解放闘争を主導したアフリカ民族会議もついに過半数割れか
2022年12月20日
2020年、南アフリカのラマポーザ大統領所有の農場で58万ドル(約7830万円)の窃盗事件が発生した(なお未申告の資金総額は数百万ドルに上るとの見方も)。それを調べていたフレイザー元国家安全保障局長官は、同氏が未申告の現金の存在を隠すため事件を隠蔽したとして告発、それを受け、調査を開始した独立委員会が11月30日、その結果を公表。ラマポーザ氏は憲法、反汚職法に違反した可能性があるとしたことから大きな問題に発展した。
ラマポーザ氏が所属するアフリカ民族会議(ANC)が同氏支持に回ったことで、ラマポーザ氏は引き続きANC議長と大統領の職に止まる見込みだが、なお、現金の出所はどこか、何故農場邸宅内のソファーに現金を隠していたか、何故事件の隠ぺいを画策したかなど不明な点が多く、事件は今後も尾を引いていく模様だ。
しかし、問題はラマポーザ一人の問題でない。これによりANCが受けたダメージは大きく、今後、南アフリカ政治の構図そのものが変わっていくかもしれない。2024年の総選挙で、与党ANCが過半数を失うのではないかと見られるからだ。
ラマポーザ氏は前任のズマ大統領の後を受け、2018年、大統領に就任した。南アフリカは、ズマ氏の治世約9年の間大きく揺れ動いた。それまで新興国の一角として国際社会の注目を集めていた同国だったが、ズマ氏の大統領就任と共に経済が低迷、2014年以降は成長率が2%を超えることがなく、新興国としてのかつての勢いは今は昔だ。何より、ズマ氏の9年を特徴づけたのは続々と発覚する多くの汚職事件だった。
結局、2018年、ANCの最高意思決定機関である全国執行委員会がズマ氏を罷免することを決定し、ラマポーザ氏が後任の大統領に就任した。ラマポーザ大統領には、国民のANCに対する不信の払拭と、汚職が蔓延する南アフリカ政治の浄化が期待された。
ラマポーザ氏が国民の期待を集めたのには訳がある。同氏は、あのマンデラ元大統領が自らの後任にと考えた意中の人物だったからだ。
ラマポーザ氏は労組指導者として活躍するうちめきめきと頭角を現していったが、なかんずく同氏の活躍が注目されたのがアパルトヘイトから民主化への移行に際しての交渉だ。白人政権との交渉は困難を極めたが、ラマポーザ氏はマンデラ氏と共に交渉の任に当たり、見事これをまとめ上げた。続く憲法制定会議でも議長として主導的役割を果たし、その存在を国民に強く印象付けた。
当然、マンデラ大統領の後はラマポーザ氏が継ぐと見られたが、権力闘争が起き、ターボ・ムベキ氏が後任大統領の座を射止めた。敗れたラマポーザ氏は政界を去り実業界に転じたが、持ち前の才覚を発揮し巨万の富を築くまで多くの時間はかからなかった。
その後2012年、政治への未練断ちがたく政界に復帰、ズマ政権の下で副大統領になり、2018年、晴れて大統領の座に就いた。誰もが、ラマポーザ氏こそマンデラ元大統領の精神を受け継ぎ、南アフリカの再建にうってつけの人物と見た。
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください