メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

甘利氏「消費増税検討発言」否定ツイート、政治家としての「言葉」が問われる

ツイートで釈明した「司会者とのやり取り」など、どこにも確認できない

郷原信郎 郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士

 政治家は、「言葉」によって有権者に政策を訴え、その「言葉」が支持され信頼されることで議席を獲得し、「言葉」で議会での論戦を行う。まさに、「言葉」は政治家にとって「命」というべきものだ。

 しかし、近年の政治の中で、その政治家の「言葉」が軽いものとなり、信頼性が失われつつあることは、多くの国民が認識しているところだ。

 2023年の年明け早々、その「政治家の言葉」をめぐって重大な問題が発生した。

 与党自民党の有力政治家である甘利明氏は、テレビ番組での自らの発言内容についての報道に関して、自らのツイッターの公式アカウントで「断片的事実を繋ぎ合わせる報道でミスリード」だと批判し、実際の「司会者とのやり取り」だとする問答を記載している。

 甘利氏の発言は、岸田首相が、4日の年頭の記者会見で打ち出した「異次元の少子化対策」の財源の問題に関して、5日夜に出演したBSテレ東の「日経ニュースプラス9」で行われたものだった。

 番組を放映したテレビ東京を始め、新聞各紙、NHKニュース等の報道では、甘利氏の発言は、以下のように報じられた。

 自民党の甘利前幹事長は、5日夜出演したBSテレ東の「日経ニュースプラス9」で「岸田総理大臣が少子化対策で異次元の対応をすると言うなら、例えば児童手当なら財源論にまでつなげていかなければならない」と指摘しました。

 そのうえで「子育ては全国民に関わり、幅広く支えていく体制を取らなければならず、将来の消費税も含めて少し地に足をつけた議論をしなければならない」と述べ、少子化対策を進めるための財源として、将来的な消費税率の引き上げも検討の対象になるという認識を示しました。(NHK

 岸田首相は、財源の話には触れなかったが、自民党の元税制調査会会長で、現在も顧問を務める甘利明前幹事長が、消費増税も検討の対象となるという趣旨の発言をしたことが一斉に報じられたことで、ツイッター上でも大きな反発を招いた。「消費増税の検討」がトレンドとなり、甘利氏自身の「政治とカネ」問題も含む批判で、炎上状態となった。

 年明けに、岸田首相が「異次元の少子化対策」などと大きくぶち上げたのに、その直後の甘利氏の「消費増税」発言で国民からの反発を受け、水を差された形になり、政府・自民党サイドは、鈴木俊一財務相は1月6日の閣議後会見で甘利氏の発言について、「将来の消費税について政府が具体的な検討はしていない」と述べ、 松野博一官房長官も同様に、「(消費増税に)当面触れることは考えていない」、世耕弘成自民党参議院幹事長も、ラジオ番組で「党の一部に『消費税で』という話もあったが、ちょっと拙速だ」と述べるなどと火消しに躍起になった。

 ところが、甘利氏は、7日夜、自身のツイッターを更新し、

 「テレビ出演の際の消費税に関する件ですが、要旨は以下の通りであり、真意を伝えず断片的事実を繋ぎ合わせる報道はミスリードです」

 と、以下のような「司会者とのやり取り」をツイートした。

拡大

拡大

司会「総理が異次元の少子化対策を明言しましたが財源は消費税でやるんですか?」

甘利「いや総理は消費税をひき上げる積もりはないと思います」

司会「ならどうするんですか」

甘利「色々やりくりをして行くんでしょう」

司会「将来に渡って消費税は上げないんですか」

甘利「将来消費税を引き上げる必要が生じた時には増税分は優先的に少子化対策に向けるべきとは思います」


筆者

郷原信郎

郷原信郎(ごうはら・のぶお) 郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士

1955年、島根県生まれ。東京大学理学部卒。東京地検特捜部、長崎地検次席検事、法務省法務総合研究所総括研究官などを経て、2006年に弁護士登録。08年、郷原総合コンプライアンス法律事務所開設。これまで、名城大学教授、関西大学客員教授、総務省顧問、日本郵政ガバナンス検証委員会委員長、総務省年金業務監視委員会委員長などを歴任。著書に『告発の正義』『検察の正義』(ちくま新書)、『「法令遵守」が日本を滅ぼす』(新潮新書)、『思考停止社会─「遵守」に蝕まれる日本』(講談社現代新書)など多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

郷原信郎の記事

もっと見る