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台湾海峡を「平和の海」にするために~戦争は始まると終わらない

「現状維持」は「正解」ではないが「最適解」  経済的な枠組みを活用せよ

藤原秀人 フリージャーナリスト

 ――台湾有事は日本有事であり、日米同盟の有事でもある。

 中国と台湾の軍事衝突を念頭に安倍晋三元首相が唱え、側近だった自民党の萩生田光一政調会長らが受け継ぐ安全保障観である。岸田文雄首相が自国民にきちんと説明しないで決めた敵基地攻撃能力の保有や防衛費大幅増という安全保障政策の大転換にも影響している。岸田首相はしばしば「ウクライナは明日の東アジアかもしれない」と語る。これも名指しはしないが中国を意識しているに違いない。

 その岸田首相は1月13日にワシントンでバイデン米大統領との首脳会談に臨んだ。岸田氏が説明した防衛力強化策について大統領は称賛した。同盟国に軍事力強化を促して自国の抑止に組み込もうという「統合抑止」を掲げる大統領からすれば、評価するのは当然のことだ。

拡大首脳会談に臨み握手する岸田文雄首相(左)とバイデン米大統領=2023年1月13日、米ワシントンのホワイトハウス

日米共同声明から感じたこと

 共同声明には、「両首脳は、日本の反撃能力及びその他の能力の開発及び効果的な運用について協力を強化するよう、閣僚に指示した」と会談の成果が盛り込まれた。これに対し、日米中関係の難問である台湾問題については、「両国の基本的立場に変化はない」と述べたうえで、「両岸問題の平和的解決」を促すだけで、極めて素っ気なかった。

 平和的な台湾統一を掲げながらも、武力行使を放棄せず軍拡に励む中国。一方、日米は、平和的な解決を求めつつ、台湾有事への軍事的な備えを着々と進める。

 日米共同声明は「国際社会の安全と繁栄に不可欠な要素である台湾海峡の平和と安定を維持することの重要性を改めて強調する」と指摘するが、現実の日米中三国は「盾と矛」の強靭化に軸足を置き、台湾海峡を「平和の海」にしようという決意があるとは、私にはどうしても感じられない。

 軍事力を競い、互いに強めれば、抑止につながるとは限らない。米中間では軍用機同士の異常接近が伝えられる。2001年には中国南部の海南島付近上空で軍用機同士が接触し、中国機が墜落する事件もあった。重大事件だったが、発生後、半日近くも両国の対話ルートが動かなかった。軍事衝突のすべては予測できないことは、歴史が如実に物語る。

 ロシアのウクライナ侵攻を見ても分かるように、いったん開いた戦火は簡単には収まらない。台湾海峡では戦争の芽を摘み、地域の平和を確実にしなければならない。

「両岸問題」の変遷と背景

 現在の「両岸問題」は、中国大陸における中国共産党と中国国民党との内戦が発端だ。敗れた国民党の蒋介石総統は、台湾に逃れた後も大陸反攻の旗は死ぬまで降ろさなかった。それが、鄧小平の指導で改革開放に舵を切った共産党が平和統一を呼びかけるようになり、直接の戦闘はなくなった。

 蒋総統長男の経国氏は1987年に戒厳令を解除。経国氏の死去後まもなく総統になった台湾出身の李登輝氏は内戦の終結を宣言して民主化を進め、台湾独立志向の民進党との政権交代への道を開いた。中国とは民間レベルではあるが、実力者同士の会談を開き、対話の窓口機関を整備した。

 経済発展にまい進する中国大陸と台湾の交流は堰を切ったように盛んになり、台湾海峡は緊張をはらみながらも「通商の海」になり、「平和協定」の提案が中台双方から出されるようにもなった。中国の習近平国家主席は2015年、当時の馬英九総統と両岸分断後初となる首脳会談に臨み、「一つの中国」原則を確認したことがある。

 そんな台湾海峡が「緊迫の海」に戻った原因としては、強大化した中国の軍拡がまずあげられる。民主化の進む台湾は独自性をますます強め、大陸の共産党からすれば統一がさらに遠のくように映り、武力行使の備えを怠らない。それが日米などを刺激し反発を招き、価値観や体制の違いも強調されるようになった。台湾をめぐり日米中の関係は一触即発だ、という声まであがる。

拡大Tomasz Makowski/shutterstock.com

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筆者

藤原秀人

藤原秀人(ふじわら・ひでひと) フリージャーナリスト

元朝日新聞記者。外報部員、香港特派員、北京特派員、論説委員などを経て、2004年から2008年まで中国総局長。その後、中国・アジア担当の編集委員、新潟総局長などを経て、2019年8月退社。2000年から1年間、ハーバード大学国際問題研究所客員研究員。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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