星浩(ほし・ひろし) 政治ジャーナリスト
1955年福島県生まれ。79年、東京大学卒、朝日新聞入社。85年から政治部。首相官邸、外務省、自民党などを担当。ワシントン特派員、政治部デスク、オピニオン編集長などを経て特別編集委員。 2004-06年、東京大学大学院特任教授。16年に朝日新聞を退社、TBS系「NEWS23」キャスターを務める。主な著書に『自民党と戦後』『テレビ政治』『官房長官 側近の政治学』など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
「三つの失望」で支持率が低迷する岸田政権に予想される「三つの可能性」
年が明けた。2023年の日本政治の焦点は、岸田文雄政権が持つのか、そして日本が抱える様々な課題は解決に向かうのか、である。
ロシア・ウクライナ戦争や米中対立の中で、岸田首相は防衛費の増額や原発の新増設などに踏み出したが、国民への説明不足がたたって内閣支持率は低下し続けている。日本経済再生の道筋も見えてこない。
1月からの通常国会、4月の統一地方選というハードルの中で岸田政権が倒れ、自民党が新たな総裁・首相を選ぶという事態になれば、政治の混乱は必至だ。その場合は、与野党を巻き飲んだ政治大乱の幕が開くだろう。
2022年、岸田首相を取り巻く環境は大きく変わった。ロシアがウクライナに侵攻し、日本もG7(主要先進国首脳会議)の一員としてウクライナへの経済支援などを進めた。中国の台頭に対して米国は同盟国と包囲網を強化。軍事、経済、ITなどの分野で米中対立は激化し、岸田首相も「防衛力を抜本的に強化する」と米国との連携を強調した。
日本国内では、安倍晋三元首相が銃撃されて死去するという衝撃的な出来事があった。岸田首相は有力な後見人を失った。安倍氏が率いてきた自民党最大派閥の安倍派(清和会)では後継の会長争いをめぐる綱引きが始まっている。
そうした中で、岸田内閣の支持率は大きく落ち込んだ。朝日新聞の調査では、内閣支持率が1月は49%で、5月には59%にまで上昇したが、その後は低下に転じ、12月には最低の31%となった。不支持率は57%で最も高くなった。原因は岸田首相に対する国民の「三つの失望」だろう。
「強権体質」が目立った安倍、菅義偉両政権に代わって登場した岸田氏には、「ハト派」「リベラル」への期待があった。岸田氏も人々の意見を書き留めた手帳を示して「聞く力」をアピールした。
この「聞く力」がまず、期待外れだった。安倍氏の「国葬」を国会にも諮らず、強引に決定。自民党安倍派など保守派の意向に配慮しての判断だった。
安倍氏を銃撃した山上徹也容疑者は、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に母親が多額の献金を続け、家庭が崩壊し、安倍氏が関連団体の集会にメッセージを寄せていたことを恨んでいたと供述。これをきっかけに、旧統一教会と自民党との癒着が大きな問題となった。
だが、岸田首相の対応は鈍かった。旧統一教会との関係が批判された山際大志郎経済再生相(当時)の更迭なども後手に回った。多額献金の被害者の声を「聞く力」は発揮されず、救済法案づくりは野党が先行した。
山際氏の更迭は閣僚辞任ドミノの引き金も引いた、葉梨康弘法相、寺田稔総務相、秋葉賢也復興相が次々と更迭され、10月から2カ月で4人の閣僚が辞めるという異常事態となり、岸田首相の求心力は一層低下した。