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自分はヨーロッパ人というリスボンの若者たち~変わりゆくアイデンティティ(後編)

定住旅行家が見たかつての大国ポルトガルの今

ERIKO モデル・定住旅行家

ポルトガル料理離れが進む若者の食生活

 意外に思うかもしれないが、マリア、カロリナと一緒に暮らした1週間のうち、ポルトガル料理が食卓にのぼったのは、筆者が日本へ帰国する前日だけだった。彼女たちが日常的に食べていたのは、エスニック料理、イタリア料理、地中海料理がほとんど。日本の寿司が食べたいというので、寿司づくりを“伝授”したときには、彼女の友人たちも訪れ、熱心に「寿司レシピ」を習得しようとしていた。

 ポルトガル料理は、グルメな人にはたまらない、美味しい料理として有名である。しかし、現地の若者たちの間では、ポルトガル料理離れが進んでいるのだそうだ。理由を聞くと、こんな答えが返ってきた。

 「ポルトガル料理は美味しいし、決して嫌いなわけではないです。ただ、もともと大人数で食べるのに適した料理で、脂っこく、重たい料理という印象があります。私たちの世代は、インターナショナルな料理を好んで食べている人が圧倒的に多いです。今はネットでレシピも簡単に手に入るし、知らない味に挑戦する楽しさもあります」

 食事とは、すぐれてアイデンティティに根差すものだ。若者たちのこうした食習慣の変化は、彼らのアイデンティティが「ポルトガル」というものから、「ヨーロッパ」というものに遷移する流れを象徴するもののひとつであるような気がする。

拡大グリーンカレー。若者たちはエスニック料理や地中海料理が大好きだ=2022年6月、リスボン(撮影:エリコ)
拡大マリア、カロリナが住むアパートの共有のリビング。日常的に彼女らの友人がよく訪れる=2022年6月、リスボン(撮影:エリコ)

「言語スキル」を培った「字幕放送」

 食事のほかに、若者たちのヨーロピアン・アイデンティティを感じたのは言語である。

 リスボンに暮らす若者たちの多くは、実に流暢(りゅうちょう)に英語を解す。日常会話でも、時にポルトガル語と英語を混ぜて話しているのを耳にするほどだ。15歳以上の94%のバイリンガルというオランダと共通するのは、テレビや映画で「字幕放送」が普及しているという点である。

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筆者

ERIKO

ERIKO(エリコ) モデル・定住旅行家

鳥取県出身。高校在学中、語学留学のためイギリス、アメリカ合衆国に滞在。高校卒業後、イタリア、アルゼンチン、ロシア、インドで語学習得のための長期滞在をきっかけに、様々な土地に生きる人達の生き方や生活を体感することに興味を抱く。スペイン語留学で訪れたアルゼンチンでの生活をきっかけに、ラテンの地と日本の架け橋になるという目的を持って、中南米・カリブ25ヶ国を旅した。モデルと並行し、「定住旅行家」として、世界の様々地域で、現地の人びとの生活に入り、その暮らしや生き方を伝えている。NEPOEHT所属(モデル)。著書「暮らす旅びと」(かまくら春秋社)、「たのしくてう~んとためになるせかいのトイレ」(日本能率協会)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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