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台湾有事に備えてなすべきこと、あるいは、台湾有事を起こさぬために出来ること

フィリピンとインドを取り込む重要性

花田吉隆 元防衛大学校教授

 昨今、フィリピンといえば強盗殺人事件容疑者の送還に関心が向きがちだが、時を同じくして行われたフィリピンのマルコス大統領訪日こそが日本外交にとり重要だ。言うまでもない、台湾有事に向けての布石だ。台湾とフィリピンのルソン島北端とは360キロしか離れていない。フィリピンとの関係を強化しておくことが、台湾有事の際の対応、更には、台湾有事に至らぬよう中国に対する抑止を強化する上で何にも増して重要だ。

首脳会談を前に岸田文雄首相(右)と握手するフィリピンのマルコス大統領=2023年2月9日、首相官邸

フィリピンから中国へ睨みを利かせる

 2月9日、岸田総理とマルコス大統領は、自衛隊による人道支援や災害援助に関する包括的取り決め締結に向け検討を進めることで合意した。現状は包括的取り決めがないため、その都度、両国間で派遣する自衛隊の規模やフィリピン滞在時の法的地位を合意しなければならない。包括的取り決めの締結を通じて両国間の協力をより円滑化させるのが狙いだ。

 また、フィリピンの防衛力強化のため、既に日本から航空機、多用途ヘリ部品等を供与済みだが、これに加え警戒管制レーダー等の供与にも応じる方針だ。日本側は、幕僚協議、防衛政策対話などの日米比3カ国対話や自衛隊の米比共同演習への参加等、防衛協力の機会も増やしていきたいとする。

 米国もフィリピンとの関係強化を急ぐ。2月2日、米国のオースティン国防長官とフィリピンのガルベス国防相代行は、米軍のフィリピンにおける拠点をこれまでの5カ所から9カ所に増やす旨合意した。米比間には相互防衛条約はあっても米軍駐留についての取り決めはない。代わって、部隊が駐留せずローテーションで移動する「巡回駐留」が訪問軍地位協定(VFA)として取り決められている。その拠点が9カ所に増設される。

漁をするフィリピン人漁師(手前)と監視するように停泊する中国船(奥)=2016年12月、南シナ海のスカボロー礁付近

 具体的な場所は決まっていないが、ルソン島北部や南シナ海に面したところが候補地とされる。言うまでもない、米軍がハワイやグアムに駐留するのと、巡回駐留とはいえ、フィリピンから睨みを利かせるのとでは、中国に対する圧力が違う。9カ所の拠点は米軍の備蓄や補給の点でも重要だ。

 フィリピンは中国との間に南シナ海の領有権問題を抱える。前任のドゥテルテ大統領の時、フィリピンは中国への接近を図ったが、マルコス大統領は対米関係に軸足を移す構えだ。米国は、フィリピンからのアプローチを歓迎するとともに、同国を日米豪3カ国の防衛協力に引き込みたい考えだ。日米豪比の4カ国が連携出来れば中国に対する強力な陣容となる。

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