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原発の新規建設は本気か? 政府が仕掛ける原子力大回帰~驚くべきGX基本方針

福島原発事故から12年の今年を原発をめぐる政策論争攻防の年に

竹内敬二 元朝日新聞編集委員 エネルギー戦略研究所シニアフェロー

 政府は「GX(脱炭素社会)の実現に向けた基本方針」を2月に閣議決定し、いくつかの法律を改正して原子力政策を大幅に変える。その内容は、「原発の寿命の60年超え」「再稼働の加速」「原発を新規に建設」など、国のテコ入れによる原子力のいっそうの推進。原子力重視路線への強引な回帰である。

 だが、これはいまの日本の多数意見とはいえない。福島原発事故から12年が経つ今年を、「いま回帰政策を選ぶときか」について議論する年にしたい。

拡大東京電力福島第一原発=2022年3月17日、福島県、朝日新聞社ヘリから

4か月の短期間であわただしく

 官邸に設置された「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」は、脱炭素社会実現をめざす政策、方針を議論する審議会だ。昨年7、8月の会議で原発を積極利用する方向性を示した。

 それを受け、9月から資源エネルギー庁・総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会が開かれ、原子力政策を議論した。それらの結果を持ち寄った12月のGX実行会議で、原発や再生可能エネルギーなどを含む全体方針「GX基本方針」が決まった。

 この基本方針で最も注目されているのが、原子力における積極策だ。ただ、そもそも原子力小委のメンバー21人のうち、批判派は2人しか選ばれていなかった。そして議論は4カ月ほどと短かった。

 GX基本方針は、十分な議論とは程遠い状況で決まったのである。

基本方針は原発推進派の「願望リスト」

 そのGX基本方針には、原発について以下のようなことが書かれている。

◇GX基本方針にある原子力政策(関係資料から筆者要約)

  1. 原子力を最大限利用する。原発再稼働を進め、電源構成で「2030年度に原子力比率20~22%」(第6次エネルギー基本計画の目標)を達成する。
  2. 原発の建て替え・新設も行う。新たな安全メカニズムをもつ次世代革新炉の開発・建設に取り組む。
  3. 研究開発や人材育成、サプライチェーン維持・強化への支援拡充。
  4. 「原則40年、最長60年」とされる原発の運転期間の延長を認める。
  5. 六ケ所再処理工場の竣工など核燃料サイクルを推進する。
  6. 放射性廃棄物など最終処分の具体化を進める。国主導で国民理解の促進。

 これは驚くべき一覧だ。まさに日本の原子力政策を停滞させている大きな問題について、推進派が「こうなって欲しい」と思ってきた「願望のリスト」であり、その停滞をすべて達成、解決しようというのである。

 確かに、国が予算と法律で原子力を支えれば、かなりのことができそうだ。とはいえ、やることの大きさとその強気に驚く。

 政府は原子力に関する新しい政策方針を、GX基本方針など四つの文書にまとめ、今年1月下旬を締め切りに、パブリックコメントにかけている。2月にはGX基本方針を閣議決定し、その後に必要な法律改正案を通常国会に提出する方針。それが通れば、上記の1~6の大目標を実現できる制度、態勢ができあがるという筋書きだ。

拡大GX実行会議=2022年12月22日、首相官邸

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筆者

竹内敬二

竹内敬二(たけうち・けいじ) 元朝日新聞編集委員 エネルギー戦略研究所シニアフェロー

元朝日新聞編集委員。現職は京都大学特任教授(経済学研究科)とエネルギー戦略研究所(株)シニアフェロー。朝日新聞で科学部記者、ロンドン特派員、論説委員、編集委員を務め、環境、原子力、自然エネルギーなどを担当した。温暖化の国際交渉、チェルノブイリ原発事故の疎開者の生活、福島原発事故を取材してきた。著書は「地球温暖化の政治学」「電力の社会史 何が東京電力を生んだのか」(いずれも朝日選書)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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