定住旅行家が見たかつての大国ポルトガルの今
2022年12月18日
筆者は、世界各地の家庭に一定期間滞在し、生活を共にしながら、その地の暮らしや文化を発信する「定住旅行」をライフワークとしている。その一環として、新型コロナウイルスの感染が収まりつつあった今年の5月からおよそ1カ月半、南欧のポルトガルに滞在した。
ポルトガルはヨーロッパのイベリア半島、ユーラシア大陸最西端に位置する国。西と南は大西洋に面しており、かつての大航海時代には、大西洋の先のまだ見ぬ土地を目指して、ヨーロッパでもいち早く海外進出をした歴史を持つ。
しかし、現在のポルトガルにはかつての大国の面影はなく、経済的にはすっかりEUに依存した状態が続いている。そんななか、この国の将来を担う20代の若者たちは、どのような価値観を持ち、どのような暮らしを営んでいるのか。首都リスボンに生きる若者と共に暮らして見えてきた実相を2回にわけて報告する。
※連載「定住旅行家・ERIKOの目」のこれまでの記事は「こちら」からお読みください。
ポルトガル帝国が19世末までに領有した土地や海域は、世界のおよそ半分を占め、植民地は世界に広がっていた。その名残で、現在でもブラジル、アフリカのギニアビサウ、カーボヴェルデ、サントメー・イ・プリンシペ、アンゴラ、モザンビークでは、ポルトガル語が公用語として用いられている。
また、ポルトガルはアジアの国々とも歴史的関係が深い。日本、中国、マカオなど東アジアと最初に接触を持った国でもある。来年2023年は、ポルトガル人が日本へやってきて480周年にあたる。徳島市とレイリア市、長崎市とポルト市など国内8都市がポルトガルの都市と提携を結んでおり、さまざまなレベルでの交流が行われている。
ただ、現在のポルトガルにかつての勢いは見られない。国内の主な産業は機械類、衣類、コルク製造などの製造業と観光業であり、経済的にはすっかりEUに依存している。
先述したように、筆者は今年の5月から6月にかけ、ポルトガル国内で定住旅行を行った。今回、この国を定住旅行先に選んだのは、古くから日本と関わりがあること、そしてかつての大国が今、どのようになっているか興味を惹かれたからだ。
ポルトガルでは、南西に位置する孤島マデイラ島、中部のベイラ・バイシャ州、首都のリスボンの3カ所で現地の家庭に滞在した。ポルトガル人に対して「ラテン民族でフレンドリー」というイメージを持っていた筆者だが、実際には現地で受け入れてくれる「家庭」を探すのには、これまででもっとも苦労した。
現地で生活してみて分かったことだが、ポルトガル人は親切で人当たりが良く、外から来た人間に対して「おもてなし」の心で接してくれる。しかし、そこから一歩、プライベートへ踏み込もうとすると、閉鎖的な態度をとる傾向がある。相手を信頼し、心を開くまでには、一定の時間が必要なのだ。
首都リスボンには6月下旬から約1週間ほど滞在した。ポルトガル全人口のおよそ27%、約303万人がこのリスボン都市圏に暮らしている。ヨーロッパの首都の中で唯一、大西洋岸に位置し、歴史はロンドン、パリ、ローマより古い、西ヨーロッパ最古の都市である。
リスボンは政治、金融、貿易などの中心地であると同時に観光地としても人気が高く、南ヨーロッパ諸国の中では7番目に多くの観光客が訪れている。気候も良く、夏の暑い日でも涼しい海風が吹くため、エアコンなしでも快適に過ごせる。
筆者は、リスボンの街を初めて歩いた時、過去に暮らしていたアルゼンチンの首都ブエノスアイレスにいるような錯覚に陥った。歩道と車道の間隔や建物の高さと雰囲気、白と黒の玉石で舗装された歩道がそう感じさせたのかもしれない。初めてなのに懐かしい。それがリスボンから受けた印象だった。
「定住」させていただいたのは、20代後半の若者、マリアとカロリナのアパートだ。それは、リスボンの中心街から電車で15分ほど離れた「カシーアシュ Caxias」という郊外にあった。
ポルトガル国内では、30歳未満で一人暮らしをする若者はほとんど見かけない。それは、リスボンなどの大都市に限らない。マリアやカロリナのように、家をシェアするか、親元で暮らす人たちが大半を占める。
理由は大きく二つある。一つは、社会人であっても、収入と支出のバランスが取りづらいことだ。
例えば、現在彼女たちが暮らすアパートは、都心から離れた郊外の3LDKで、月の家賃は800ユーロ(約11万2000円)。それに対し、若者の平均月給のほとんどは、ポルトガルの最低賃金(822ユーロ)に近い800ユーロ前後である。これでは、とても一人では暮らせない。
一般的に、収入が上がって安定する30代の半ばぐらいまで、友人などと家をシェアするか、親元にいて家賃を倹約する若者がほとんどである。
もう一つの理由としては、
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