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敵基地攻撃能力と防衛費倍増は、日本の安全保障を危うくする

「聞く力」を欠いた岸田政権に、野党は「ストレステスト」を

田中信一郎 千葉商科大学基盤教育機構准教授

専守防衛政策から抑止政策へ

 岸田首相は、年末までに安全保障関連3文書の改定を目指している。3文書とは「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略(防衛計画の大綱)」「防衛力整備計画(中期防衛力整備計画)」である。3文書を同時に改定するということは、外交・安全保障の基本方針から自衛隊の具体的な装備までを一気通貫で変更することになる。12月10日付の朝日新聞記事によると、12月16日の閣議決定を目指しているとのことであり、改定と本稿の発表とは前後している可能性が高い。

 その主たる論点は「敵基地攻撃能力の保有」と「防衛費の倍増」である。上記の朝日新聞記事によると、新たに「敵基地攻撃能力(反撃能力)」を保有することで「やむを得ない必要最小限度の自衛の措置として、相手の領域において、我が国が有効な反撃を加える」という。また、5年以内に「防衛力の抜本的強化」と「研究開発、港湾などの公共インフラ、サイバー安全保障、国際的協力の4分野」を合計した予算について、現行の2倍に相当する「国内総生産(GDP)の2%に達することを目指す」という。

 それらの理由として、中国、北朝鮮、ロシアの軍事的な脅威の高まりを挙げている。同じ朝日新聞記事によると、中国について「これまでにない最大の戦略的な挑戦」とし、北朝鮮について「従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威」とし、ロシアについて「安全保障上の強い懸念」との認識を示している。

 要するに、中国、北朝鮮、ロシアが日本を攻撃する可能性が大きく高まっているので、従来の安全保障政策を大きく転換し、大幅な強化をするという。これは「敵基地攻撃能力を保有しない」「防衛費のGDP比1%程度」という「専守防衛政策」から脱却し、周辺国を攻撃する能力を背景に脅威を抑え込もうという「抑止政策」への実質的な転換となる。防衛費のGDP比2%への増加も、抑止政策を有しているNATO(北大西洋条約機構)を意識したものである。

 こうした岸田首相と政府与党の認識の基盤となったのは「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」の報告書である。これは、佐々江賢一郎・元外務事務次官が座長を務めた10名による岸田首相直属の組織で、11月22日に報告書を公表している。

 そこで、本稿ではこの報告書を元に、専守防衛政策から抑止政策への転換について、日本の安全保障を強化するものか否か、論じる。なお、筆者は公共政策を専門とし、軍事や憲法を専門としないため、もっぱら政策的観点から論じる。軍事や憲法の専門家からも、積極的な議論が行われることを期待したい。

「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」で発言する岸田文雄首相(前列左から2人目)=2022年11月9日、首相官邸「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」で発言する岸田文雄首相(前列左から2人目)=2022年11月9日、首相官邸

国債増発による防衛費増は安全保障を危うくする

 報告書は、歳出カットと増税によって、防衛費増の財源とすべきと提言している。「財源確保の検討に際しては、まずは歳出改革により財源を捻出していくことを優先的に検討すべき」「足らざる部分については、国民全体で負担することを視野に入れなければならない」と述べ、国債を財源とすべきでないとしている。

 歳出カットと増税を財源とする理由は、安全保障のためとしている。報告書は「国際的な金融市場の信認を確保することが死活的に重要」「安全保障上のツールとして金融制裁を活用するケースが増えてきており、金融市場に強いストレスがかかった際、有事における我が国経済の安定を維持できる経済力と財政余力がなければ、国力としての防衛力がそがれかねない」と、国債増発を防衛費増の財源とすることが、逆に安全保障を危うくすると指摘している。

 そうであれば、日本経済と国民生活に負担を強いてまで、専守防衛政策から抑止政策に転換することが、安全保障の状況を改善するか否かが、最重要の論点となる。たとえ防衛力が強化されるとしても、反比例して国力が低下すれば、安全保障の状況は総合的に悪化するかもしれない。あるいは、脅威と名指しされた周辺国等が日本に対応してさらなる軍拡を進めれば、相対的に見て、安全保障の状況は悪化するかもしれない。

 しかし、報告書は、

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