まずは外交力強化のための有識者会議の設立を
2023年01月06日
政府は先月中旬に、「国家安全保障戦略」などの安全保障関連3文書を閣議決定し、2023年度から5年間の防衛費を現行計画の1.5倍以上となる総額43兆円とすることなどを盛り込んだ。これに対して野党及び多くのメディアは、「専守防衛に徹して軍事大国にならない」とした戦後の日本の防衛政策を大きく転換するものとして、厳しい批判を浴びせており、これは通常国会において最大の争点となると見られる。
この「国家安全保障戦略」を改めて読み直してみると、我が国の安全保障の確保に関し、圧倒的な重点が防衛力の整備に充てられていることが明白である。その反面、抑止力の効果を発揮して戦争が起きないようにするためには必要不可欠であるところの、外交面の成果を挙げるための外交機能の強化についての言及がほとんどないことには驚きを禁じ得ない。
さらに防衛に関しては、三つ目の文書である「防衛力整備計画」において、23年度から5年間での43兆円という数字の明記に加えて、その内訳である購入予定兵器の詳細なリストを列記しており、これでは安全保障についての車の両輪とも言うべき防衛と外交の両側面のバランスを著しく欠くものと言わざるを得ない。
「国家安全保障戦略」においては、文書の冒頭にある「策定の趣旨」において、「世界の歴史の転換期において、我が国は戦後最も厳しく複雑な安全保障環境のただ中にある。その中において……我が国の平和と安全、繁栄、国民の安全、国際社会との共存共栄を含む我が国の国益を守っていかなければならない。そのために、我が国はまず、我が国に望ましい安全保障環境を能動的に創出するための力強い外交を展開する」と明記している。
これは極めて至当な表現であるが、ほとんどのメディアは、「国家安全保障戦略」の要旨を報道するにあたって、外交に関するこの部分を割愛してしまった。
さらに、「我が国が優先する戦略的アプローチ」の国力の主な要素においては、第一に外交力(以下、2.防衛力、3.経済力、4.技術力、5.情報力)を掲げているが、その内容は、日米同盟の強化、周辺国(中国、北朝鮮、ロシア)との諸案件の解決に向けた取り組み、軍縮・不拡散、国際テロ対策などの諸項目の平板な記述に終始して、問題解決のために必要な体制の整備には全く言及がない。
このような状況では、国民の眼には、今般の安保関連3文書の閣議決定を受けて、今後5年間の防衛費整備が唯一最大の目的と受け取られても致し方ない。
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