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米国による中国の「偵察気球」撃墜から読み取るべきこと

大国間の関係は思っている以上にもろい

花田吉隆 元防衛大学校教授

 米領空内に飛来していた気球が2月4日、米軍の手で撃墜された。これに対し中国は強く反発、米中関係は一気に緊迫化した。一時、ブリンケン国務長官の訪中が計画され、両国関係に好転の兆しが見えたやに思われたが、それも霧消した。今の米中関係はそれほど脆い。当事者が思ってもいなかったちょっとしたことで関係が一気に冷却化する。大国間の関係は、細心の注意をもって管理していかねばならないことを表している。

 1月28日、正体不明の気球がアリューシャン列島付近の米領空内に侵入、アラスカ上空を横断し、カナダの領空を経て、1月31日、再び米国アイダホ州上空に飛来、2月2日、モンタナ州に侵入した後、サウスカロライナ州を経て大西洋上に出ていった。

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 米領空内は撃墜の際地上の人々に被害が及ぶ可能性があるとして様子を見ていた米軍は、気球が大西洋上沖合10キロまで到達したところを見計らい、戦闘機F22ラプターが発射したミサイルでこれを撃墜した。残骸は大西洋上の少なくとも半径11キロメートル、水深14メートルの範囲に散らばり、現在、米軍が回収作業を急いでいる。米軍によれば、作業は、何週間もかかることはなく、数日のうちに気球の正体が判明するだろうという。

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 既に、気球が中国から飛来したものであることは中国自身が認めており、米国とすれば、その性能がどの程度で、いかなる情報を中国に送信していたかに関心がある。中国は、気球は民間による気象研究用とするが、米国はこれを偵察目的と断定、後は、その確認をするだけということだ。

 不思議なのは、中国が何故このタイミングで気球を飛ばしたかだ。米中が関係改善の糸口を探ろうとしていた、まさにその矢先の出来事だ。そういう時を狙って、なぜわざわざ中国は気球を米領空内に飛ばしたか。中国は民間の気象研究用とするが、ではなぜ、その民間の関係者が名乗り出てこないか。結局、それらを考えあわせると、気球の飛来に中国軍が関係していた可能性が高いということになる。では、中国政府上層部、なかんずく習近平国家主席はそれを承知していたか。習氏はこのことを知らなかったのではないか、と見る向きも多い。それはそれで大きな意味を持つ。


筆者

花田吉隆

花田吉隆(はなだ・よしたか) 元防衛大学校教授

在東ティモール特命全権大使、防衛大学校教授等を経て、早稲田大学非常勤講師。著書に「東ティモールの成功と国造りの課題」等。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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