共産党は矛盾を強みに変えて「左側の自民党」をめざせ~徹底的な議論へ党首公選を
深くて広い矛盾を解決する手立てを見つけられたら国民からの支持も得られる……
松竹伸幸 編集者・ジャーナリスト
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韓国の慰安婦や徴用工の問題を巡って
実例を挙げよう。韓国の慰安婦や徴用工の問題である。
これらの問題への共産党の基本的な態度は、韓国の当事者の訴えを全面的に支持し、その願いを実現しようとするものである。日本が韓国を植民地として支配したこと自体が違法行為だったのであり、それと結びついて生まれた慰安婦や徴用工が損害賠償を求めるのは当然であって、日本はそれに応えるべきというものだ。
しかし、そういう主張をしているのは、共産党だけである。自民党はもちろん立憲民主党も、過去の植民地支配を違法だとみなしていないし、たとえその期間に日本が慰安婦や徴用工に損害を与える行為をしていたとしても、その種の問題は1965年の日韓基本条約と請求権協定で解決済みという立場である。
自民党や立憲民主党が間違った態度を取っているのではない。植民地支配で先輩格の欧米諸国だって自分の過去の行為を違法だったと認めていないし、2国間で条約を結んでこの種の問題を処理した場合、解決済みになるというのが国際政治の常識である。一部に、国家が条約を結んでも個人の請求権は消滅しないという事例は生まれているけれども、国際法の世界でそれがトレンドになっているわけではない。
それが政治の現実だから、国民多数の意識もそれに規定される。だから、共産党の主張をそのまま実現しようとすると、国際政治と国民意識の大変革が必要なのである。例えば、レーニンはロシア革命を成功させ、列強が植民地を分割した秘密協定を暴いて帝国主義世界を震撼させたが、そのような革命的な変革である。
現在の政治秩序を受け入れ、理想に近づく道を探求
けれども、他方で共産党は、レーニンのような革命的手法と異なり、現実政治を一歩一歩変えるという立場もとっている。国民意識に依拠した立場である。そうすると、現在通用している政治の秩序、そこから生まれてくる国民の意識と大きく外れるようなことはできない。だが、その道を進むだけだと、共産党の存在意義はなくなる。
こうした矛盾を抱える共産党にとって、政権獲得は脇において、つねに理想をかかげる政党、市民運動的な政党となる選択肢はある。しかし、政権をめざす政党として生き残りたいなら、共産党に求められるのは、この矛盾を受け止め、乗り越える道筋を見いだすことである。
現在の政治の秩序を受け入れつつ、他の党や国民多数も合意できる道筋を一歩ずつすすんでいく。同時に、現実が少しずつ変わることで、やがては理想に向かっていける。そんな道筋である。

記者団の取材に応じる共産党の小池晃書記局長=2022年12月23日、国会
安保・自衛隊問題で股裂き状態に
そうした道筋の解明がもっとも求められるのが、安保・自衛隊政策である。
共産党が現在の安保・自衛隊政策のままでは、他の野党と政権をともにするような合意をつくることはできない。だからといって、安保・自衛隊をまるごと認めてしまっては、共産党の存在意義はなくなる。
この間、共産党が「自衛隊活用論」を復権させたり、党としては自衛隊違憲論をとるが、野党政権では合憲という立場をとるなどと主張してきたのは、抱えている矛盾を解決したいという模索の一環なのだろう。
しかし、こうした模索は成功せず、他の野党からは引き続き政権共闘の相手とはみなされず、党員からは理想を汚すことへの反発が強い。いわば股割きにあっているのが、共産党の現状である。
自衛の戦争は認めたマルクスやエンゲルス
しかし、実は共産党の歴史のなかに、そこへの回答は存在する。
たとえば、共産党の大先輩であるマルクスやエンゲルスがめざした共産主義社会というのは、最終的には国家権力をなくす社会であって、軍隊などの権力機関もなくなる社会であった。憲法9条の理想と同じである。けれども、現実の世界では国家権力が存在し、戦争も必ず起きる。
そこでマルクスらはどうしたのか? 侵略には反対するが自衛の戦争は認めるということを、基本的な政策として打ち出して活動したのだ。

カール・マルクス