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岸田自民党の混迷で大乱の兆し~大きな分岐点にさしかかる2023年日本政治

「三つの失望」で支持率が低迷する岸田政権に予想される「三つの可能性」

星浩 政治ジャーナリスト

 年が明けた。2023年の日本政治の焦点は、岸田文雄政権が持つのか、そして日本が抱える様々な課題は解決に向かうのか、である。

 ロシア・ウクライナ戦争や米中対立の中で、岸田首相は防衛費の増額や原発の新増設などに踏み出したが、国民への説明不足がたたって内閣支持率は低下し続けている。日本経済再生の道筋も見えてこない。

 1月からの通常国会、4月の統一地方選というハードルの中で岸田政権が倒れ、自民党が新たな総裁・首相を選ぶという事態になれば、政治の混乱は必至だ。その場合は、与野党を巻き飲んだ政治大乱の幕が開くだろう。

取材にこたえる岸田文雄首相=2022年12月27日、首相官邸

国内外の環境激変、支持率低落の岸田政権

 2022年、岸田首相を取り巻く環境は大きく変わった。ロシアがウクライナに侵攻し、日本もG7(主要先進国首脳会議)の一員としてウクライナへの経済支援などを進めた。中国の台頭に対して米国は同盟国と包囲網を強化。軍事、経済、ITなどの分野で米中対立は激化し、岸田首相も「防衛力を抜本的に強化する」と米国との連携を強調した。

 日本国内では、安倍晋三元首相が銃撃されて死去するという衝撃的な出来事があった。岸田首相は有力な後見人を失った。安倍氏が率いてきた自民党最大派閥の安倍派(清和会)では後継の会長争いをめぐる綱引きが始まっている。

 そうした中で、岸田内閣の支持率は大きく落ち込んだ。朝日新聞の調査では、内閣支持率が1月は49%で、5月には59%にまで上昇したが、その後は低下に転じ、12月には最低の31%となった。不支持率は57%で最も高くなった。原因は岸田首相に対する国民の「三つの失望」だろう。

期待外れだった「聞く力」

 「強権体質」が目立った安倍、菅義偉両政権に代わって登場した岸田氏には、「ハト派」「リベラル」への期待があった。岸田氏も人々の意見を書き留めた手帳を示して「聞く力」をアピールした。

 この「聞く力」がまず、期待外れだった。安倍氏の「国葬」を国会にも諮らず、強引に決定。自民党安倍派など保守派の意向に配慮しての判断だった。

 安倍氏を銃撃した山上徹也容疑者は、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に母親が多額の献金を続け、家庭が崩壊し、安倍氏が関連団体の集会にメッセージを寄せていたことを恨んでいたと供述。これをきっかけに、旧統一教会と自民党との癒着が大きな問題となった。

 だが、岸田首相の対応は鈍かった。旧統一教会との関係が批判された山際大志郎経済再生相(当時)の更迭なども後手に回った。多額献金の被害者の声を「聞く力」は発揮されず、救済法案づくりは野党が先行した。

 山際氏の更迭は閣僚辞任ドミノの引き金も引いた、葉梨康弘法相、寺田稔総務相、秋葉賢也復興相が次々と更迭され、10月から2カ月で4人の閣僚が辞めるという異常事態となり、岸田首相の求心力は一層低下した。

岸田文雄首相に辞表を提出後、取材に応じる秋葉賢也復興相=2022年12月27日、首相官邸

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改善されない経済の実態

 第二の失望は経済である。

 アベノミクスで景気が回復したように見えた日本経済だが、金融緩和で一時的に円安・株高が進んだだけで、構造改革は進まず、生産性は上がっていない。賃金は伸び悩み、実質所得は先進国の中で最低ラインに沈んだ。

 岸田政権のもと、安倍・菅時代とは違う政策で日本経済が浮上するのではないか、貧富の格差は縮小するのではないか、社会保障の整備は進むのではないか。そんな期待があったが、実態は何も改善されず、物価高は進行した。岸田首相が当初、主張していた株売却益などへの課税を強化する富裕層増税は、株価が低迷したこともあって先送りされた。

 新型コロナウイルスの感染拡大は止まらず、ワクチン接種などの医療対策のほか、景気対策のための旅行支援なども続いた。コロナ関連の財政支出は増額90兆円に達し、そのほとんどが借金で賄われている。

 岸田首相が踏み出したのは、東日本大震災による福島原発事故以来、自民党が「低減をめざす」としてきた原子力発電の「活用」への転換だった。原発の運用期間の延長や新増設を進める方針を示したのだ。エネルギー危機に対応するのが狙いだというが、説明なき政策転換には批判が高まっている。

関西電力美浜原発は、建て替えの有力候補地と業界内でささやかれる=2022年9月16日、福井県美浜町、朝日放送テレビヘリから

説明不足のまま戦後防衛政策を「大転換」

 第三の失望は安全保障だ。

 岸田首相は中国や北朝鮮の軍備拡大に対応するため、今後5年間の防衛費をこれまでの27兆円から43兆円に増額すると表明。GDP(国内総生産)の1%程度に抑えられてきた防衛費を、5年後には2%にまで増やすという。年末に改訂した国家安全保障戦略などの安保関連3文書でも、敵基地攻撃能力を「反撃能力」と言い換えて、保有することも明らかにした。

 防衛費増額の財源は法人税などの増税に加え、東日本大震災からの復興のために新設した復興特別所得税を転用することになった。自民党内の反発もあって、増税の具体案は決まっていないが、「ハト派」の宏池会を率いる岸田氏が防衛費大幅増額に踏み出し、それも財源は増税だということが、国民の「失望」につながった。

 岸田首相は「防衛費増額の決定プロセスに問題はない」というが、説明不足は明らかだ。確かに、政府の安全保障会議をたびたび開催し、有識者による検討会も開催した。自民党の税制調査会で財源論議も重ねた。通常の政策なら、こうした手続きで法案や予算案の作成が進む。しかし、岸田首相も認めるように、今回は「戦後防衛政策の大転換」である。政策の説明も従来通りではなく、「転換」すべきだろう。

 戦後税制の大転換だった消費増の導入(1989年)の際、当時の竹下登首相は「辻立ち」と称して全国各地で説明会を開き、多くの疑問に首相自身の言葉で答えた。2005年に郵政民営化を成し遂げた小泉純一郎首相は、竹中平蔵氏を郵政民営化担当相や総務相に起用し、「広告塔」としてメディアで徹底的に説明させた。

 今回の防衛費拡大で岸田首相はそうした努力をしていない。国民の不満が募り、内閣支持率が低下するのは当然である。

安保3文書の改定などに反対する人たちが、衆議院第二議員会館の周辺に集まった=2022年12月15日、東京都千代田区永田町

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2023年の「三つの可能性」

 国民からすっかり「失望」されてしまった岸田政権は2023年、どうなるのだろうか。「三つの可能性」が浮かぶ。

丁寧な説明、野党の迫力不足で勢いを回復

 一つ目は、低迷から立ち直って勢いを取り戻す展開だ。

 防衛費増額自体は世論の過半数が支持しており、岸田首相の周辺は「国会で丁寧に説明すれば、国民の理解は得られるはず」と期待する。原発の新増設は緊急の課題ではないため、関連法案の提出などは先送りして夏の電力不足対策は火力発電を増やしてしのげばよい。

 野党も、立憲民主党は反撃能力保有には慎重だが、維新の会は前向きといったように、政策をめぐって必ずしも足並みがそろっておらず、政権批判の動きは強まらないだろうという楽観論も自民党にはある。さらに、経済対策の効果が出てくれば、政権にプラスに働くという見方もある。

 気掛かりなのは、岸田首相への批判が、政策の中身よりも説明不足に起因していることだ。これまでの言動をみる限り、岸田首相が国民に向かって十分な説明ができるようになるとは考えにくい。岸田氏への失望がにわかに解消され、支持率が急上昇する可能性は低いだろう。

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