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2023年を占う 国際関係の最悪のシナリオは回避できるか

米中首脳の判断と日本がとるべき戦略

田中均 (株)日本総研 国際戦略研究所特別顧問(前理事長)、元外務審議官

 2023年国際社会にとっての悪夢はウクライナ戦争が終わらず、悲惨な光景が繰り返されることだ。プーチン・ロシア大統領は非人道的で国際法を大きく逸脱する攻撃を続け、米国やNATOもゼレンスキー大統領のウクライナに軍事支援を続ける。ウクライナ国民の英雄的な行動は称賛されるべきだが、戦争を止めるのは指導者の役割だ。もしも米中関係が一層悪化し、中国がロシアとの結託に舵を切れば、分断される国際社会は構造的危機を迎える。

 もちろん直ちに世界戦争が起きるわけではなかろうが、東西冷戦時代を超えるブロック対立時代を迎える。グローバリゼーションがもたらした経済相互依存関係は崩壊し、気候変動などのグローバルな課題での国際協力も停止する。このような最悪のシナリオを止める力があるとすれば、それはバイデン米国大統領と習近平中国国家主席だろうが、果たして指導者は合理的な判断をするのだろうか。

拡大G20サミットを前に会談した習近平国家主席(左)とバイデン米大統領=2022年11月、インドネシアのバリ島、AP

中国は試練の一年になる

 中国についてみれば、共産党独裁体制と資本主義的経済運営、豊かになりつつある国民と共産党の締め付けの矛盾が指導者の方針転換を余儀なくさせるかどうかだ。ゼロ・コロナ政策への不満が中国全土に「白紙」デモ(表現の自由がないことを暗示する白紙を掲げたデモ)を生み、習近平総書記はゼロ・コロナ政策を一気に緩和せざるを得なくなった。

拡大中国政府のゼロコロナ政策への抗議デモで、白い紙を掲げる参加者。「我々は海外勢力ではない」との声も上がった=2022年11月27日、北京市

 この決定が感染者の増大を生むことは明らかだろうし、経済再生を妨げる結果となるかもしれない。圧倒的な経済成長を続けられればともかく、労賃の上昇や各種バブルを通じて成長率が下がらざるを得ず、米国が率いる経済圧力も含め習近平総書記にその都度方針の変更を迫るのだろう。その鍵は、おそらく本年3%程度まで下降する経済成長率の回復が可能かどうかにかかっているといえよう。

 中国は米国の強い圧力に屈することはせず、反転するかもしれない。先の党大会で人事面を中心に大きな不満を持つ勢力はいるのだろう。国民の不満に乗じ権力闘争が始まることは容易に想像することが出来る。習近平政権はナショナリズムを煽ることを選択するのかもしれない。ナショナリズムの行き先は台湾統一に向かったとしても不思議ではない。


筆者

田中均

田中均(たなか・ひとし) (株)日本総研 国際戦略研究所特別顧問(前理事長)、元外務審議官

1969年京都大学法学部卒業後、外務省入省。オックスフォード大学修士課程修了。北米局審議官(96-98)、在サンフランシスコ日本国総領事(98-2000)、経済局長(00-01)、アジア大洋州局長(01-02)を経て、2002年より政務担当外務審議官を務め、2005年8月退官。同年9月より(公財)日本国際交流センターシニア・フェロー、2010年10月に(株)日本総合研究所 国際戦略研究所理事長に就任。2006年4月より2018年3月まで東大公共政策大学院客員教授。著書に『見えない戦争』(中公新書ラクレ、2019年11月10日刊行)、『日本外交の挑戦』(角川新書、2015年)、『プロフェショナルの交渉力』(講談社、2009年)、『外交の力』(日本経済新聞出版社、2009年)など。 (Twitter@TanakaDiplomat)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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