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自分はヨーロッパ人というリスボンの若者たち~変わりゆくアイデンティティ(前編)

定住旅行家が見たかつての大国ポルトガルの今

ERIKO モデル・定住旅行家

西ヨーロッパ最古の都市リスボン

 首都リスボンには6月下旬から約1週間ほど滞在した。ポルトガル全人口のおよそ27%、約303万人がこのリスボン都市圏に暮らしている。ヨーロッパの首都の中で唯一、大西洋岸に位置し、歴史はロンドン、パリ、ローマより古い、西ヨーロッパ最古の都市である。

 リスボンは政治、金融、貿易などの中心地であると同時に観光地としても人気が高く、南ヨーロッパ諸国の中では7番目に多くの観光客が訪れている。気候も良く、夏の暑い日でも涼しい海風が吹くため、エアコンなしでも快適に過ごせる。

 筆者は、リスボンの街を初めて歩いた時、過去に暮らしていたアルゼンチンの首都ブエノスアイレスにいるような錯覚に陥った。歩道と車道の間隔や建物の高さと雰囲気、白と黒の玉石で舗装された歩道がそう感じさせたのかもしれない。初めてなのに懐かしい。それがリスボンから受けた印象だった。

 「定住」させていただいたのは、20代後半の若者、マリアとカロリナのアパートだ。それは、リスボンの中心街から電車で15分ほど離れた「カシーアシュ Caxias」という郊外にあった。

拡大Caxias:マリアとカロリナが暮らすリスボン郊外の街「カシーアシュ」=2022年6月(撮影:エリコ)

一人暮らしは難しい若者たちの経済状況

 ポルトガル国内では、30歳未満で一人暮らしをする若者はほとんど見かけない。それは、リスボンなどの大都市に限らない。マリアやカロリナのように、家をシェアするか、親元で暮らす人たちが大半を占める。

 理由は大きく二つある。一つは、社会人であっても、収入と支出のバランスが取りづらいことだ。

 例えば、現在彼女たちが暮らすアパートは、都心から離れた郊外の3LDKで、月の家賃は800ユーロ(約11万2000円)。それに対し、若者の平均月給のほとんどは、ポルトガルの最低賃金(822ユーロ)に近い800ユーロ前後である。これでは、とても一人では暮らせない。

 一般的に、収入が上がって安定する30代の半ばぐらいまで、友人などと家をシェアするか、親元にいて家賃を倹約する若者がほとんどである。

 もう一つの理由としては、

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筆者

ERIKO

ERIKO(エリコ) モデル・定住旅行家

鳥取県出身。高校在学中、語学留学のためイギリス、アメリカ合衆国に滞在。高校卒業後、イタリア、アルゼンチン、ロシア、インドで語学習得のための長期滞在をきっかけに、様々な土地に生きる人達の生き方や生活を体感することに興味を抱く。スペイン語留学で訪れたアルゼンチンでの生活をきっかけに、ラテンの地と日本の架け橋になるという目的を持って、中南米・カリブ25ヶ国を旅した。モデルと並行し、「定住旅行家」として、世界の様々地域で、現地の人びとの生活に入り、その暮らしや生き方を伝えている。NEPOEHT所属(モデル)。著書「暮らす旅びと」(かまくら春秋社)、「たのしくてう~んとためになるせかいのトイレ」(日本能率協会)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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