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ウクライナ・習近平一強・ポピュリズム 我々は秩序破壊の挑戦を押しとどめられるか

進む社会の分断と重すぎる課題

花田吉隆 元防衛大学校教授

 秩序は「創造」と「破壊」を繰り返す。世界を見渡せば、2022年はさしずめ破壊の始まりの年だった。

 約30年前、冷戦が終結した時、世界は新たな秩序の到来をこぞって歓迎した。世界が分断され、核兵器を伴った第三次大戦がいつ世界を破滅の淵に追い込んでもおかしくない、そういう恐怖の時代が終わり、米国一強による新たな秩序が始まった。誰もがそう思い、新たな時代の幕開けを喜んだが、それから30年、最早それを信じる者はいない。

 既に、随分前から不吉な予兆を警告する論評が発表されていた。例えば、ドイツ高級紙のツァイト元編集長テオ・ゾンマー氏は、冷戦後の年月の中で現在ほど危険が増大したことはない、いつ秩序が崩壊の危機にさらされても不思議でない、と警告していた。

 2021年、米国のアフガニスタン撤退は、その作戦の不手際もあり米国の信頼を大きく傷つけたが、何より深刻だったのは、米国が世界秩序の維持にこれ以上コミットしないと宣言したことだ。

アフガニスタン南部の米軍基地で2021年5月2日、基地をアフガニスタン軍に引き渡す式典で、星条旗を下げる米軍兵士とアフガニスタン兵士ら=AP

 いうまでもなく世界秩序は力により保たれており、その力とは、米軍による睨みに他ならない。今後はアジアに注力していくとの釈明はあっても、米軍が中東から手を引けば力の真空は嫌がおうにも生じていく。案の定、その力の真空をつきロシアが動き出した。

ウクライナ侵攻と米国民の援助疲れ

 プーチン大統領にとり、ウクライナはいとも容易に片付くはずの問題だった。既に2008年、ジョージアに侵攻し、また2014年、クリミアを併合している。2022年のウクライナ侵攻はその延長線上のことで、短期間のうちに成果を上げ収束するはずのものだった。

 しかし、その目論見は見事に外れた。原因はウクライナの戦意の高さと西側の支援だ。ウクライナは汚職が蔓延し、ロシアが侵攻すればウクライナはすぐにも戦意を喪失するだろう。プーチン大統領に限らず、誰もがそう考えた。だが実際は、国土の死守を掲げ国民が一致団結して、非道の侵略に立ち向かった。ゼレンスキー大統領の活躍は刮目に値する。これを西側の軍事、経済支援が支えた。

 第2次大戦後、米国主導で作り上げた国際秩序は、力による秩序の一方的変更を禁じる。ロシアの侵攻は、これに対する明白な挑戦だ。これを放置しては秩序の維持が保てない。かくて西側はこれまでにない規模の経済制裁を決め、米国主導で軍事支援も始めた。これもプーチン氏にとり想定外だった。クリミア併合の時、西側は口先だけで終わった。ましてや米国の指導力は日に日に低下している。西側がまとまりロシアに対抗してくるなど考えられない、そう読んでいた。その読みも見事に外れた。

 もっとも、時を経るにつれ、要の米国で国民に援助疲れが見える。ウオールストリート・ジャーナル紙調査は、対ウクライナ支援を過剰とする者が6%(2022年3月11日)から30%(11月3日)に増えたとする。これこそがプーチン氏の狙いだ。エネルギー価格が高騰しインフレが高まれば、西側国民は必ずや音を上げる、もう少しの辛抱だ、とプーチン氏は思っているだろう。

 他方、ゼレンスキー氏にすれば米国の支援こそが頼みの綱だ。米国民が腰砕けになっては全てが水泡に帰す。かくて昨年末、危険をも顧みず、米軍機に守られながら米国本土に足を運び、議会に支援継続を直訴した。第2次世界大戦のチャーチルを彷彿とさせる。

2022年12月21日、ホワイトハウスを訪問したゼレンスキー大統領(左)と出迎えたバイデン大統領(右)=ワシントン、AP

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