メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

SNS社会が変える!? カネのかかる選挙と議員に必要なスペック

ネットの進展が促す新しい政治~樫野孝人「政治変革はどこから始まる?」【2】  

樫野孝人 かもめ地域創生研究所理事 地域政党連絡協議会顧問

 リクルートから独立後、広島県で「おしい!広島県」、京都府で「もうひとつの京都」という企画に行政アドバイザーとして取り組む一方、かねてより志していた神戸市長に2度挑戦、地域政党神戸志民党を結党し、兵庫県議をつとめ、現在は政治をプロデュースする側に転進した樫野孝人さんが、日本の政治改革について論じる連載「樫野孝人『政治変革はどこから始まる?』」。その第2回は、急速に進展するネット社会において議員の役割はどう変わっていくのかを、有権者の視点も交えて論じます。(論座編集部)

★第一回「『新興vs既存』政党の興亡の30年から見えるもの~漂う民意をつかむのは?」
連載・樫野孝人「政治変革はどこから始まる?」は「こちら」からお読みいただけます。

討論会を終えて聴衆に応える神戸市長選立候補予定者。左から2人目が筆者(樫野孝人)=2013年9月15日、神戸市中央区東川崎町

SNSを駆使、善戦した神戸市長選

 2009年、私が初めて神戸市長選挙に立候補した時、Twitterは「ブームの兆し」が見え始め、情報感度が高い人のツールだった。

 自公民相乗り・現職3期目の市長と戦うために、IT企業の経営をしていた私は、急拡大するスマホとTwitterを駆使し、準備期間3カ月で15万6178票を獲得、現職候補の16万4030票まで7852票差まで肉薄したが惜敗した。

 2013年の市長選は、落選してから4年間の地道な地域まわりに加え、新たに台頭したFacebookを選挙対策本部の組織管理ツールとして使い、500人を超えるボランティア組織が大活躍した。最終日は「樫野ボランティアチーム」が神戸市内の主要駅を埋め尽くし、相手の自民党選対本部は驚いたと言う。

 しかし結果は、自公民が担いだ元官僚の16万1889票に対して15万6214票。5675票差で再び敗戦した。

三分の一に減った選挙費用

 ただ、この選挙に負けはしたものの、ネットを利用できるようになり、選挙費用は激減した。

 従来の選挙だと、電話を50台敷設して“電話かけ部隊”を編成、チラシ印刷を50万枚、配布を3回実施するだけで費用は1000万円を超えた。それを無料電話とメール配信に切り替え、SNSのPRを駆使、ウグイス嬢や有償スタッフをボランティアにお願いすることで、費用は三分の一くらいまで減少した。

 著名な選挙コンサルタントは、神戸市のような政令指定都市なら、1億円は用意しないと勝てないと言った。しかし、私が使用した金額は、選挙以前に使う政治活動資金や事務所代などすべて合わせても3000万円を下回ったのである。

「カバン」がなくても立候補できる社会に

 その後、地域政党を立ち上げた時も、擁立した市会議員候補の選挙費用が極力少なくて済むような選挙方法を開発していった。市長選なら500万円、市会議員選挙なら150万円で選挙を戦えるというのが目安だ。

 かつて株式会社を設立する際、資本金は1000万円、有限会社の場合300万円が必要だったが、起業する際に必要になる程度の資金があれば、選挙で2回勝負できるのを目安にしたのである。

  選挙は、世の中の「風」や「流れ」に左右されることも多く、実力だけではどうにもならない場合もある。しかし、たとえ1回目はダメでも、地道に4年間活動して地力をつければ、2回目は無所属新人でも勝負になるものだ。それゆえ、2回勝負できる手元資金を上記のように設定したのだ。

 寺田稔総務相の辞任など、「政治とカネ」の問題が相変わらず世間を賑わせているが、今は以前ほどおカネをかけなくても選挙に勝つことができる。つまり、選挙用語でいう「カバン」(おカネのこと)が大きくない一般の市民でも、立候補できる社会になりつつあるのだ。

 政治を志す人にとっては、希望が持てる話ではないだろうか。

2009年神戸市長選に初めて立候補したときの筆者(樫野孝人)=2009年10月11日、神戸市須磨区

>>関連記事はこちらから

地域を走り回っていた議員たち

 ネットの進展で変わったのは選挙だけではない。それは、政治の「仕事面」にも明らかに影響を与えている。

 これまで、議員たちは市民の意見を聞くために、文字通り地域を走り回っていた。社会課題について知り、政策にいかすとともに、それが「顔」と「名前」を売ることになり、選挙にも効果があるので、まさに一石二鳥だった。

 市民の側にとっても、議会で何が話し合われているかを聞くことは、議員からしか得られない“特別な情報”であった。そこで、人によっては、それを少しでも早く入手するために秘書と仲良くし、手土産を持って議員事務所に日参したり、1枚2万円もするパーティ券を購入したりした。

 有権者と議員が密に情報をやりとりするためには、直接、話を聴ける程度の人口をカバーできるだけの議員数が必要となる。面積が広い地域では、行動半径を考慮して議員定数が設定されるのは理解できる話だ。

議員を介さずに情報を得られる

 それが、SNSの普及で一変した。

 知事や市長が有権者に直接、FacebookやTwitterで情報発信するようになり、一度に何万人、何十万人に自分の考えを伝えることができるようになった。

 例えば、橋下徹・元大阪府知事のように269万人ものTwitterのフォロワーがいれば、有権者は行政情報を地方議員から聞く必要はない。地方自治体のホームページを閲覧し、首長のSNSをフォローすれば充分だ。

 しかも、SNS上では、政策に関して丁々発止の意見交換、時にはバトルも繰り広げられている。専門分野のプロフェショナルが首長に対して直接意見をする場合もある。議員を介さず、政策に関する情報を得ることができるのだ。

 そうなると困るのが議員たちだ。

・・・ログインして読む
(残り:約1284文字/本文:約3638文字)