平和維持活動(PKO)を巧みに活用してきた。
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