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スウェーデンのNATO加盟進展の裏にあるもの 移民排斥の右派が政権を奪取

欧州に広がる社会の分断と政治の不安定化

花田吉隆 元防衛大学校教授

 スウェーデン、フィンランドの北大西洋条約機構(NATO)加盟は、トルコとの間で長く交渉が続いていたが、申請半年を過ぎ交渉に進展が見られ出した。背景に、トルコが要求するスウェーデン在住クルド人活動家の引き渡しに前向きなスウェーデン新政権の誕生がある。しかし、クルド人活動家の引き渡しは同国の移民政策にかかわる重要な問題だ。スウェーデンでは、移民受け入れをめぐりこれまでも激しい議論が戦わされてきた。新政権の対応には、当然、移民受け入れに積極的な人々が反対する。「NATO加盟」が、改めて欧州の「移民問題」という最も機微な問題をあぶり出した。

スウェーデン在住のクルド人をトルコが問題視

 ロシアのウクライナ侵攻を受け、北欧のフィンランドとスウェーデンは、これを自らへの安全保障上の脅威とみて危機感をあらわにした。フィンランドは、ソ連と長い国境を接し、戦いを繰り広げてきた歴史を持つ。スウェーデンはその隣国だ。ロシアの脅威は両国にとり差し迫った現実の脅威に他ならない。

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 フィンランドとスウェーデンは、長く中立を国是としてきた。だからNATOに加盟していない。しかし、現下の国際情勢にあって、NATO非加盟であることが如何に危ういか、ウクライナがいみじくも示している。もしウクライナがNATO加盟国だったら、ロシアは手を出さなかったに違いない。手を出せばNATO加盟国すべてを敵に回す。NATOに加盟していなかったことが今日のウクライナの悲劇を生んだ。

 スウェーデン、フィンランドに躊躇はなかった。ロシアの侵攻が単なる机上の空論ではなく、明日にも起こりうる現実の脅威となった以上、最早ためらいは許されない。両国は5月18日、NATOに加盟を申請した。

 これを受け、6月29日、NATO首脳会議は両国の加盟を承認した。ただし、加盟が実現するには、加盟議定書が30の加盟国すべてにより批准される必要がある。現在、28カ国が批准済みで残るは2カ国のみ。そのうち、ハンガリーは近く批准の見通しという。後はトルコだけだ。ところがこのトルコが頑強に抵抗する。

 トルコが問題視するのが、スウェーデン内に15万人いるとされるクルド人だ。少数民族のクルド人はトルコに対し独立闘争を繰り広げている。トルコの認識では、クルド系活動家はテロリストでありこれをかくまうことは許されない。中でも、トルコがいうスウェーデン庇護下のテロリスト73人はトルコに引き渡されなければならず、それなしに同国のNATO加盟に同意することはできない、という。

 トルコと、フィンランド、スウェーデン両国は、首脳会議に先立つ28日、「2カ国はテロ容疑者の身柄引き渡し要請に迅速かつ十分に対応する」、両国は「身柄引き渡しのための法的枠組みを整備する」旨合意した。

 しかし、スウェーデンのアンデション首相(当時)はこれに関し、「その人物についてどのような情報がトルコから提供されるか次第だ。引き渡しはすべてスウェーデンの国内法や国際法に基づいて判断される」と述べた。

拡大スウェーデン前首相のマグダレナ・アンデション氏=Liv Oeian/Shutterstock.com

 対するトルコのエルドアン大統領は「合意文書の約束が守られなければ加盟はできない」「スウェーデンには73人のテロ容疑者がいて、スウェーデンは彼らを引き渡すことを約束したはずだ」と直ちに反論した。結局、合意はしたものの中身は同床異夢、立場の隔たりは残されたままということだ。その後、交渉は半年にわたり停滞していく。

 ところがここに来て、交渉が進展する兆しがでてきた。背景にあるのがスウェーデンの政権交代だ。

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筆者

花田吉隆

花田吉隆(はなだ・よしたか) 元防衛大学校教授

在東ティモール特命全権大使、防衛大学校教授等を経て、早稲田大学非常勤講師。著書に「東ティモールの成功と国造りの課題」等。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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