地域政党で自立する地方議員を~樫野孝人「政治変革はどこから始まる?」【5】
2023年01月17日
リクルートから独立後、広島県で「おしい!広島県」、京都府で「もうひとつの京都」という企画に行政アドバイザーとして取り組む一方、かねてより志していた神戸市長に2度挑戦、地域政党神戸志民党を結党し、兵庫県議をつとめ、現在は政治をプロデュースする側に転進した樫野孝人さんが、日本の政治改革について論じる連載「樫野孝人『政治変革はどこから始まる?』」。最終回の第5回は、地方議員のあり方と地域政党についてです。(論座編集部)
連載・樫野孝人「政治変革はどこから始まる?」は「こちら」からお読みいただけます。
「なんもしてないやろ、7年間。立ち退きさせてこい、お前らで。今日、火をつけてこい。今日、火をつけて捕まってこい。燃やしてしまえ」
2019年、明石市の泉房穂市長は、道路工事を進められなかった市職員にこんな暴言を吐いた責任を取って辞職した。しかし、同市は9年連続で人口が増え、税収も増加。高校3年生までの子どもの医療費や保育料を無料化するなど、子育て世代への手厚い政策が市民に評価されて、出直し選挙で泉氏は圧勝した。
明石市議会(定数30)は現在、自民党(11人)と公明党(6人)で過半数を占め、市長と対立することも多かった。泉市長は、政策を引き継ぐ候補を市長選に立てるとともに、市議会で政策に賛同する市議を増やしたいと言う。
こう書くと、市長と議会が対立して最悪という印象を受けるが、私はそうは思わない。なぜか。
連載の第4回で書いたように、市長にモノを申す議会は非常に少ない。いわゆる“市長派”の与党になり、自分たちの政策に少しでも多く予算をつけてもらうために対立を避けているのだ。選挙の時に市長に「2連ポスター」の相手役になってもらい、「市長が応援している候補者」という見せ方で当選を狙っている議員さえいる。
本来、地方議会は二元代表制である。この制度は、立法府を構成する地方議員と行政の長である県知事や市長をそれぞれ住民の直接選挙で選ぶもので、国政の議院内閣制とは異なる。
二元代表制のもとでは、議員は法律や予算などを審議・決定する権限を持ち、執行は知事や市長が責任をもつため、立法権と行政権の分離がなされている。ダメな施策や予算を議会はいつでも否認できるという最終決定権は、議会が持っているのだ。
ところが、首長と同じ政策を掲げる“市長政党”の議員が議会内の多数を占めると、首長が提示した政策が地方議会で簡単に可決されてしまうため、議会がもっているはずの首長へのチェック機能が失われ、地方自治の基本である「二元代表制」が有名無実化する恐れがある。
また、首長政党が地方議会で3分の1以上の議席を占めると、首長の意思に反する条例案が可決されても、再議された際に離党や造反がないかぎり、3分の2以上で再可決できずに条例案が制定できない。また、首長政党が地方議会で4分の1以上の議席を占めると、離党や造反がないかぎり、首長不信任決議を可決できなかったりする。
私が所属していた兵庫県議会のように、予算も決算も50年以上否決されたことがない議会は全国どこにでもある。地域の元気がなくなってきたのは、首長の責任も大きいが、それを追認してきた与党議員の責任も同じくらい大きいだろう。明石市のように喧々諤々(けんけんがくがく)やり合っている方がまだ健全だと思うのは、私だけだろうか(もちろん議論の中身によるのだが)。
そういう意味で、地方自治の主体となる首長を改革派に変えていくのと同じくらい、市長や知事に忖度せず、議案ごとに「ダメなモノはダメ」と言える地方議員を増やしていくのはとても重要である。
「本議案に反対する議員は起立してください」と言われ、69人いる議場で、たった1人で起立して反対表明する際には、毎回背中がヒリヒリしたものだ。
議会は数が重要というのは、紛れもない事実だ。しかし、無所属議員や少数会派は仕事ができないのかというと、地方議会に関してはそんなことはない。
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