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共産党は矛盾を強みに変えて「左側の自民党」をめざせ~徹底的な議論へ党首公選を

深くて広い矛盾を解決する手立てを見つけられたら国民からの支持も得られる……

松竹伸幸 編集者・ジャーナリスト

 共産党に党首公選の実施を求め、実施されれば立候補すると言う松竹伸幸さんの連載「共産党を変える!党員・松竹伸幸の挑戦」の最終回です。第1回「私、共産党の党首選に出ます!~『自衛隊活用論』を唱えてきたヒラ党員の覚悟」、第2回「小池晃書記局長のパワハラ問題で共産党は変わるか?~党首公選は絶好の機会」とあわせてお読みください。(論座編集部)

日本共産党本部=2021年7月17日、東京都渋谷区千駄ケ谷、朝日新聞社ヘリから

 この連載も第3回、いよいよ最終回。今回は、私が共産党をどんな政党にしたいのかについて論じたい。

 その前にひとつお知らせを――。

 いまや、ネットメディアの勢いは紙媒体を凌駕(りょうが)している。しかし、その事実に気づかない人は、私が「論座」の連載で共産党に党首公選を求め、実施されれば立候補すると述べていても、「現実から離れたネット世界からの遠吠え」と捉えているかもしれない。そこで、そんな読者にも私の思いを伝えるため、紙媒体にも登場することにした。

 来年(23年)1月19日、文春新書で次の本を刊行する。『シン・日本共産党宣言——ヒラ党員が党首公選を求め立候補する理由』 。関心のある方には、是非、手にとっていただければ幸甚です。

議員になるために入党する人はゼロ

 さて、本論に入る。「共産党が他の政党(宗教政党は除外して)と違うのはどこか」。まずは、この問いを立ててみよう。

 これには、いろいろな角度から答えることが可能である。とりあえず一つ挙げるとすると、他党は議員(国会であれ地方議会であれ)になりたい人が入ってくるが(そしてその政治家を支持する人も入ってくる)、共産党の場合、そんな人はほぼゼロであることを指摘しておこう。

 他の党は、はじめから政権獲得を意識した人の集合体である。そして、政権を獲得しようとすれば、多様な価値観を持つ人々(その価値観同士が衝突する場合も多い)を支持者にしなければならず、時として妥協をすることもいとわない。政党への帰属意識はあるが、政党を渡り歩く議員もいるのは、そうした現実のあらわれだ。

 これに対して共産党は、指導部は別にして、8時間働けば暮らしていける賃金水準にしたいとか、安心してかかれる医療制度にしたいとか、あるいは憲法9条を守りたいなど、自分の願いや理想を叶えようとしている人が、共産党の綱領や政策がそれに近いと感じて入ってくる。

難しい政権獲得との距離感

 自分が議員になってそれを実現しようとする志向はあまり存在せず(立候補するのは党から要請されたときだけだ)、共産党が政権に入らなくても理想の実現のために努力してくれるだけでもうれしいと感じる。他党のように、政権に近づくために別の価値観に妥協することには嫌悪感を抱き、それくらいなら野党のままでもいいと思う人も少なくない。

 ところが、共産党もやはり政党であって、理想の社会が到来するまで政権をとりにいかないという態度はとれない。いや、そういう態度を取ってもいいが、その場合、結党100年経っても政権を取れないという現実が、これからも続いていく可能性が高い。

 だから、多少は妥協してでも政権に近づこうとする人もいるのだが、そうすると理想と現実とのギャップに苦しむことになる。共産党はそういう矛盾に満ちた存在なのである。

共産党創立100周年を記念して講演する志位和夫委員長=2022年9月17日、東京都渋谷区、神沢和敬撮影

★連載「共産党を変える!党員・松竹伸幸の挑戦」のすべての記事は「こちら」からお読みいただけます。

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韓国の慰安婦や徴用工の問題を巡って

 実例を挙げよう。韓国の慰安婦や徴用工の問題である。

 これらの問題への共産党の基本的な態度は、韓国の当事者の訴えを全面的に支持し、その願いを実現しようとするものである。日本が韓国を植民地として支配したこと自体が違法行為だったのであり、それと結びついて生まれた慰安婦や徴用工が損害賠償を求めるのは当然であって、日本はそれに応えるべきというものだ。

 しかし、そういう主張をしているのは、共産党だけである。自民党はもちろん立憲民主党も、過去の植民地支配を違法だとみなしていないし、たとえその期間に日本が慰安婦や徴用工に損害を与える行為をしていたとしても、その種の問題は1965年の日韓基本条約と請求権協定で解決済みという立場である。

 自民党や立憲民主党が間違った態度を取っているのではない。植民地支配で先輩格の欧米諸国だって自分の過去の行為を違法だったと認めていないし、2国間で条約を結んでこの種の問題を処理した場合、解決済みになるというのが国際政治の常識である。一部に、国家が条約を結んでも個人の請求権は消滅しないという事例は生まれているけれども、国際法の世界でそれがトレンドになっているわけではない。

 それが政治の現実だから、国民多数の意識もそれに規定される。だから、共産党の主張をそのまま実現しようとすると、国際政治と国民意識の大変革が必要なのである。例えば、レーニンはロシア革命を成功させ、列強が植民地を分割した秘密協定を暴いて帝国主義世界を震撼させたが、そのような革命的な変革である。

現在の政治秩序を受け入れ、理想に近づく道を探求

 けれども、他方で共産党は、レーニンのような革命的手法と異なり、現実政治を一歩一歩変えるという立場もとっている。国民意識に依拠した立場である。そうすると、現在通用している政治の秩序、そこから生まれてくる国民の意識と大きく外れるようなことはできない。だが、その道を進むだけだと、共産党の存在意義はなくなる。

 こうした矛盾を抱える共産党にとって、政権獲得は脇において、つねに理想をかかげる政党、市民運動的な政党となる選択肢はある。しかし、政権をめざす政党として生き残りたいなら、共産党に求められるのは、この矛盾を受け止め、乗り越える道筋を見いだすことである。

 現在の政治の秩序を受け入れつつ、他の党や国民多数も合意できる道筋を一歩ずつすすんでいく。同時に、現実が少しずつ変わることで、やがては理想に向かっていける。そんな道筋である。

記者団の取材に応じる共産党の小池晃書記局長=2022年12月23日、国会

安保・自衛隊問題で股裂き状態に

 そうした道筋の解明がもっとも求められるのが、安保・自衛隊政策である。

 共産党が現在の安保・自衛隊政策のままでは、他の野党と政権をともにするような合意をつくることはできない。だからといって、安保・自衛隊をまるごと認めてしまっては、共産党の存在意義はなくなる。

 この間、共産党が「自衛隊活用論」を復権させたり、党としては自衛隊違憲論をとるが、野党政権では合憲という立場をとるなどと主張してきたのは、抱えている矛盾を解決したいという模索の一環なのだろう。

 しかし、こうした模索は成功せず、他の野党からは引き続き政権共闘の相手とはみなされず、党員からは理想を汚すことへの反発が強い。いわば股割きにあっているのが、共産党の現状である。

自衛の戦争は認めたマルクスやエンゲルス

 しかし、実は共産党の歴史のなかに、そこへの回答は存在する。

 たとえば、共産党の大先輩であるマルクスやエンゲルスがめざした共産主義社会というのは、最終的には国家権力をなくす社会であって、軍隊などの権力機関もなくなる社会であった。憲法9条の理想と同じである。けれども、現実の世界では国家権力が存在し、戦争も必ず起きる。

 そこでマルクスらはどうしたのか? 侵略には反対するが自衛の戦争は認めるということを、基本的な政策として打ち出して活動したのだ。

カール・マルクス

国際社会・国民意識の常識から外れた基本政策

 日本の共産党も戦後の長い間、社会党の「非武装中立」を批判し、「中立自衛」を基本政策としていた。憲法9条の存在が「自衛」政策の障害となるなら、それに手を付けることもいとわない態度を明らかにしていた。

 1994年に9条を将来にわたって堅持するという大転換を行い、私も強く支持しているのだが、世界には抑圧的な国家権力が存在し、安全保障環境が変わったわけではないので、「自衛」の大切さは堅持しなければならない。ウクライナの事態を見ても2014年にロシアがクリミア半島を侵略した際、ウクライナが自衛の反撃を行わず、国際社会も見過ごしたことが、ロシアを「さらに侵略しても大丈夫」という気持にさせたことは明らかだ。

 ところが、共産党の基本政策は「安保廃棄・自衛隊解消」のままである。「自衛隊活用」という言葉は使うが、それは政策として位置づけられておらず、国民から見離されないための言い訳のようなものでしかない。国際社会の常識、国民意識の常識から外れているのである。

「核抑止抜きの専守防衛」という「一歩」

 マルクスも戦後の日本共産党も、基本政策として自衛を重視することと、将来の理想として軍隊のない社会をめざすことは矛盾しないと考えていたのに、現在の共産党はそうではない。自衛隊を認めてしまったら、共産主義の理想、9条の理想は実現しないと思い込んでいるように見える。

 もちろん、安保と自衛隊をそのまま認めるというのでは、自民党や立憲民主党とどこが違うのかと問われることになる。だが、「一歩」ではあっても重要な変化をもたらす基本政策が必要だ。

 私はそれを「核抑止抜きの専守防衛」と名づけ、冒頭で紹介した『シン・日本共産党宣言』で提示した。読んでいただければ、この政策が日本の平和にとっても、日本の主権(対米従属解消)にとっても、大事な一歩になることを理解してもらえると思う。

『シン・日本共産党宣言』(文春新書)

自民党が長期政権を築いたワケ

 自民党が戦後長く政権の座にいられたのは、保守政党としての立ち位置を変えることはなかったけれども、多様な考え方を吸収し、幅広い国民の支持を得てきたからである。矛盾するものを共存させてきたのだ。

 よく言われることだが、岸信介首相が60年安保で革新勢力と対峙(たいじ)したあとは、池田勇人首相が所得倍増のスローガンで労働者層を取り込んでいった。佐藤栄作首相のもとでアメリカのベトナム戦争への協力を進めたが、田中角栄首相は老人医療費の無料化など社会民主主義的な制度も導入した。

 安倍晋三首相でさえ、右翼的なイデオロギーを隠すことはしなかったが、慰安婦問題で日本の「責任」を認め、全額を日本の税金で支出する基金をつくるという、かつての河野洋平官房長官談話を超える決断を行った。

最左派に安住せず、左派の批判を甘受する覚悟を

 共産党も、政権に近づこうとするならば、最左派であることに安住していてはいけない。左派の理想は堅持しつつ、中間層や右派の支持を得ることをめざし、「左側の自民党」になるくらいの覚悟が不可欠となる。

 もちろん、共産党の場合、政権をめざそうとすると、抱え込む矛盾は自民党よりはるかに深く広いものとなる。

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