山口 昌子(やまぐち しょうこ) 在仏ジャーナリスト
元新聞社パリ支局長。1994年度のボーン上田記念国際記者賞受賞。著書に『大統領府から読むフランス300年史』『パリの福澤諭吉』『ココ・シャネルの真実』『ドゴールのいるフランス』『フランス人の不思議な頭の中』『原発大国フランスからの警告』『フランス流テロとの戦い方』など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
ドイツの「レオパルド」、アメリカの「エイブラムス」に劣らぬ高性能なのに……
米国とドイツがウクライナに高性能の最新型戦車の供与を決めた。日本の識者には、フランスなど他のヨーロッパ諸国もウクライナに戦車を供与すると指摘する人もいるが、フランスは供与を決めていない。なぜか?
ドイツは1月25日、「苦渋の末に」(仏メディア)ショルツ首相がドイツの最新型戦車「レオパルド2A6」14両をウクライナに供与すると発表。ポーランドなど同型戦車を所有しているヨーロッパ各国に対し、同型戦車のウクライナ供与も承諾した。米国も最新型戦車「M1エイブラムス」31両のウクライナ供与を発表した。ドイツと米国が誇る最新型戦車は2月末か3月初旬にはウクライナに到着の見込みだ。
「レオパルド」は従来の重量型戦車と比較して軽量で使い勝手が良く、性能も優れていると言われる。小回りがきき、搭載の機関銃の標的への的中率も高い。走行中に機関銃を発射してもブレないとされる。
ヨーロッパでは同戦車を保有している国が多い。ウクライナのゼレンスキー大統領が特に名指しで「レオパルド」の供与を要求した理由もここにある。ポーランドのほかスペインや北欧などもウクライナに供与するとみられており、計139両の供与が確認されている(1月末現在)。
フランスは1月末現在、ウクライナへの戦車の「供与」を発表していないが、ボルヌ首相は1月26日、戦車供与について「(供与を含めて)何も排除しない。われわれは継続的にウクライナを支援していく」と言明した。そのうえで、「ルクレール戦車に関しては、軍事相(セバスティアン・ルコルニュ)と共に(供与に関する)分析を遂行していく」と述べ、供与の可能性を全面否定はしていない。
マクロン大統領もこれまで、自慢の最新型戦車「ルクレール」のウクライナ供与をほのめかしてきた。1月9日には小型の最新式戦車「AMX-10RC」のウクライナへの供与を表明している。
「ルクレール」は第二次世界大戦中、ドゴール将軍率いるレジスタン軍「自由フランス」で名を馳せたルクレール(※)の偉業を称えて命名された。フランス陸軍は代々の主要新型戦車は必ず「ルクレール」と命名しており、現在の「ルクレール」も数年前に開発された最新型だ。
※レジスタンスの英雄ルクレールの本名はフィリップ・ド・オートクロック。貴族の出身。ドゴール将軍の1944年6月18日のレジスタンスの「呼びかけ」に即、応じてロンドンに渡った。当時は陸軍大尉。妻と8人の子供が危険にさらされないようにルクレールと改名した。北アフリカ戦線で活躍した後、1944年6月6日のノルマンディー上陸大作戦に参加。パリ解放の日には歓喜の人並みで埋まったシャンゼリゼ大通りをドゴール将軍と並んで先頭で行進した。