国際舞台からの排除だけでは足りない
2022年11月24日
11月15、16の両日にインドネシアのバリ島で開催されたG20首脳会議はロシアによるウクライナ侵略及びその広範な影響が主要な議題となったが、西側諸国とロシアとの対立により合意が危ぶまれた共同宣言は、それぞれの立場を併記する異例の形で折り合いをつけ、何とか採択された。
しかしこのバリ宣言の内容は、「メンバー国の大半がウクライナでの戦争を強く非難し、それが甚大な人的被害を引き起こし、世界経済の脆弱性を悪化させている」としてロシアを名指しで非難することを避け、更に「状況や制裁について、他の見解や異なる評価もあった」との文言を加えて両論併記とし、現下のウクライナの悲惨な状況についてのロシアの責任には一切言及しなかった。
宣言を読むと、確かに「ロシアのウクライナ侵略を最も強い言葉で遺憾とし、同国のウクライナ領土から完全かつ無条件での撤退を要求している」(第3項)との表現があるが、これは3月初めに国連総会で多数決により採択された決議の内容を紹介しているのであって、今回新たにG20の首脳の意図表明として明記されたのではない。
このような異常とも言うべき共同宣言となった理由は、主催国インドネシアのジョコ・ウィドド大統領が議長の立場から、ロシアの反対によって共同宣言が出せなくなる事態を何とか避けようとして、ロシアの主張に多大な配慮を示したことによる。
ロシアのウクライナ侵略以降に開催された主要な国際会議においては、ロシアが出席する限り、その一方的な反対によってことごとく合意文書が作成できなかった。累次にわたる国連安保理会合を筆頭として、数年ぶりに開催されたNPT(核不拡散条約)運用検討会議、更にはG20の外相会議や経済関係閣僚会議などすべて同様である。
このような状況に照らし、筆者は9月15日の論座に、「NPTとG20でのロシアの振る舞いは“妨害行為”でしかない」と題する一文を寄稿し、その中で、「11月のG20首脳会議にはプーチン大統領の出席阻止を」と明確に訴えた。
しかしながら、主催国であるインドネシアのジョコ大統領は、プーチンに招待状を送り、結局ロシア側の事情により、ラブロフ外相が代理出席した。そして事前に予想された通り、同外相の発言はロシアの軍事行動を正当化する一方的な主張に終始して、合意文書の作成は著しく困難な作業となった。
その中でインドネシア政府は、G20首脳会議が決裂したという印象を対外的に与えないために多大な努力を払い、最終的に、ロシアの立場に配慮を示して名指しの非難を避け、ウクライナ戦争の原因、影響などの評価については両論併記するということにより、首脳宣言の全会一致での採択を可能とした。
果たして、これは今後のウクライナ問題の解決にとって有益な一石を投じることになるのであろうか? 筆者の判断は、全く逆である。今回の合意文書は、ウクライナ情勢の解決に向かってなされるべき国際社会の努力に、むしろ有害となる側面が強いと考えざるを得ない。それは、今後の国連その他の舞台において、「ロシアを直接非難せず、両論併記する」という今回の対応が、前例として持ち出される可能性が高いからである。
実際のところ、G20首脳会議に引き続いて18,19の両日にバンコクにおいて開催されたAPEC首脳会議(ロシアはベロウソフ副首相が代理出席)においては、合意文書をまとめるため、その2日前に採択されたバリ宣言を踏襲する形で、ロシアへの直接の非難を避けて両論併記の方法が取られた。
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください