「消費税は預り金」という“壮大な虚構”が日本社会に停滞をもたらした
「転嫁」できない中小企業に重い負担を課し、輸出産業を優遇
郷原信郎 郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士
物価高対策として消費税減税を求める声は、政府に無視される一方、来年10月に予定されているインボイス(適格請求書)制度によって、消費税免税事業者は、適格請求書発行事業者の登録をして課税事業者となるか、仕入れが「消費税の仕入税額控除」の対象外となる免税事業者にとどまることで仕事を失うリスクを覚悟するか、困難な選択を迫られている。
2019年10月に8%から10%に引き上げられた消費税率が、今後さらに引き上げられる可能性も取り沙汰されている。

インボイスの登録を呼びかける京都・祇園の舞妓ら=2022年10月13日、京都市東山区
こうした中で、1989年に3%の税率で導入されて以降30年余の間、国民のほとんどが、当たり前のように信じてきたのが「消費税は預り金」という説明だ。
しかし、少なくとも消費税法の規定からは、消費税を「預り金」と解する余地はない。過去の訴訟では、政府側が、「消費税は取引の対価の一部であり、預り金ではない」と主張し、裁判所もそれを判決で認めている。
経済評論家の三橋貴明氏、藤井聡京都大学教授や、一部の税理士などから、「消費税は預り金ではない」という指摘が行われているが、新聞、テレビなどの大手メディアで、そのような話が取り上げられることはほとんどない。
「消費税は預り金」だという認識は、1988年の消費税導入の際から、国民に受け入れさせようとする大蔵省(当時)・国税当局が行ってきた「キャンペーン」によって生じたものだ。
消費税は、バブル景気の最後の時期に導入され、その後、バブルの崩壊による長期化するデフレ不況下で引き上げられ、第2次安倍政権下でさらに引き上げられる中で、「消費税は預り金」という、法律上は誤った認識が、様々な影響を生じさせてきた。
「消費税は預り金」との認識によって生じている影響を、今、改めて問い直す必要がある。それは、インボイス制度の導入の是非という当面の問題だけではなく、消費税を今後どうしていくのか、という根本的な議論においても欠くことができないものだ。