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年内の総選挙は大いにあり得る~有権者の政治参画のあり方次第で変わる政権シナリオ

個人重視・支え合いの社会を実現するために必要な対話と漸進主義

田中信一郎 千葉商科大学基盤教育機構准教授

岸田首相の言葉の分かりにくさは、一貫性のなさの表れ

 2023年は、衆議院の解散総選挙が行われるかもしれない。

 直接的に引き金を引いたのは自民党の萩生田光一政調会長で、防衛費の財源として増税を求める場合、その前に総選挙が必要との発言を昨年末にした。これを受け、岸田文雄首相も防衛増税の前に総選挙が必要との見解を示した。こうした動きがあったため、新年の政治報道では解散総選挙の可能性が展望されている。例えば、朝日新聞は「衆院解散は最速「5月の広島サミット後」?」との記事を掲載している。

 筆者も、岸田首相が今年、解散総選挙に踏み切る可能性を十分にあると考えている。前回の総選挙は2021年11月で、衆院の任期4年からすれば年末近くになって折り返しとなり、通常であれば可能性は低いと考えられる。けれども、岸田首相の立場から考えれば、解散総選挙という選択肢は一定の合理性を持ちうる。

 その前提として「岸田首相が第二次安倍政権に匹敵する超長期の本格政権を最大の目標としている」との仮説を置く。政権の最大の目標については、首相が表明したとおりか、それとも本音を心のうちにしまっているか、当人以外に分かるものでない。例えば、安倍政権の場合、憲法改正を最大の目標としていた。そのことは、当人の発言からしても、景気浮揚を優先して、改憲への外堀を埋めていく政権運営からしても明らかであった。

部隊視察で10式戦車に乗車する岸田文雄首相=2021年11月27日、陸上自衛隊朝霞駐屯地、代表撮影 拡大部隊視察で10式戦車に乗車する岸田文雄首相=2021年11月27日、陸上自衛隊朝霞駐屯地、代表撮影

 岸田首相が政権の最大目標をどのように考えているか、国会演説等の言説からは分かりにくいが、その分かりにくさ故に、超長期政権を目標にしていると筆者は考えている。なぜならば、その分かりにくさは、言説や政策の一貫性の弱さから生じているのであり、一貫性の弱さは世論の反応を見ながら重点を変更しているためと考えられるからである。

 つまり、岸田首相は、どうすれば政権への支持率を高められるかという視点で、言説や政策を組み立てていると考えられる。もちろん、実際には支持率が低下しており、その意図は成功していない。だからといって、岸田首相の意図を読み違えているとはいえない。プーチン大統領もウクライナ侵略に成功していないが、その意図が侵略にあるのは明白である。

 そのような前提を仮説として置けば、岸田首相が認識する政権最大の問題が、低い政権支持率にあると導ける。朝日新聞の世論調査によると、岸田政権の支持率は発足当初、45%であった。2022年5月には59%に達したが、その後は低下傾向に転じ、2022年12月には31%まで下がった。同時に、不支持率が57%と大きく伸びた。自民党では、政権の支持率が低下すると、次の首相を目指す動きが起き、現在の首相を引きずり降ろそうとする力学が働きやすい。そのため、岸田首相が長期政権を目指すならば、支持率を回復させる必要がある。

 支持率を好転させる材料に乏しい岸田首相にとって、解散総選挙はそのためのほぼ唯一の手段である。なぜならば「支持率が高いと選挙に勝つ」という直観的な因果関係に反し、実際には「選挙に勝つと支持率が高まる」という傾向があるからだ。例えば、2017年7月に33%、直前の9月に36%と落ち込んでいた安倍政権の支持率は、10月の総選挙を経た直後の11月には45%まで上昇した。その後、翌年春に31%まで落ち込んだことを例外として、安倍政権の支持率は2年近くも40%前後で推移した。

 そのように考えると、岸田首相が年内に解散総選挙を打つことは不思議でない。首相には、総選挙の争点を設定しやすいという特性があり、野党の選挙準備が整わないうちに、有権者の関心が高く、野党の間で大きな違いのある政策を争点に総選挙を行えば、低い支持率でも勝てるという見込みが立つ。

 要するに、外交・防衛政策を争点に、広島サミット後などのタイミングで解散総選挙を行うことは、岸田首相にとって合理的な判断となりうる。岸田首相の打ち出した防衛費の大幅な増加は、主要な野党間で大きな違いがある上、プーチン大統領によるウクライナ侵略や広島サミットなどを受けて、安全保障に関する報道や関心が増加すると考えられる。むしろ、解散総選挙に照準を合わせて、防衛費の大幅増加を打ち出したのではないかと、うがった見方すらしたくなる。

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筆者

田中信一郎

田中信一郎(たなか・しんいちろう) 千葉商科大学基盤教育機構准教授

博士(政治学)。国会議員政策担当秘書、明治大学政治経済学部専任助手、横浜市地球温暖化対策事業本部政策調査役、内閣府行政刷新会議事務局上席政策調査員、内閣官房国家戦略室上席政策調査員、長野県企画振興部総合政策課・環境部環境エネルギー課企画幹、自然エネルギー財団特任研究員等を経て、現在に至る。著書に『政権交代が必要なのは、総理が嫌いだからじゃない』『信州はエネルギーシフトする』、共著に『国民のためのエネルギー原論』『再生可能エネルギー開発・運用にかかわる法規と実務ハンドブック』などがある。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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