内閣支持率が下げ止まらない……。宏池会出身の宰相に求められる大胆な方針転換とは
2022年11月30日
岸田文雄内閣の支持率下落に歯止めがかからない。報道各社の世論調査の結果は微妙に異なるが、おおむね支持率は30%半ばで、いずれも低下傾向が止まらない。また、ここ1カ月の下落幅は5ポイントほどという調査が多い。
たとえば直近の共同通信の調査(11月26、27日実施)によると、支持率は33.1%と10月末の前回調査から4.5ポイント下がり、昨年10月の内閣発足以降の最低を更新。不支持率は51.6%と初の50%台となった。日本経済新聞社・テレビ東京の調査(11月25~27日)では、支持率は37%で10月調査から5ポイント低下して最低を更新。不支持率は前回から6ポイント上昇の55%で初めて50%を超えた。
内閣支持率は30%を下回ると“危険水域”と言われる。毎日新聞の調査ではすでに9、10月と30%を切っているが(11月は31%)、各社の調査の支持率が20%台が大勢になれば、政権維持が困難になるだろう。
支持率の下落が止まらない要因は数多くがあるだろうが、主なる要因と思われるものを挙げるとすれば、①世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題への対応の生ぬるさ、②首相の資質、特に判断、決断に危うさがつきまとうこと、の二つであろう。
まず①についてだが、このたびの旧統一教会問題を巡る世論の怒りと政治に対する不信感はすさまじい。この教団にまつわる宿痾(しゅくあ)は社会に広く深く浸透していて、容易に払拭(ふっしょく)できるものではない。
にもかかわらず、首相や政府、自民党の対応は中途半端な対応にとどまり、怒りや不信感を逆に強めている。それが内閣支持率下落の最大の要因であるのは間違いない。
朝日新聞の11月の世論調査(12、13日実施)を見ても、この問題についての岸田首相の対応を「評価する」は23%しかなく、「評価しない」が67%に達している。また、自民党はその実態を「調査するべきだ」と答える人は77%に達し、「その必要はない」は15%に過ぎない。
旧統一教会に向けられる世論の厳しい眼差(まなざ)しは、日が経てば和らぐようなものではない。その反社会性だけでなく、反日的な教義が明らかになるにつれ、所属議員の多くが旧統一教会と関わりを持った自民党の体質への疑念が募り、それに立ち向かわない岸田首相に対する不信感を増幅させている。
②について言えば、今のように困難な時代の指導者として、岸田首相がいったい適任なのかという疑問が広がっている。別の言い方をすれば、そもそも岸田氏がこの時代にふさわしい「首相の器」なのかという厳しい批判が生まれているのである。
だから、支持率の下落傾向は、首相に退陣を求める世論の叫びのようにも受け取れる。
なにより深刻なのは、岸田氏に首相に必要とされる一段格上の判断力、決断力が備わっているのかという、資質面に対する懸念が広がってきていることだ。歴史を振り返れば、第1次世界大戦も第2次世界大戦も、凡庸な指導者たちによる身勝手な判断によって引き起こされたものであった。
首相の判断力に対する疑問は、安倍晋三元首相の国葬開催を巡る決定過程で急速に高まった。とりわけ、決定に至る手続きと決定時期について、疑念や不信感は大きかった。
これは、首相にとって意外だったかもしれない。おそらく首相は、安倍元首相の国葬に異論はないと思ったのだろう。それなら、「独りで」、「素早く」決めて表明するに如(し)くはなし、と考えたのではないか。世論を甘く見たと言わざるを得ない。咄嗟(とっさ)の即断によって、世論と国会を置き去りにした感は否めない。
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この首相の判断と決断に対する違和感は、最近の“閣僚辞任ドミノ”によって、拡大・増幅の一途を辿(たど)っている。現在、4人目の大臣が標的になっているが、辞任する大臣が仮に5人に達すれば、内閣は実質的に信任を失ったことになるだろう。
日本の首相の判断や決断にかかわる権限は、並の大統領よりはるかに強いというのが、かつて政権中枢の判断にしばしば関与した私の認識だ。それは「首相さえ抱え込んでいればよい」という官僚組織の意向によるものだ。裏を返せば、国葬のような官僚組織の利害と無関係な事項についてだけは、首相の専断が可能なのだ。
いずれにせよ、岸田首相のこの判断によって、世論は「首相は民意を読めない」と受け取った。国葬開催での早すぎた決断、辞任ドミノでの遅すぎる判断が相まって、首相に資質への危うさを国民の多くが感じるようになり、いまや政権は窮地に陥っている。
だが、岸田内閣の支持率を低下させているこうした要因は、現在の政権構造のもとでは、他の首相であっても逃れられなかったかもしれない。換言すれば、誰が首相であっても、対応はそれほど違わなかったのではないかということだ。
逆に、岸田首相だからこそ持ちこたえている、政権支持の底堅さもあろう。他の首相なら、ここまで持ったかどうか。底堅さを支えるのは、岸田首相の個性への信頼と支持があるからだろう。
フランスのドゴール元大統領は、“指導者の判断”を最も支配しているのは、その人の個性であるという趣旨の発言をしている。だからこそ、指導者には究極的に優しさと温かさがないといけない。
近隣諸国に、残忍であったり冷酷であったりする大国の指導者も見受けられるなかで、岸田首相の温かさや誠実さは特筆に値する。憎しみや劣等感を動機とする政治は、自由や民主主義を押しつぶし、民衆に計り知れない不幸をもたらすものだ。岸田首相への支持率の多くは、彼の個性への支持や好感によるものだろう。
くわえて、岸田氏の政治の出自が、彼の行動の指針となっていることにも注目している。
彼は、昭和30(1955)年の自民党結成以来の保守本流派閥「宏池会」に所属し、現在はその会長の地位にある。そのため、創立者の池田勇人・元首相を尊敬し、宮沢喜一・元首相を師と仰いできた。宏池会の思想は当然、岸田首相の政策や行動に色濃く反映されるはずである。
私もかつて宏池会に籍を置いた一人であり、
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