山下裕貴(やましたひろたか) 元陸将、千葉科学大学客員教授
1956年宮崎県生まれ。1979年陸上自衛隊入隊、自衛隊沖縄地方協力本部長、東部方面総監部幕僚長、第3師団長、陸上幕僚副長、中部方面総監などを歴任し2015年に退官。現在は千葉科学大学客員教授、日本文理大学客員教授。著書に『オペレーション雷撃』(文藝春秋)など。アメリカ合衆国勲功勲章・功績勲章を受章。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
厳しい国際環境を見据えた安保3文書を政治の責任で実効性あるものに
12月16日、政府は「国家安全保障戦略」、「国家防衛戦略」、「防衛力整備計画」の3文書を閣議決定した。新たな防衛政策の中で、特に反撃能力の保有は戦後の安全保障政策の大転換であり、それだけ我が国を巡る国際情勢が厳しいということだろう。読売新聞とギャラップ社の日米世論調査によると、防衛力強化に「賛成」する日本国民は68%で「反対」の27%を大きく上回った。日本にとって脅威と思う国は、ロシアと北朝鮮が82%、中国が81%である。中国が台湾に軍事侵攻した場合、米軍が防衛すべきだと思うが72%を占めている。この調査を見るに国民の安全保障に対する危機意識が高まっていることがわかる。
「国家安全保障戦略」の策定趣旨は「我が国が戦後最も厳しく複雑な安全保障環境の下に置かれている」からだとしている。情勢認識では、中国を「これまでにない最大の戦略的な挑戦」、北朝鮮を「従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威」、ロシアは「安全保障上の強い懸念」と位置付けている。
この厳しい安全保障環境の下、現状の自衛隊の防衛能力で日本の平和が守れるのか。これが今回の安保3文書策定のトリガーであった。16日夕の記者会見では「厳しい国際情勢の中、現状では自衛隊の防衛能力は不十分である」と岸田首相は言い切った。また平和を維持するには外交が重要なことは論をまたないとし、「外交の支えになるのが防衛力だ」とも補足した。反対派は「一方的な軍拡は緊張を招く」と批判するが、一方的に軍拡を行っているのは中国や北朝鮮であり、また「反撃能力は逆にリスク(相手の先制攻撃)を高める」との指摘は、相手を攻撃する能力を保有することは報復能力を持つこと、(リスクを減らす)抑止力を保有することであり筋違いだ。